安達祐実インタビュー「もっとハッピーなこととして捉えられることが世の中にたくさんある」 | Numero TOKYO
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安達祐実インタビュー「もっとハッピーなこととして捉えられることが世の中にたくさんある」

旬な俳優、アーティストやクリエイターが登場し、「ONとOFF」をテーマに自身のクリエイションについて語る連載「Talks」。vol.104は安達祐実にインタビュー。

春画を愛する者たちが暴走する偏愛コメディ映画『春画先生』が10月13日(金)に公開される。これまで春画の取扱いは日本映画でもタブーとされ、性器部分の描写は映倫審査でボカシ加工が必要だった。しかし本作は映倫審査で区分「R15+」をとして指定を設け、全国公開される作品としては日本映画史上初、無修正での浮世絵春画描写が実現した。その主演を務めるのは内野聖陽、ヒロインに北香那、共演に安達祐実、柄本佑、白川和子を迎え、監督・脚本は塩田明彦が手がけている。

江戸時代、春画は男性のものだけでなく身分問わず老若男女が娯楽として愛好していた。だたの“エロ”ではなく、視点を変えれば見えてくる春画の画力や芸術といった美しさ。その秘めたる魅力について、藤村一葉役を演じた安達祐実にインタビュー。オフの過ごし方についても話を聞いた。

一葉はこの作品の中で一番、愛情深く切ない人

──本作では芳賀一郎(内野聖陽)先生はじめ、弓子(北香那)や一葉(安達祐実)などが放つ、人間の性欲や愛に関する名言が登場します。安達さんが共感したセリフはありますか。

「全部が印象的なんですが、『一人で楽しむのも良し、みんなで楽しむのも良し』ですね。この作品を演じるまで、春画はみんなで楽しむものというイメージがなかったのですが、今まで見ていた部分と違うところに目を向けてみると、衣の美しさや絵師たちの技術の高さなど芸術として見たときにとても素晴らしいなと思いました。この作品を見終わった後には、この言葉の意味がより深く分かるのではないかと思います」

──演じられた藤村一葉についてどんな印象を持ちましたか。

「周りから『今どんな役を撮影しているの?』と聞かれた時は、簡単にわかりやすく、『SMの女王ですかね』と言っていました(笑)。でも一葉は本当は愛情深く、切ない立場の人なんです。芳賀先生への愛と、弓子の才能を開花させる役割を担っていて。鞭を打ったり暴言を吐いたりするんですが、最後には彼女の愛情深さを表現したいと思って演じました」

──まさに“SMの女王”を発揮する、終盤の過激なシーンはいかがでしたか。

「あのシーンはリハーサルの日も設けて、現場に行ってからもリハーサルを行ってから撮影する結構念入りに行ったシーンだったんですけど、あそこはもちろんクライマックスだし肝になる部分なのでとても集中してやっていました。ただ鞭を打つので『当たりどころが悪かったらどうしよう』と心配していたんですが、当てられる側のお二人が『全然いいよ、当てて。その方が気合が入るからいいよ』と言ってくれて、思いっきり打ちました(笑)」

──鞭を打つ経験なんてあまりないですよね。

「そうなんですよ。なので鞭を打つ練習をしてから撮ったんですけどとても難しかったし、筋肉痛になりました。コツがつかめていない時は力が入ってしまってドキドキしながらやっていたんですが、北さんとの闘いという感じで、彼女も弓子として強く挑んできてくれるので、楽しかったですね。だんだん怖さはなくなってちょっとした快感と爽快感を覚えました。この感覚かと(笑)」

仕事とプライベート、どちらにも左右されないのが私のスタイル

──作中の芳賀一郎先生や弓子のように、好きなもの、好きな人を究極に愛す。安達さんご自身ものめり込むように好きになったもの、今ハマっていることはありますか?

「それがないんですよね(笑)。私は何に対してもわりと一定のテンションなんです。仕事も楽しいんですけど、めちゃめちゃのめり込んでいるかといったらそうでもない気がしますし、楽しいからやってるくらいの感じなんです。恋愛もどこかで冷静なことが多いですね。すごい好きだし心配したりヤキモチ妬いたり嬉しかったりっていうのはあるけれど、例えばプライベートによって仕事が左右されるかっていうと、そうでもないですし。なんでも結構冷静に受け止めちゃう感じ」

──『春画先生』に登場するキャラクターたちと真逆の性格ですよね。

「彼らを見ていると羨ましいなと思って。尊いじゃないですか。みんなすごい純粋で汚れがない。そんな風にまっすぐ突っ走っていける姿を羨ましいと思っていました」

──その冷静さは昔から変わらず?

「ずっとそうですね。昔から裁縫は好きなのでするんですけど、ぶわーと熱中してやり続けているかといったらそうでもないかもしれないです(笑)。小説を読むのも好きだけど、台本が立て続けに来たりすると、そういうときに他の物語を読むのが苦手なので読めなくなってしまうし。なので脇目も振らずとか、やらなきゃいけないことあるんだけど後回しにして、みたいなのはないですね」

──冷静さを保てるのは羨ましいです。何事も淡々とこなしていけるタイプですか?

「いや、お仕事の中ではセリフを覚える時間が一番苦手なんです。覚えるのが苦痛なのでできるだけ短時間にします。前もって覚えておいて、また掘り起こすのも大変だから、前日に頭に入れて覚える感じですね。初めに台本をいただいてから読んで物語と役のイメージ、感情の流れなどは考えていますが、セリフを覚えるのは一番最後ですね。
でも今回は塩田監督の書くセリフの節回しが気持ち良かったので覚えやすかったですし、言葉で弓子を挑発して誘導する場面なので、言葉を重視していつもよりは前もって覚えました」

──今作の見どころは春画以外にも、日本の情景や所作など日本文化の素晴らしさが詰まっていると思います。

「春画は絵自体はすごく大胆だけど、その中にある奥ゆかしさや愛する人を思う大切さを態度で表したり、そういう部分は時代劇をやってると物凄く感じるんですけど、それと同じように感じましたね。現代の話ではありますが、日本ならではの情景が詰まっていると思います」

──この作品の中で、特にどんなところを見てもらいたいですか?

「一味違ったコメディを楽しんでほしいのと、登場人物の一人一人がすごく魅力的なのでそこに愛おしさを感じてもらえたら嬉しいですね。変わった人のように周りから見られてもそれがすごく美しいことだったり、素敵なことだったりする。昔の人が春画を楽しんでいたように、私たちも物事に対して違う視点で見てみればもっとハッピーなこととして捉えられることが世の中にたくさんあるんじゃないかなと思うんです」

──どっぷりハマるものがないとおっしゃっていましたが、オフの日に何をしている時が好きですか?

「自然に触れるのが好きですね。ちょっと遠出したり、高原に行ったりしてリフレッシュします。一人で行く時もありますが、家族で行くことが多いです。子供を連れていくと『いつまで遊ぶんだ!』みたいになっちゃいますけどね(笑)。 でも緑を楽しむことは、私の中でとても大切な時間かもしれないですね」

『春画先生』
“春画先生”と呼ばれる変わり者で有名な研究者・芳賀一郎(内野聖陽)は、妻に先立たれ世捨て人のように、一人研究に没頭していた。退屈な日々を過ごしていた春野弓子(北香那)は、芳賀から春画鑑賞を学び、その奥深い魅力に心を奪われ芳賀に恋心を抱いていく。やがて芳賀が執筆する「春画大全」を早く完成させようと躍起になる編集者・辻村(柄本佑)や、芳賀の亡き妻の姉・一葉(安達祐実)の登場で大きな波乱が巻き起こる。それは弓子の“覚醒”のはじまりだった。

原作・脚本・監督/塩田明彦
出演/内野聖陽、北香那、柄本佑、白川和子、安達祐実
配給/ハピネットファントム・スタジオ
Ⓒ2023「春画先生」製作委員会
https://happinet-phantom.com/shunga-movie/#
10月13日(金)TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー

衣装/ドレス¥86,900 TOGA PULLA イヤリング¥17,600 TOGA ARCHIVES(ともにTOGA 原宿店 03-6419-8136)スニーカーブーツ¥28,050 VEGE(VEGE 03-5829-6249)ソックス¥3,300 leur logette(ブランドニュース 03-3797-3673)

Photos:Ayako Masunaga Stylist:Shota Funabashi(Dragon Fruit)Hair & Make up:Naya Interview & Text:Saki Shibata

Profile

安達祐実Yumi Adachi (あだち・ゆみ)1981年生まれ、東京都出身。2歳でモデルとしてデビューし、子役としてドラマ『家なき子』(94)などで国民的な人気を博す。その後も俳優として着実にキャリアを積む。主な出演作として、『野のなななのか』(14)、『花宵道中』(14)、『TOKYOデシベル』(17)、『樹海村』(21)、『極主夫道 ザ・シネマ』(22)、『零落』(23)など数多くの作品に出演。近年はアパレルブランドのプロデュースを手がけるなど多分野で才能を発揮している。

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