橋本愛×臼田あさ美インタビュー「まっすぐに、対等に他者と向き合う女性たちを演じた」
旬な俳優、アーティストやクリエイターが登場し、「ONとOFF」をテーマに自身のクリエイションについて語る連載「Talks」。vol.121は俳優の橋本愛と臼田あさ美にインタビュー。

橋本と臼田が共演した映画『早乙女カナコの場合は』が3月14日より公開する。『三月のライオン』『ストロベリーショートケイクス』などで知られる矢崎仁司監督が、作家・柚木麻子の小説『早稲女、女、男』をオリジナル脚本で映画化。主人公カナコの恋愛を主軸に据えつつも、女性たちの連帯を描き出した。微妙な関係にある二人を演じた橋本と臼田にその思いや初共演の感想、オフの過ごし方などを聞いた。
劇中に登場する女性たちを抱きしめてあげたくなる
──まずはそれぞれの役柄について、どういう印象を持たれたか教えてください。
橋本愛(以下、橋本)「私が演じるカナコは、男性恐怖症が核にあると思います。自分が性的な目線を向けられることへの忌避がある。だからあえて自分を、いわゆる女性らしくない人間にカテゴライズすることで、なんとか居場所を維持しようとしているけど、そこが居心地いいかと言われるとそうでもない。どこか不器用な生き方をしている人だなと思いました。特に周りの目線をすごく気にしていて、過剰な自意識に囚われているところは、私も似たところがあると思って共感できました」
臼田あさ美(以下、臼田)「カナコの上司の亜依子は、すごく計画的で、今までもこれからも真面目に生きていくタイプ。決して欲張らず、でもちゃんと目標を持って、一つひとつ着実に、自分の未来を描いていく人だなと思います。ちゃんとそれに見合った努力もしてきたという自負もある。それでも計画通り、思い通りにいかずに自分自身をコントロールできなくなりそうになるんだけど、こんなことしたら痛いよな、格好悪いよなという軸があるがゆえにバランスが取れなくなっていく。自分の思い描いていた未来と違うことが起きたときに、もろさが見える人物だと思いました」
──脚本を読んだ際の最初の印象はいかがでしたか? 柚木麻子さんの原作も読まれていたらその感想も伺いたいです。
橋本「原作はオムニバス形式で、もっと多くの女の子たちも描いていますが、映画では登場人物を絞り、エピソードを凝縮させたつくりになっています。原作のすごく好きなセリフはわりとそのまま、言葉を変えずに脚本に落とされていたのが、私はすごく嬉しかったです。原作者へのリスペクトはもちろん、ちゃんとこの世界観を映画にする意思を感じました。そもそも私は(原作の『早稲女、女、男』以外にも)、柚木さんの作品が大好きなんです。ユーモアにあふれるポップな文体が小気味よくて、それでいて痛いところを突いてくる。ただ今回の映画はテンポ感もゆっくりとした感じがしていて、それは矢崎仁司監督のカラーが存分に出た部分だと思います。それによって、登場人物のおかしさやかわいらしさ、そして拙さが愛おしく表現されていると感じました」
臼田「私も原作を読んだ後に台本を読んだのですが、作中に描かれるシスターフッド、女同士の絆みたいなものがすごく好き。カナコと亜依子の間にもあるし、カナコと麻衣子(山田杏奈)の間にもある。それぞれがちゃんとプライドを持っているから、お互いを毛嫌いする部分があってもおかしくないのに、私とあなたは違うという前提で相手をリスペクトしている。みんな他者と向き合おうとする力を持った女性たちであるところがすごく魅力的でした。原作もそうですし、映画になった時もそこがよく表現されていると思います。愛ちゃんが登場人物の拙さや愛おしさに触れていたけど、私はそこに勇気がもらえると思った。友達のそういう部分も、大丈夫だよって言ってあげたくなる作品だと思います。私はもう映画に出てくる女性たちみんなを、『大丈夫だよ!』って抱きしめてあげたくなっちゃった。みんな一生懸命だから」
──カナコと亜依子の関係からみるシスターフッドをお2人はどう見ていましたか?
橋本「私は能天気に先輩を慕っている役でした。それは亜依子さんが自分の理想像で、こういう女性になりたいという憧れの存在だったから。憧れを自分の向上心に変えて、学びを吸収していく前のめりな姿勢だったと思うんですけど、やっぱり亜依子さんのほうは複雑だったと思います」
臼田「そうだね。撮影に入るまではもっと私に余裕があって、カナコに対して堂々と振る舞えると思っていたんです。でも撮影中は、愛ちゃん自身の力なのか、カナコの力なのかわからないけど、負けそうになる瞬間がいっぱいあって、この危うさが亜依子なんだなって思った。外から見たら淡々と仕事をこなす大人の女性に見えるけど、本当は全然足元がグラグラで、精一杯なんだなというのが演じていてわかりました。それを監督が気づいたのか、『カナコのことをずっと見て。目をそらさないで』と言われたんです。それは亜依子にとってはカナコに戦いを挑むようなもので少し怖かった。でも監督を信じてみようと思ったんです。結果的に2人のシーンは、お互いにまっすぐに、対等でいられたと思います」
橋本「私は監督から要所要所で『カナコはいつも真剣な人だからね』と言われていました。亜依子さんと対峙する時も、真剣さは一番大切に演出されていたと思います」
スノボにハイキング。オフはアクティブ派!
──初共演のお2人。第一印象も伺いたいです。
橋本「私はもう本当に大好きで、ずっとキュンキュンしてしまいました。いつも本当に優しくて、私が現場でなかなか言葉にできない悩みを持っていたり、モヤモヤしながらやっていることもすぐに察知してくださってて、すごく支えてくださいました。嬉しかったです」
臼田「私はコミュニケーション能力が非常に低くて、愛ちゃんともっとしゃべりたいけど、何をしゃべっていいのかすぐに出てこない場面も多かった(笑)。ちゃんと他者を見透かせる人だと思っているから。だからこそ上辺みたいなやりとりではなく、ちゃんと話したいと思っていたから、最初はちょっと緊張しちゃった。愛ちゃんがすごく映画を愛していて、信じていることは現場を一緒にやっていると伝わってくるから、本当にリスペクトしています」
──本作はカナコの大学生活がメインで描かれています。お2人が今大学に通えるとしたら、どんな勉強をしたいですか?
橋本「今行ったらすごく楽しいだろうなと思います。私は大学に通えてはいないのですが、学生時代から行きたい気持ちはあって、当時は心理学を勉強したかったんです。最近はさらに人体のことにも興味があるから、脳のこととか、身体のことについても学べたらいいなと思います」
臼田「私も大学は行っていないですが、今だからこそ、知らないことや興味をもったことを学びたいと思います。私の娘は今6歳で、私は毎日図鑑を読まされているんです。そこから生物学に興味を持ち始めました。動植物の知識をもっと掘り下げていきたいですね」
──オフの時間の過ごし方を教えてください。
橋本「最近は週の半分以上、スノーボードをしに雪山に行っていました。近くの湖は冬になると凍って、その上に氷と雪のブロックでつくられた建物がたくさん建つんです。アイスバーでお酒を飲めたり、氷上露天風呂があったり、夜にはキャンドルが灯されていたりして。天気も良くて最高でしたね。自然が好きなので、結構アウトドアな過ごし方が多いです」
臼田「私も最近、休みがあって体も元気だったら、都心から近い山に登りに行ったりします。『登山が趣味』と言えるほどではないのでそこは誤解しないでほしいんですけど(笑)、ハイキングみたいな感じで出かけて、おいしいお蕎麦を食べて帰って来るのが楽しみです」
──最近興味があることはなんですか?
橋本「今、頻繁にダンスレッスンを受けています。コンテンポラリーはずっとやっていましたが、それに加えてヒップホップと日本舞踊を始めました。いろんなダンスのダンスレッスンをほぼ毎日やっているから、私は何を目指しているんだろうと思うことも(笑)。基礎練習が大好きなので、最初に基礎練をしっかりして、それから振りをやる流れ。好きな音楽をかけながら、わりと自由にやっています」
臼田「え、私なんだろう。本当に普通の日常すぎて」
橋本「モーニングルーティンはなんですか?」
臼田「もう、うわぁぁー! って(笑)。今は本当に子育て中心の生活なので、毎朝嵐のようです。子どもといっしょにハマっているのは、天体かな。プラネタリウムについても調べているんだけど、小学生以上でないと連れていけない施設も多くて。4月から小学生になるので、これからいっぱい行きたいですね」
映画『早乙女カナコの場合は』
大学進学と同時に友達と二人暮らしを始めた早乙女カナコ(橋本愛)。演劇サークルで脚本家を目指す長津田(中川大志)と出会い、そのまま付き合うことに。就職活動を終え、念願の大手出版社に就職が決まる。長津田とも3年の付き合いになるが、このところ口げんかが絶えない。⻑津田は、口ばかりで脚本を最後まで書かず、卒業もする気はなさそう。サークルに入ってきた女子大の1年生・麻衣子(山田杏奈)と浮気疑惑さえある。そんなとき、カナコは内定先の先輩・吉沢(中村蒼)から告白される。一方、吉沢の元にはカナコの出版社の先輩社員、亜依子(臼田あさ美)が訪ねてくる。編集者になる夢を追うカナコは、長津田の生き方とだんだんとすれ違っていく。大学入学から10年。それぞれが抱える葛藤、迷い、そして二人の恋の行方はーー?
監督/矢崎仁司
出演/橋本愛、中川大志、山田杏奈、臼田あさ美、中村蒼
脚本/朝西真砂、知愛
原作/柚木麻子「早稲女、女、男」(祥伝社文庫刊)
3月14日より全国公開中
www.saotomekanako-movie.com
Photos:Ayako Masunaga Styling:Naomi Shimizu(Ai Hashimoto), Naomi Shimizu(Asami Usuda) Hair & Makeup:Hiroko Ishikawa(Ai Hashimoto), Kanako Hoshino(Asami Usuda)Interview & Text:Daisuke Watanuki Edit:Mariko Kimbara
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