高橋文哉インタビュー「台本に印刷された自分の名前を見るのが好き」
旬な俳優、アーティストやクリエイターが登場し、「ONとOFF」をテーマに自身のクリエイションについて語る連載「Talks」。vol.117は俳優の高橋文哉にインタビュー。 今年4本の映画公開作、さらにドラマやバラエティと破竹の勢いで活躍を続ける俳優の高橋文哉。主演を務める映画『あの人が消えた』では、話題となったドラマ『ブラッシュアップライフ』を手掛けた水野格監督による、オリジナルミステリー作品に挑戦する。WEB小説のファンである配達員の丸子(高橋文哉)は、ある日、配達先のマンションで、“推し”である小説の作者らしき人物と出会う。そして同時に、怪しい人物とも遭遇して…。テンポよく進みながら複雑な展開を迎えるミステリー作品に、高橋文哉はどのように挑んだのか。また、4年ぶりの共演となった田中圭に対する想いも聞いた。
19歳のとき、主演としての全てを学んだ田中圭と再共演
──最初に脚本を読んだ時の感想を教えてください。
「この作品には『“先読み不可能”ミステリー・エンターテインメント』というキャッチコピーがありますが、まさしくその通りで、台本を読んでいても理解するのが大変でした。なので、オリジナルで脚本を書かれた水野監督の脳内はどうなっているんだと思いましたし、これを映像化したときにどうなるのか、すごく楽しみでした」
──田中圭さんとは4年ぶりの共演だそうですが、高橋さんにとって田中圭さんはどのような存在なのでしょうか。
「デビュー作『仮面ライダーゼロワン』の次に出演したのが、(田中)圭さんが主演の連ドラ『先生を消す方程式。』でした。なので、圭さんは僕がこの業界に入って初めて見た“主演像”でした。 そのとき、圭さんから盗めるものは全部盗みたいという気持ちだったので、現場の立ち振る舞い、周囲とのコミュニケーションの取り方、役への向き合い方など、たくさんのことを圭さんから学びました。
圭さんは挨拶の声がすごく大きいんです。現場に『おはようございます!』の声が響くと、現場がいい雰囲気になる気がして、僕も見習わないとと思っています。圭さんから学んだことは今もしっかり覚えているので、僕にとっては“再共演”以上の意味がありました。今回、またご一緒させていただくことになって、嬉しい気持ちと緊張感があったのですが、圭さんは、以前の圭さんのままで。『落ち着いたね』と言ってくださったことが、すごく嬉しかったですし、安心感がありました。今作は自分が主演だから周りを引っ張って行くという気負いを一旦忘れて、圭さんに甘えさせていただきました」
──配送会社の先輩、荒川役の田中圭さんとのやりとりは絶妙なタイミングでした。監督を交えて打ち合わせしたのでしょうか。
「何の相談もしていません。荒川と丸子の関係は、どこか僕の圭さんに対する気持ちと似ているんです。僕は圭さんに対して圧倒的な信頼感がありますし、圭さんも僕のことを多少は認めてくださっているような、そんなお互いの空気感で演じることができました」
──圭さんから学んだ周囲とのコミュニケーションとは、どのようなものですか。
「現場で自分が困った時に、スタッフさんに助けを求めることができる状況を作っておくことは、とても大事なことだと思っているんです。この作品は丸子が主軸となって物語が動きます。丸子がマンションの部屋を訪問して話をすることで、状況がどんどん変わっていきます。撮影もほぼ丸子が中心なので、僕が現場の空気を作る役割を担っているんじゃないかと。なので、監督やカメラマンさん、スタッフさんと、仕事やプライベートのこと、いろんな雑談をして一体感を大切にするようにしていました」
──監督は、『ブラッシュアップライフ』を手掛けた水野格さんです。今作のストーリー展開は複雑ですが、現場ではどのような指示がありましたか。
「特に厳しいことはありませんでした。監督の指示が的確なんですよ。なので、演じていて心地よかったですし、安心感がありました。ただ、他の俳優さんが困惑されていたようです。終盤に、僕以外の俳優さんが大変なシーンがあるんですね。それがどこかは、ぜひ作品をご覧になって推理してみてください」
──丸子という人物をどう捉えましたか。
「水野監督とも相談して、丸子は可愛げのあるおっちょこちょいではなく、ただダサい人にしようということになりました。ラーメンの食べ方ひとつ、家にひとりでいるときのメガネの位置、小説を読みながらおにぎりを頬張って、それを水で流し込んで、ひとりで笑ってるような人物です。そんなダサい雰囲気を出せたらと、監督と話していました」
──完成した作品を観た感想は?
「面白かったです! もちろん結末がどうなるかは知っているわけですが、現場では笑えるシーンだと思っていたら実はシリアスなシーンだったり、映像として繋がるとこうなるんだという驚きがありました。結末に至る過程も面白かったですし、終わり方もよかったです。ひとりの観客として素直に面白かったです」
──俳優としても満足のいく作品になりましたか。
「どの作品もそうなのですが、自分の演技に対しては、もっとやれたんじゃないかと批判的に観てしまうんです。でも、観客としてはとても面白かったです」
買い物は断然ネットショッピング! 転生するなら小鳥に
──今回、演じた丸子は宅配の配達員ですが、普段、宅配はよく利用しますか?
「たくさん利用しています。基本的にネットショッピング派なので、日用品も家電、家具、服、あらゆるものを届けてもらっています」
──丸子を演じて、配達員への印象は変わりましたか。
「実はこの役をいただいてから、今まで置き配にしてたものを、あえて対面受け取りに変更したんです。ずっと置き配を利用していたので、宅配の会社によっては受け取りのサインが不要なことも知らなかったんですよ。それから、受け取りの日時指定をして、その日、インターホンが鳴ったらすぐには出ずに、配達員さんがどんな動きをするのかモニターで少しだけ観察していました。配達員さんによっては、あたりを見回している人もいれば、じっとインターホンのカメラを見つめている人もいて。丸子だったらこうかなと演技の参考にさせていただきました」
──服もネットで購入するんですね。
「お店で服を買うことは少ないですね。衣装で着たものをそのまま買い取らせてもらったり、あとはネットで。お店で服を吟味する時間が得意じゃないんです。ものすごく即決型で、例えばTシャツが欲しくてお店に入ったら10分で買い物が終わります。だいたい『こういう形でこの生地感で』というイメージがあるので、全部バーっとみて、これだと思うものを購入します。それにめったに試着しないんです。自分のものではないのに袖を通すのは申し訳ないし、試着せずに買ってピッタリだったときの気持ちよさもありますし」
──そこまでイメージが固まっているなら、ネットで十分ですね。
「サイズ感が想像と違ったなんてこともありますけど、もう大体見てわかるようになりました」
──劇中、丸子が推しているコミヤチヒロのWEB小説が転生ものでしたが、ご自身がもし転生するとしたらなりたいものは?
「小鳥です」
──小鳥、ですか?
「空を飛んでみたいということもありますが、『佐々木とピーちゃん』というアニメを、今、見ているんです。元々、転生もののアニメは見ていなかったのですが、丸子を演じてから、転生ものも面白いなと思って『転生したらスライムだった件』を観て、今、『佐々木とピーちゃん』です。面白いです!」
──なるほど。丸子にとってコミヤチヒロのWEB小説が生きがいになっていたように、ご自身にとって生きがいとなるものとは?
「台本の“前付け”です。台本を開くと、例えば『丸子役 高橋文哉』というように、監督やスタッフ、俳優の名前が書いてあるページのことです。準備稿の段階では前付けがなくて、決定稿になってから前付けが印刷されるのですが、そこに自分の名前があることがすごく嬉しいですし、何度も見返します。そうすると、この役を自分が演じるんだという責任感が湧いてくるんです。今でも嬉しくてマルで囲ったりもしています(笑)」
『あの人が消えた』
出演/高橋文哉、田中 圭
監督・脚本/水野 格
製作/日本テレビ、日活、東宝
制作プロダクション/日テレ アックスオン、ダブ
配給/TOHO NEXT
公開日/9月20日(金)全国公開
公式サイトURL/ano-hito.com
公式X/@ano_hito_movie
公式Instagram /@ano_hito_movie
©2024「あの人が消えた」製作委員会
衣装/ニット ¥297,000 シャツ ¥182,600 パンツ ¥231,000 シューズ ¥275,000 ベルト ¥86,900/すべてBottega Veneta(ボッテガ・ヴェネタ ジャパン 0120-60-1966)
Photos: Yu Inohara Hair & Makeup: Toshiyasu Oki by CONTINUE Styling: Shinya Tokita Interview & Text: Miho Matsuda Edit: Saki Tanaka