長澤まさみインタビュー「年を重ねるということが心地よい」
自分自身の今に影響を与えた人物や、ターニングポイントとなった出来事、モノ、場所との出合い。それをきっかけに変化し成長した自分を振り返る。長澤まさみのビフォー&アフター。(「ヌメロ・トウキョウ」2018年5月号掲載)
──以前、この連載で取材させていただいたのが2012年で、当時25歳。映画『モテキ』や初舞台を経験された後でした。約6年がたち、あれからご自身の中で大きな変化はありましたか?
「6年前ですか。うーん、あまり覚えてないですが、10代、20代はなんだかずーっと眠かったです(笑)。覚えることもたくさんあって、疲れてたなあという印象がありますね。今のほうが肩の力が抜けて、毎日充実している気がします。力の配分がうまくできるようになって、作品と向き合いやすいリズムをつくれるようになったと思います。いま思えば、やっぱり20代の頃はふわふわしてたかなと思いますね」
──ともかく忙しかった?
「気持ち的にいっぱいいっぱいだったと思います。今は本当に楽になって、人生でいちばん楽しいっていうぐらい。大人になるということ、年を重ねるということが心地よいです」
──気持ちが切り替わった瞬間はありましたか。
「特に何かが起きたわけではないですが、女優としてというより人として、人生を送る上での時間の使い方がうまくなりました。それが20代でいちばん大きい出来事かな」
──仕事のキャリアとしても、カンヌ国際映画祭や台湾ドラマに参加されるなど、国内だけでなく海外で評価されることも増えました。
「私はこの仕事にはキャリアは関係ないと思っていて。あくまでもそのときの結果でしかない。経験値としては大切なことかもしれないし、体験した感情は自分にとってかけがえのないモノかもしれませんが、過去は過去でしかない」
──次の仕事は毎回ゼロスタート?
「そうですね。みんなが私の過去の仕事を知っているわけではないですしね。親くらいじゃないですか(笑)、ずっと追いかけてくれているのは。いまだに生まれたときの話とかされると、やっぱり親はすごいなあと思います(笑)」
──出演作は自分で選ぶのですか。
「はい、基本的には。頂いたなかから事務所と相談しながら、自分がやってみたいと思う作品を選んだり、他の人に勧められて選んだり、そのときによりますけれども」
──その基準は?
「三谷幸喜さんと一緒に仕事をしたときに『意外と人生短いから、自分がやりたいと思ったことをやったほうがいいよ』という言葉を頂いて、それがすごく響いています。こっちが選ぶ側だとか、好き嫌いや趣味嗜好の話ではなくて、自分がその作品に愛情を注げるか、そういうものを自分で選べるかということが大切なのかなと思っています」
──次の作品は4月スタートの月9ドラマ『コンフィデンスマンJP』。長澤さん、東出昌大さん、小日向文世さん、3人の詐欺師によるコメディです。『リーガル・ハイ』シリーズでも人気の古沢良太さんのオリジナル脚本ですね。
「古沢さんの脚本は、何度読んでも演じていても面白いです。台詞が生きていて、感情や物語の流れが自然だからでしょうか」
──出演発表時に「丁寧にお芝居できれば、この作品は面白いものになる」とコメントされていました。
「コメディというものが難しいというのは、いくつかやらせていただいて感じていたことなんです。まったく笑わせないのは違うけれど、笑いを狙い過ぎず、シリアスなお芝居であることも大切な要素だなと。着実にお芝居を積み重ねることで生まれる笑いは必ずあると思っているので、丁寧に出来れば人の心をつかめる作品になるのではないかと思っています。“丁寧に”というのが、この作品に限らず今の私のテーマかもしれないです」
──長澤さん演じるダー子は、あらゆる職業に成り済まして相手を欺きます。毎回、ダー子が扮するさまざまな役を演じますが、難しいところは?
「キャラクターがある役はイメージを見つけるようにしているので、迷うことはないですね。むしろダー子自身がつかみどころがないです」
──どんな人物ですか。
「自由奔放に周りを転がしつつも、頭脳明晰なキレのある詐欺師です。3人の基地となる場所が、ダー子の部屋でもあるホテルのスイートルームなんですが、そこにダー子らしさが表れているかなと。ごちゃごちゃしているのですが、だらしがないというより、いっぱい詰め込んでいる感じ。いろんな知識や情報を自分に詰め込んでから騙しにかかるという、ダー子の頭の中が表現されている部屋だなと思います」
──長澤さんのお部屋は?
「うーん、今はちょっと忙しいなっていう部屋になっています(笑)。割といつもきれいに整理するタイプなんですが、いまは物が出しっ放しになっている感じです。自分の心情が表れていますね(笑)」
──好きなものに囲まれていたいタイプですか。
「昔はそうでした。今は、断捨離とまではいかないですが、いらないものは周りにはありません。あまり物に執着はないんです。ミニマムに生きていきたい。そのほうがどこでも生きていけますしね。でもちょうど今年、インテリアを変えようかなと思っていて。ダー子の部屋を見て、よりそう思ったのかもしれません」
──インテリアを変えたら頭の中も変わるかもしれないですね。
「そうですね。ドラマが終わったら変えようかな。自分の性格を考えると、気分転換をして切り替えていくということが、とても重要だなとわかってきたので」
──ダー子の騙しの手法は、あらゆる職業の専門知識を短期間でマスターして、パーフェクトに成り切ること。長澤さんの役作りはどのように?
「その時々によってスタンスは違うかもしれません。今回は3人の掛け合いのシーンが多いので、どういう感じでくるのかなと現場で探りながら作っています」
──コスプレ好きのダー子の七変化も見どころの一つですね。
「いい意味で弾けた私を見てもらえるかなと思います(笑)。小日向さんがおっしゃっていたのですが、これは石川五右衛門だと。世直しをしつつも、自分が得をするというか、夢のある結末を遂げる。ダー子もただの悪徳詐欺師ではなくて、気持ちは世直し。根っこの部分は愛情深いのではないかなと」
──根底には情があると。では長澤さんが女優として演じる根底には?
「うーん…人が楽しんでくれるであろうという希望です。自分の満足で作品を作ったとしても、見た人が納得できなかったら作る意味がないですから。人の目に触れないものは寂しいですしね。見てくれる人あっての作品だと思っています」
Photo:Akihito Igarashi Styling:Hiromi Oshida Hair & Makeup:Minako Suzuki Text & Edit:Saori Asaka