中尾明慶インタビュー「人生で一番大きな出来事は、結婚して子どもが生まれたこと」
自分自身の今に影響を与えた人物や、ターニングポイントとなった出来事、モノ、場所との出合い。それをきっかけに変化し成長した自分を振り返る。中尾明慶のビフォー&アフター。(「ヌメロ・トウキョウ(Numero TOKYO)」2019年9月号掲載)
──月9ドラマ『監察医 朝顔』では、上野樹里さん演じる法医学者を縁の下で支える検査技師・高橋涼介を演じています。彼はどんな人物ですか? 「やっぱり死を扱っているので、そういう厳しい現実と隣り合わせの研究室なんですね。もちろん仕事は全力でやりながら、そこにある日常を明るくユーモアを持って生きる。そういう愛されキャラが一人いてもいいのかなという意識でやっています」 ──台詞の掛け合いが楽しかったり、ムードメーカー的なキャラクターですよね。ご自身とも近いですか。 「僕自身もそうですし、基本的には役としても明るい人物を求めていただくことが多いんです。でもね、もちろん今までやってきたことと一緒ではなく、何か違いも見せなきゃいけないなっていうのもある。今回は明るいだけじゃなく、柔らかさのある人物になるといいなと思っています」
──医療ドラマって普段使い慣れていない言葉がポンポン出てきますよね。そういう苦労もある?
「この間の撮影では「テトロドトキシン」っていうのが言えなくて。1シーンに2回出てきたんですが、1個目を言えたと思ったら2個目を言えなくて苦しんだり(笑)。まあ、そういうことも含めて僕らの仕事です。逆に、知らない世界のことや、解剖のことだったりを知ることができるというのもある。例えば日本ではまだ解剖率が低いそうですが、スウェーデンでは約90%の遺体が解剖されているとか。そういった内容は僕らだけじゃなく、視聴者の方にも興味をもっていただけると思います」
──自分の記憶の中に作品のテーマと重なるような思い出はありますか? ドラマでは東日本大震災についても描かれています。
「やっぱり震災に関しては、僕の体験レベルと実際の被災地とでは見え方がまったく違う。大きく東日本といわれても、場所によって全然違いますよね。ニュースで映像を見ているだけでは想像がつかないような状況だったというのは、僕も実際に足を運んで実感したことでした。もちろん前を見て進んでいかないといけないけど、絶対に忘れちゃいけないことでもある。それはドラマの芯の部分でもあると思うので、そういうテーマを月9という枠で描くっていう挑戦はすごいことだと感じています」
──デビューから振り返ると、もうすぐ20年なんですよね。ご自身ではその時間をどう感じていますか。
「20年というとすごく長く感じますけど、よくわからないんです。いまだにクランクインや本番のときはすごく緊張するし、お芝居でも今ので良かったのか? と思ったりもする。いいのか悪いのかわからないですが、変わってないんですよね。スポーツだったら達人級になってる時間なのに、お芝居はなかなかはっきりと記録に出るわけじゃない。最初の頃の不安な気持ちのままなんです。だから何をいつ撮るとか、この日にこの役者さんが入るとか、そういうドラマのスケジュールを細かくチェックしたり(笑)。とにかく心配性なんですよ」
──そういう不安って仕事をする上ではすごく大切なものでもありますよね。ターニングポイントと言えるような出来事は過去にありましたか?
「24歳で結婚して子どもが生まれたということは、やっぱり人生で一番大きな出来事ですね。周りの友達よりも早かったですし、急にポンと大人にならないといけない瞬間が来たというか。妻も同業者で仕事もしているし、いろんなことが一気にわーっと迫ってきて。本当にやらなきゃいけない、と感じた大きなきっかけだったと思いますね。ここ5年くらいは、子どもを20歳まで育て上げなきゃいけないっていう責任と、まだまだ揺れ動く自分自身との葛藤があったような気がします。最近になってやっと落ち着いてきたというか、一つ一つのことを理解して感じていけるようになってきた。やっぱり結婚直後は空回りしてたのかなって」
──ご夫婦で仕事をされることも増えていますね。
「この前もFENDIのショーのゲストで上海に呼んでいただいたんですが、パネルの前で写真を撮るときに、妻はもうパッとファッションスイッチを入れて僕を置いていくんですよ(笑)。そこで完全に見捨てられた僕と温度差が生まれて、上海のカメラマンにも、なんだおまえはって顔をされたり(笑)。そういうのも含めて楽しいですよね。もともとは共演者だったので懐かしい感覚もあります」
──結婚や家庭を持つことで、何が一番よかったなと感じますか?
「なんだろう、家に帰ったら人がいて、会話があって、飽きないじゃないですか。生きることに飽きる瞬間がない。家族がいて犬も猫もいるので、常に何かしらやらなきゃいけないことがある。僕は一人の時間なんてなくていいっていうタイプなので、まったく苦じゃないというか、そっちのほうがいいんです」
──そういう毎日を過ごしているからなのか、中尾さんが演じる役には実在感がありますよね。ドラマや映画に出てくる人物って「こんな人、いないよ」って思いがちですが、どこかに生きている感じがする。役者としての強みや個性みたいなものって意識することはありますか?
「僕は基本的に自分の中にないものは出ないと思っているんです。どんな役が来たとしても、自分の中にたくさんあるもののひとつを取り出して大きくしていくっていう捉え方。どんなに変わった役でも、そういう変な部分や人に見せていない顔って必ず何かあると思うんです。一緒にいる人によって違う自分が出てくるし、どれが本当の自分なのかはもう考えてもわからない(笑)。自分の中にないものを作り出そうとすると、なんか気持ち悪いんです。そういう感覚で20年やってきているなと思いますね」
──ドラマや映画といった映像作品から舞台やバラエティ番組、それ以外にもいろいろなことをやられていますよね。自分自身にとって中心と言えるものはある?
「そこに関してもいろんな葛藤がありました。バラエティに出て面白おかしくしゃべって、ドラマで極悪人を演じるって説得力ないんじゃないかとか。でも、もう吹っ切れたというか、ジャンルに縛られるんじゃなく、自分が責任を持っていれば何をやってもいいんじゃないかって。だから人任せじゃなく自分で決めて、どこでも全力でできるように考える。それだけはちゃんとやろうと思ってやっています。あれ、ちょっと今の、かっこよくないですか(笑)。40代や50代でもお芝居していたいので、30代はすごく重要なとき。今はそのためにできることをやっていきたいですね」
衣装: すべてスタイリスト私物
Photos:Takuya Nagata Styling:Yuichi Shimizu Hair&Makeup:Halu Interview&Text:Mayu Sakazaki Edit:Saki Shibata