高杉真宙インタビュー「劣等感が自分を奮起させる原動力」
自分自身の今に影響を与えた人物や、ターニングポイントとなった出来事、モノ、場所との出合い。それをきっかけに変化し成長した自分を振り返る。高杉真宙のビフォー&アフター。(「ヌメロ・トウキョウ」2018年6月号掲載)
──今年はすでに出演映画が5本公開予定、劇団☆新感線の舞台出演も決まり、飛躍の年になる予感。芸能界に入ったきっかけは、小学6年生のときのスカウトだとか。
「はい、熊本の花火大会で。ドラマや映画を見る家庭ではなかったので、俳優という仕事を全く知らず、有名な方がたくさんいる事務所の先輩も一人しか知りませんでした。だから、最初はお断りしていたんです。幼稚園の頃からレスキュー隊に憧れていましたし」
──では、なぜ芸能活動するように?
「そんな中でもお話をいただいて、2009年に銀河劇場で『エブリ リトル シング’09』に出演してから少しずつ気持ちが変わって。歌とダンス、演技と、何の経験もなかったので必死に練習しました。本当に大変でしたが、終わった後のカーテンコールや達成感もすごいものでした。でもその直後には、もうやらないと思い、また1年ほど地元の福岡に帰っていました」
──それでも戻ってきたのは?
「事務所の方がずっと声をかけてくれていました。家族には、芸能活動も上京も自分で決めなさいと任されていたので、悩みに悩みました。でも事務所に説得され、最後はほぼ無理やり、みたいな(笑)」
──そこまで惚れ込まれて。今は俳優として生きる決心がついた?
「はい。嫌だったら、とっくにやめていると思います。今は単純に楽しめています。理由はないんですけど、楽しくて充実感があります」
──俳優を始めて、ターニングポイントとなった作品は?
「演技が楽しくなったのは14年の映画『ぼんとリンちゃん』です。稽古期間が2カ月、撮影期間が1カ月と長く、しっかりと向き合えた作品。小林啓一監督とご一緒して、演じるとはこういうことか!と実感できました。ワークショップから積み上げて作り、1シーンが何十ページにもわたる長回しで。3カ月間役を切らさないという経験は大きくて、自分が演じたリンちゃんは僕の血肉になっていますね」
──仕事のほかに、趣味や関心のあることは?
「漫画とアニメ、ゲームが好きです。オフが2日間あると、ひどいときはずっとアニメを見て、出前を頼んで、家から一歩も出ないで引きこもっているインドア派です。今度、劇場アニメ『君の膵臓をたべたい』で『僕』役の声をやらせていただくのですが、声優はいつかやってみたかった仕事なのでうれしくて! でも同時に、やる前から逃げ出したいくらい憂鬱にもなり…。自分の趣味の世界をつくってきた方々は僕にとって神様! その分、自分の目標値が高くなって、どうしたらそこへたどり着けるのか、何を努力したらいいのかわからなくて。でも半分はキャラクターが演じてくれるから一緒に演技したらいい、僕に配役したのは僕自身を見たいからだと言っていただき、心に染みました。そして憧れていた方々の仕事を目の前で見られたのは感動的でした」
──アニメや漫画のバイブルはありますか?
「中学生の頃にフジテレビ深夜アニメ枠のノイタミナにはまって、いま早く公開してほしいなと思っているのは映画『PSYCHO-PASS サイコパス』の新作。劇場版1の総監督は本広克行さんで、『仮面ライダー鎧武/ガイム』でご一緒させていただいた脚本家の虚淵玄(うろぶちげん)さんも。来年の公開を楽しみにしています」
──普段は家にこもるのが好き?
「仕事で外に出ることが多いので、自分で出ることに踏ん切りがつかなくて。だからこそ、仕事でいろんなところに行けるのはうれしいです」
──ライバルと思っている俳優さんはいますか。
「僕、誰に対しても劣等感を抱くことが多いんです。人と比べて自分は何もできないと思ってしまう。俳優は実力の差が目に見えやすいですし、この部分は自分にないなとか、羨ましいなあと思ってしまう。でもその劣等感が自分を奮起させる原動力にもなります。年齢関係なく、すごい人はすごいですし、自分が頑張らなきゃ!と思わない瞬間がない。この先も高確率で壁はやってきますし、なかなかのハードルが用意されていると思います。どの職業にもいえることなんでしょうけれど、俳優の仕事は正解がないし、等級もない。だからこそ自分が満足してしまったら終わりなのかなとも」
──まだ21歳。もっとチャラチャラしてもいいのでは?
「全くそんな気にならないです。どこかでサボると、自分の限界をつくってしまう気がするんです。限界をつくらないために、いまの自分に納得しない、サボらない。役に対して見落としがないように努力することが大切だと思っています。努力した結果、見落としたら、それは自分の技量が足りなかったということ」
──今回、連ドラで初めて学生服を脱いだという『モンテ・クリスト伯―華麗なる復讐―』ではディーン・フジオカさん演じる柴門暖(さいもんだん)の恩人の息子、守尾信一朗役。どんな男性ですか。
「真面目で誠実な好青年です。しかし父親の会社が倒産して借金を抱えて、怒濤の人生を送る羽目に。自分のことより人のことを考える人で、真っすぐすぎて共感しにくいところも」
──ドロドロした話の一服の清涼剤のような存在ですね。好きになった人が敵の娘、というロミオとジュリエットのような恋愛もあり。復讐劇ですが、これまで復讐したいと思ったことは(笑)?
「いや、兄弟げんかくらいですね。弟が二人いて、子どもの頃は毎日が戦争。けんかしてやり返すことはしょっちゅうでした。あとはゲームでやられたからやり返すとか。重い復讐はまだ考えたことがありません。というより、この先もあったら怖いですが(笑)」
──これだけ作品に出続けているとアウトプットの日々。自分のためのインプットはどのようにしていますか。
「いちばん大事にしているのは、普通に友達と会って、話す時間ですね。高校時代からの親友が二人いるんですが、彼らと出会えたのは唯一、高校に行ってよかったことだと思います(笑)。いろいろ相談し合いますし、そこで年齢相応になれる部分はあるかもしれません。話している内容は仕事のことだったりするけれど、学生に戻れる感じがします」
──生まれ変わっても俳優になりますか。
「…たぶん。ああ、でも別の仕事も興味あります。レスキュー隊もですし、幼稚園の先生にもなりたかったなあ。やっぱり別の人生があるなら、ちょっと試してみたいです」
Photo:Ayako Masunaga Styling:Shuichi Ishibashi Hair&Makeup:Sayaka Tsutsumi Interview&Text:Maki Miura Edit:Saori Asaka