岡山天音インタビュー「ツチヤのように自分の本音の本音は解消せずに生きていきたい」 | Numero TOKYO
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岡山天音インタビュー「ツチヤのように自分の本音の本音は解消せずに生きていきたい」

旬な俳優、アーティストやクリエイターが登場し、「ONとOFF」をテーマに自身のクリエイションについて語る連載「Talks」。vol.107は岡山天音にインタビュー。

笑いに人生を捧げ、笑いの魂に取り憑かれた男の半生を描いた私小説『笑いのカイブツ』が映画化された。伝説のハガキ職人と呼ばれたツチヤヒロユキ。彼の笑いへの追求心と常識から逸脱した行動は、周りから理解されないことが多いだろう。しかし本作を観た後には彼の感情に共感している自分もいる。そして気づけば人間とは何か、社会とは何か、自分とは何かを彼に教えてもらっているのだ。そんなツチヤを演じたのは数多くの作品で異才な存在を放ってきた岡山天音。演じた人にしか分からない「笑いのカイブツ」の正体について話を聞いた。

彼の性格にはシンパシーを感じていた

──はじめにツチヤタカユキ役のオファーが来た時の率直な感想をお聞かせください。

「主人公像としてあまり邦画にはない作品だなと思いました。主人公像って分かりやすい普遍性や平均的であるものが多いと思うんです。この作品のように個性があって振り切ったキャラクターが真ん中にいるのは珍しいなと思ったのと、原作からどのようにして映画に変換していくのかは最初は分からなかったですね」

──役への準備はどのようにされていったのでしょうか。

「ツチヤとは性格的にはすごくシンパシーを感じていて、近いものをとても感じていたので、行動原理を理解するというところはあまり苦労はしていなくて、ただヴィジュアルで時間経過の説明がなく、それを『髪型』で表現したりするのに、こういうシーンにはこの髪型でいたらフィットするか、面白いかなどを監督とヘアメイクさんと細かく打ち合わせをしていました」

──作品を見て思ったのが他の出演者の方は関西出身の人が多い中、岡山さんは東京出身で関西弁の習得がとても大変だったのかなと思いました。

「とても難しかったです。ですがそれはもう音声をもらってひたすら口に出して覚えてというだけですね。とにかく繰り返し続ける。お風呂に入りながらセリフの一言だけを永遠に聞いて口に出すんです。何度も何度も何度も繰り返して繰り返してってやっていくしかなかったですね。あとツチヤのキャラクター的に語尾を最後まで発語し切らない、尻つぼみになっていく場面が多いんです。その尻つぼみの部分で関西弁か標準語になるかが分かれてしまうので、その細かい部分までスタッフの皆さんとディスカッションしていました」

──滝本憲吾監督の長編デビュー作でした。出演されている役者の皆さんも待ち望んでいらっしゃいましたね。滝本監督が描く世界観に惹かれる理由は何でしょうか。本作の撮影エピソードについても教えてください。

「オリジナリティがあって似た人に会ったことがないなと思いました。人間が人間を見る時に、普通だったらこぼしてしまうようなミクロの機微みたいなものが、瀧本監督の中で蓄積されているように感じました。例えば、会話をしている時に一瞬別の思考が入って、会話に戻ろうとするといった感情の細かい変化も取り入れようとされていて、そういった細かい部分で人間を解釈していたところも面白かったです。シンプルな感想になってしまいますが、映画を撮る人だなと率直に思いましたね。ツチヤに関してはツチヤの動きを見て周りの人に演出をつけるといった感じだったので、僕は放し飼いにしてくれたというか、僕から出てきたツチヤをどう周りを固めることで活かすことができるかという作り方だったと思います」

ツチヤタカユキという男の魅力

──ツチヤタカユキさんご本人にはお会いしましたか? 岡山さんご自身と共通する部分はありますか。

「お会いしました。すごくクレバーでこれまで蓄えてきた知恵が詰まっているとても魅力的な方でした。やっぱり出てくるお話がとにかく面白いんです。でもあれだけのめり込みまくれる素養のある方で、お笑いも端から端まで見てすべて理論立てて考えている。さらにそれ以外にも本や漫画、場所などあらゆるところからこの勢いで吸収されている方なので、そりゃ面白く話すくらい簡単だろうなと思いました。それだけ蓄えているしロジックもある出会ったことのない方でした。共通しているところはあまり人間に擬態できないところですかね(笑)」

──ツチヤタカユキさんご本人もおっしゃっていましたが、どん底だったあの時期を演じられるのは岡山さんご自身もとても苦しかったと思います。どのように役作りをなさっていったのでしょうか。1番大切にしたことなども教えてください。

「生きていくためには明日に光とかは何かしらあって、それを道しるべにやっていくと思うんですけど、撮影時はそれが全く見えなくなっていて、とても危なかったです。僕は役と自分を分けて考えていないので役に影響されるというか、自分の中のツチヤを演じるときに焦点を当てている部分があって、そこをずっと見ているので肥大化していってしまうイメージです。撮影時は朝から晩までツチヤを演じているので、ネガティブなところが強く出て広がっていった感情でした。撮影が終わってもすぐに切り替えられる方なのですが、今回は暗い感情が続いていた気がします」

──この作品はただストーリーを楽しむだけでなく、自分の心に問いかけてくるものがあります。岡山さんご自身がこの作品を通して学んだこととはなんでしょう。

「自分に嘘はつけないということですね。例えば何か好きなものがあったとして、それを絶って別の道を選ぶことがあっても除去されたわけでなくシコリみたいにずっと残っていて、放っておくと後で悪性になって大変なことになるかもしれないし、自分の本音の本音みたいなところは解消できない。だから解消すべきでないし、本能に従って共生しようと色々考えずやっていくしかないし、やっていきたいなと思いました」

──最後に岡山さんのオフの過ごし方について教えてください。

「とにかく休みの友達と遊んでます(笑)。最近はサイクリングしたり、富士サファリパークに行きました! あとゲゲゲの鬼太郎がすごく好きな友達がいて、妖怪と写真を撮れるイベントがあったので一緒に行ったり(笑)」

──アウトドア派ですか?

「いや、友達とゲームするなら室内でも全然楽しめますし。とにかく友達や人との時間に興味があるんです。リフレッシュにもなるし、趣味というか。人を知りたいっていう気持ちがあるのかも」

『笑いのカイブツ』

「伝説のハガキ職人」として知られるツチヤタカユキの同名私小説を原作に、笑いにとり憑かれた男の純粋で激烈な半生を描いた人間ドラマ。不器用で人間関係も不得意なツチヤタカユキは、テレビの大喜利番組にネタを投稿することを生きがいにしていた。毎日気が狂うほどにネタを考え続けて6年が経った頃、ついに実力を認められてお笑い劇場の作家見習いになるが、笑いを追求するあまり非常識な行動をとるツチヤは周囲に理解されず淘汰されてしまう。失望する彼を救ったのは、ある芸人のラジオ番組だった。番組にネタを投稿する「ハガキ職人」として注目を集めるようになったツチヤは、憧れの芸人から声を掛けられ上京することになるが……。

監督/滝本憲吾
原作/ツチヤタカユキ『笑いのカイブツ』(⽂春⽂庫刊)
脚本/滝本憲吾、足立紳、山口智之、成宏基
出演/岡⼭天⾳、⽚岡礼⼦、松本穂⾹、前原滉、板橋駿⾕、淡梨、前⽥旺志郎、管勇毅、松⾓洋平、菅⽥将暉、仲野太賀

2024年1月5日(金)テアトル新宿ほか全国ロードショー
©︎2023「笑いのカイブツ」製作委員会
URL/https://sundae-films.com/warai-kaibutsu/#

衣装:トップ¥15,400/Kiit、パンツ¥33,000/Wizzard(ともにティーニー ランチ TEL/03-6812-9341)、その他 スタイリスト私物

Photos:Kota Ishida Styling:Haruki Okamura Hair&Make up:Naoko Morishita Interview & Text:Saki Shibata

Profile

岡山天音Amane Okayama 1994年6月17日生まれ、東京都出身。2009年、NHK「中学生日記」にて俳優デビュー。2017年公開『ポエトリーエンジェル』(飯塚俊光監督)で第32回高崎映画祭最優秀新進男優賞、2018年公開『愛の病』(吉田浩太監督)でASIAN FILM FESTIVAL最優秀男優賞を受賞。主な出演作に、『新聞記者』(19/藤井道人監督)、『王様になれ』(19/オクイシュージ監督)、『青くて痛くて脆い』(20/狩山俊輔監督)、『FUNNY BUNNY』(21/飯塚健監督)、『キングダム2 遥かなる大地へ』(22/佐藤信介監督)、『さかなのこ』(22/沖田修一監督)、『沈黙のパレード』(22/西谷弘監督)、『あの娘は知らない』(22/井樫彩監督)、『BLUE GIANT』(23/立川譲監督)、『キングダム 運命の炎』(23/佐藤信介監督)など。待機作として、『ある閉ざされた雪の山荘で』(24/飯塚健監督)がある。

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