マキタスポーツ インタビュー
「芸能の神様は、女性かもしれない」
旬な俳優、女優、アーティストやクリエイターが登場し、「ONとOFF」をテーマに自身のクリエイションについて語る連載「Talks」。 vol.17はマキタスポーツにインタビュー。
俳優、文筆家と多彩な才能をもつマキタスポーツ。映画やドラマでも味のある名脇役として活躍し、『文學界』で小説を連載するなど多彩な幅広いジャンルに挑戦している。そのなか、マキタスポーツの友人(?)“ダークネス様”率いるヴィジュアル系バンド、Fly or Dieがアルバム『矛と盾』を発表。なぜ今ヴィジュアル系なのか、マキタスポーツに聞いた。
ずっとお化粧してみたかった
──俳優や、バラエティなど幅広く活躍されていますが、Fly or Dieはレーベル移籍して本格的にスタートしますね。
「そうですね。“音楽エンターテインメント”は僕の主軸の一つですが、それをさらに世の中に広めていきたいと思いますし、一番やりたいことでもあります」
──バラエティ番組『ゴッドタン』の企画「マジ歌選手権」から始まったFly or Dieですが、当初から本格的に活動する予定はあったのでしょうか。
「Fly or Dieの元となる“マキタ学級”というバンドで、ずっと音楽活動はしていたんですね。ヴィジュアル系についても、以前から興味はあったんですが、メンバーに『お化粧をしたい』とは言い出せなかったんです。でも、番組でそういう企画があり、ついにお化粧をする理由ができまして。そこに乗じたような感じです」
──ずっと、ヴィジュアル系に憧れを抱いていたんですね。
「なんとなくですが、バンド業界には“お化粧系”と“質実剛健系”という括りがあると思うんですよ、自分は何も考えず“質実剛健系”側にいたんですね。あるとき、LUNA SEAの真矢さんに『なぜお化粧をするようになったのですか』と聞いてみたんです。そうしたら『女の子にキャーキャー言ってもらうためにバンドを始めたんだから、お化粧は当然するものだと思っていた』と。なんてストレートなんだ、こういうことなんだ、僕も女の子に騒がれたくてバンドを始めたのに、周囲が“質実剛健系”だったから自分もそれに流されていたと気付いたんです。そういうこともあって番組の企画を機に、お化粧をしてみたという流れなんですね。バラエティ番組の企画だったので、お化粧もかなりゴテゴテした感じですし、僕の“ユーズド感”のある顔にムリヤリお化粧を乗せるわけですから、どうしても笑いの方向になってしまいますが、それでも僕の中に数ミリの陶酔感が生まれるんですよ。気持ちにブーストがかかるというか。『ゴッドタン』の『マジ歌選手権』は、“マジ”なことを歌うほうがむしろ間抜けで面白いという企画だから、その方がいいわけですけど、そうでなくても本気のほうが皆さんの耳目(じもく)に値するのではないかと思いました」
ヴィジュアル系はもっと自由な音楽
──様々な活動がある中で、あえて「Fly or Die」に本腰を入れようと思った理由は?
「音楽活動もバンドとしての実態もあったので、それを広い層に届けていきたいし、笑いが間口になることによって、これまで出会えなかった人に面白がってもらえるチャンスがあるかもしれない。そのためにヴィジュアルロックの様式を借りることは面白いんじゃないかと思いました」
──アルバム『矛と盾』の曲は、ヴィジュアル系ロックだけでなく、ヒップホップありポップスありと、バラエティに富んでいますが。
「今回のアルバムでは色んな曲調のものがありますが、ヴィジュアル系は音楽のジャンルというより、ある意味ビジネスモデルだと思うんです。だから、様式はあっても、その枠にいろんな要素を投げ込んでもいいはずなんです。実際に、打ち込みの音源を使用するバンドもいますし、ゴールデンボンバーさんみたいにカラオケを使ってメタ的(形而上的)にヴィジュアル系を表現するバンドもいる。ヴィジュアル系は自由なんです。僕らは元々バンドとして活動しているので、生演奏ならではの醍醐味も感じてもらえると思いますし、曲自体も皆さんに楽しんでいただけるものにしています。ジャンルを横断することに関しても、もともと僕はジャンルレスにサブカルチャーを体感してきたので、とくに矛盾はありません」
──マキタさんは4人のお子さんがいらっしゃいますが、お子さんたちの反応はいかがですか。
「上のお姉ちゃん(中学2年生)はよくライブに来てくれます。ということは嫌じゃないんだろうし、楽しんでくれていると思いますよ。下の子(小学3年生)は、最前列でヘドバン(ヘッドバンギング)してました」
夫婦円満の秘訣は「タコ殴りにあうこと」
──ところで、お忙しいマキタさんはプライベートな時間はあるんでしょうか。
「時間があったら、少しでも家族で何かするようにしてます。0歳の双子がいるので、洗い物なんかも手伝いますよ。ただ『俺は家事もやってやってるぞ』ということではなくひっそりと」
──家庭内でピリピリムードのようなことはありますか。
「ないですね。何かあったとしても僕は一方的にやられることにしています。ケンカの火種は、見つけようと思えばどこにでもありますしね。最近の僕の戦法としては『タコ殴りにあう』ですね」
──結婚生活は何年目ですか?
「14年目です。男はみんなそうかもしれませんが、若い頃はマザコンだったと思うんですよ。おふくろは常に喋っているような、口やかましいタイプの人で、過保護というか過干渉なところがありまして。もちろん大切にはしていましたが、おふくろを鬱陶しく感じるところもありました。それもあってか、『女の人は面倒くさい』と思っていました。しかし結婚してみると、奥さんの存在はおふくろどころではないんですね。お互い違う文化の者同士が暮らしていくわけですから。だからこそ、寛容さが必要なんだなと。お互いに不満を感じてはいけないというのが、一番ダメだと思うんです。お互いの不満を許し合うことで一緒に生活することはできますし、当然、情愛がしっかりある上でのことなので、それは育んでいきたいし。メンテナンスしていかないと、いつ壊れてもおかしくないものだと僕は思っています」
──それが「タコ殴りにあう」ということなんですね。
「まあそうですね。それから、芸能の神様は女性なんじゃないかと思うことがあるんです。以前は『女性や子どもだけにウケてちゃダメだ』と、笑いに対してマッチョな精神を妄信していた時代があったんですが、そうじゃないなと。女性は直感で良し悪しを判断できる人が多いと思うんですよね。
かれこれ10年以上前、奥さんと一緒にテレビでネプチューンの番組を見ていたんですね。僕は『“ネプチューン”の面白さの構造は、それぞれのキャラクターの力学がこうなって、設計図がこう配置されているから』と理屈で理解するんですが、彼女にすると『仲が良くて見ていて楽しいし、とにかくトキメク』と言うんですね。そういう女性が直感的に楽しいと感じるものとは何だろう、それに応えたいと考えるようになりましたね」
「みんなを楽しませる」という矛盾を言う覚悟
──奥さんと笑いのツボが違うなんてことはありますか。
「それはあまりないかな。感性が同じというのは大事かもしれませんね。そうでないと一緒にいられないかもしれない。ちょっと話がずれるかもしれませんが、奥さんとまだ友達だった頃、思春期の頃におぼつかないデートをした話をしてくれたことがありまして。デートの最中、道端に犬のウ○チが落ちていたのを見つけた瞬間、一気にその男の子を嫌いになったそうなんです」
──男の子には何の罪もないですよね。
「デートという二人きりのキラキラした世界に、犬のウ○チが存在したことで魔法がいっぺんに解けちゃった、ということを言っていて、この人は面白いことを言うなと思ったんです」
──それが二人の感性が合った瞬間だったんですね。
──マキタさんは下積みが長く、応援する水道橋博士から「才能が渋滞している」と言われていましたが、2012年『苦役列車』でのブルーリボン賞新人賞受賞をはじめ、ここ数年で渋滞が一気に解消されました。何がきっかけだったと思いますか。
「メンタル面が大きいです。以前は、世の中にどう思われようと関係ねえ!とツッパる反面、実はものすごく世の中に振り向いてもらいたかった。自分の思いがけないところで評価されても、そうじゃねえんだ!と思っていましたが、それを受け入れて、みなさんに承認していただく方が大きいと考えるようになりました。だから、わかる人にわかればいいというのは僕が忌み嫌いたい考え方です。
今の活動も、なるべく大勢の人に喜んでもらいたいというのが大きなテーマなんですね。誰もが楽しめるっていうのは、矛盾してますよね。様々な趣味嗜好がある中で、それは有り得ないわけですから。家庭においても“みんなが幸せ”というのは噓です。でもそれを噓だと言ってしまうと終わってしまう。だから“みんなが幸せに”という姿勢で家族に相対するし、“お客さん全員を楽しませたい”という矛盾を平気で言っていく。
大勢の人が楽しめるエンターテインメントを一生かけて追求していくことが一番難しいことだし、それにトライしないなんて虚しいかな、と。自分の本意でないところで感動されたり、ウケたりすることもありますが、それも受け入れて行くことで、マキタスポーツっていいよね、そこにいてもいいよねと思ってもらえるようになったんじゃないかと思います」
Photos:Yuji Namba
Interview & Text:Cosmos Hoshima
Edit:Masumi Sasaki