パントビスコの不都合研究所 vol.18 吉田明世 | Numero TOKYO
Culture / Pantovisco's Column

パントビスコの不都合研究所 vol.18 吉田明世

世の中に渦巻くありとあらゆる“不都合”な出来事や日常の些細な気づき、気になることなどをテーマに、人気クリエイターのパントビスコがゲストを迎えてゆる〜くトークを繰り広げる連載「パントビスコの不都合研究所」。今回は、パントビスコ初の絵本『おれたクレヨン』刊行記念! フリーアナウンサーとして活躍し、保育士と絵本専門士の資格を持つ吉田明世が登場。

パントビスコ「今日はお越しいただきまして、ありがとうございます。今回僕が絵本を出させていただいたのですが、吉田さんが絵本専門士の資格を持っていらっしゃるというのを前から存じ上げていたんですね。そこで、ぜひお話をしてみたいというのもあり、オファーさせていただきました」

吉田明世「ありがとうございます。今日はご一緒できてうれしいです」

パントビスコ「お話の前に、お互いの似顔絵を描いていただけますか。対談のアイコンとして使うので」

吉田明世「はい! 難しいですけど、頑張って描いてみます」

(左)吉田明世が描いたパントビスコ (右)パントビスコが描いた吉田明世

「わぁ、カフェのステッカーにありそうなくらい、すごく可愛いです!」

「いつも拝見している絵なのでうれしいです。ありがとうございます」

絵本の魅力を発信する絵本専門士とは?

「絵本専門士という資格について、僕自身も明るくないのですが、知らない方のために教えてもらえますでしょうか」

「すごく簡単に言ってしまうと、絵本の魅力を世の中に伝える活動をする絵本のプロフェッショナルですね。絵本専門士の中には、保育士さんや学校の先生など、子どもと関わる方もいらっしゃれば、電車の運転士さんだったり、さまざまな職業の方がいらっしゃいます」

「運転士さんまで! どうしてですか」

「皆さんに共通するのが、絵本が大好きで、もっとみんなに広めたいという思いを持っていることです。1年間、絵本にまつわることを学んで、合格した人が取れる資格です。一期では70人くらい同期がいるのですが、みんなで絵本の歴史を学んだり、絵本の作り方を学んだり、課題を提出したり、絵本というテーマを多角的に学びました」

「すごい。全然想像してたものと違いました」

「絵本専門士というと、ワインのソムリエのようなものを思い浮かべる方もいらっしゃるかもしれないんですが、絵本にまつわる活動ならなんでもしていいんです。私みたいにアナウンサーでありながら、絵本の読み聞かせをしたり、出版をする人もいれば、絵本専門の本屋さんを営む人もいます。内容は本当にさまざまで、みなさんそれぞれが絵本の良さを広めるために活動されています」

「なるほど。漢検や英検みたいに誰でも応募できて、そのうち何パーセントが受かる資格と思っていたら、違うんですね」

「そうなんです。最初にエントリーシートがあって、自分と絵本にまつわる文章を書くのですが、そこで絵本専門士の委員会の方が選別してくださるんですよ。そこまでのハードルがちょっと高いというのがあります。それと、保育士の資格を持っているとか、絵本にまつわる仕事を3年以上やっているとか、申し込みに条件もあります」

「やっぱりちゃんとした実績や根拠が必要なんですね。ところで、吉田さんはなぜ絵本専門士の資格を取ろうと思われたのですか?」

「私の実家が保育園で、祖母が運営していたんです。いつか保育士の資格を取りたいなと思っていて、中学生の頃はお手伝いをしたこともありました。ただTBSアナウンサーとしてちょっと時間が取れなくなってしまって、なかなかその夢は実現できなかったんです。そこで、第1子妊娠中に思い切って保育士の資格を取りました」

「それも、なかなかできることではないですよね」

「ただ、資格を取ったものの、子どもが生まれてからアナウンサーの仕事をしながら保育の現場で働くっていうのも難しくて。アナウンサーでありながら保育士の資格を持っている自分にできることって何かないかな、と思ったときに出合ったのが絵本専門士でした。資格を取ったら、読み聞かせなどで何か役に立てるんじゃないかと」

「声の表現のプロフェッショナルですからね。すごく力になる資格ですよね。そんな方に僕の絵本を読んでいただけて光栄です」

子どもの考えを理解して、尊重できたら

「読んだ瞬間、涙が出そうになりました。絵本って子どもが読むものというイメージがまだあると思うんですけれど、絵本って“から”はあっても“まで”はないってよく言われてるんですね。何歳から楽しめるけれど、何歳までしか楽しめないというのがないんです」

「確かに、その通りです」

「大体これくらいの年齢から理解できて楽しめますよ、という対象年齢はあるんですけど、赤ちゃん向けの絵本でも、例えば小学生の子とか中学生の子が読んでも楽しめます。変な話、おじいちゃんやおばあちゃんが読んでも楽しめるのが絵本なので」

「そう考えたら、対象年齢がすごく広いですね。他の本と比べると」

「まさにこの『おれたクレヨン』は、子どもはもちろんなんですけど、大人にもすごく心に刺さるメッセージのある素敵な絵本だなと思いました」

「うれしいです。ありがとうございます。僕も作った後に思ったのですが、元々はお子さんに向けたものというか、親子で同じくらい得るものがあるといいなっていうコンセプトだったんですけど、仕上がった後に改めて読んでみると、ちょっと大人向けの割合の方が強いなと思いました。別に悪いことではなく」

「可愛らしいイラストの中に深いメッセージがあるのがいいですよね。あと、我が家を覗かれているような気持ちになりました(笑)。3歳の息子と6歳の娘がいるんですけど、子どもがどうしてそうしたかっていうことを考える前に、こうしなさい、ああしなさいって常に言っちゃっているので、子どもには子どもなりの事情や考えがあって行動してるんだなっていうことを改めて気づかされました」

「そうおっしゃっていただけて、うれしいです。サイン会でも、読者の方から考えるきっかけになりましたというお声をいただいて」

「お母さんの気持ちもよくわかりますし。本当にいつも反省するんですけど、やっぱり親としてこうしてほしいとか、私の気持ちをわかってほしいってついつい考えを押し付けちゃうことがあるんですよね。でも、子どもにも会社の人や友人みたいに接することが目標です。仕事しているときの自分みたいに、冷静に相手の気持ちはどうかなとか、顔色を見て探ることができたら、子どものことをもっと尊重できるんじゃないかなと思います」

「対等な関係として、分かり合えるといいですよね」

「やっぱり子どもって、大人が想像しないところで優しさを発揮したりするんだなって。私も日々の子育ての中で、こうしちゃダメとか、こうしたら壊れちゃうから、とかっていうのを大人の目線で教えるにつれて、そういう優しさがどんどん生まれなくなっちゃってるのかなって感じる瞬間があります。生まれるはずだった優しさを大人が抑え込んじゃっているのではと」

「大人になって知識や選択肢が増えて、合理的な方に行くじゃないですか。そうなりすぎるのもあんまり良くないなって思うんですよ。子どもって選択肢が少ないがゆえに純度が高いものを選ぶというか。自分も、友達から今度遊び行こうとか連絡が来ても、お仕事を優先させてしまってるんですね。仕事はもういいや、とりあえずほったらかしてお花見行こうとか、そういう風に思うっていうのも実は大事なんじゃないかって思いました」

「いろんなしがらみや自分の立場とか、そういうことを気にすると、思い切れなかったりしちゃいますもんね」

「そうなんですよね。だから、もっと自分がやりたいことだったり、あと、『ムリ・ムダ・ムラ』ってよく言うじゃないですか、社会人がやってはダメな3項目みたいな。それをあえてやっていこうと思っています」

エイプリルフールについた嘘がまさかの不都合に!?

「吉田さんは普段不都合に感じていらっしゃることってありますか? 大中小なんでもいいです」

「育児のことで言うと、やっぱり日々の片付けとか家の整理はすごく不都合を感じますね。洗濯物がもう大量なんですよ。洗濯して乾かしてって。毎回畳んで仕舞って使ってを繰り返すじゃないですか。これ、何のためなんだろうなって、すごく不都合に感じることはありますね」

「確かにそうですよね」

「おもちゃの片付けも結局全部自分たちでやらないので、週末は子どもたちとの時間を犠牲にして『ちょっと待って、ママこれだけやっちゃうから』って片付けをするんですけど、でも結局その日のうちに汚れて、もうどうせ汚れちゃうんだったら、片付けないで子どもたちと公園に行っちゃった方が良かったのかなって。でも、ちゃんと自分のことを自分でする、生きていく上で身の回りを整えるっていうのは、やっぱり大人がやることで示すものだと思うので、難しいですね」

「本当に合理的に突き詰めたら、ほったらかしの方がすぐ遊べますもんね」

「おもちゃを増やしすぎてるってところもあるんですけど、タオルも本当は数枚で良くて、あんまりいっぱいあるから、どんどん使って洗ってとなっちゃうのかなと……。日々の片付けは不都合に感じながらも、必要性を感じてか、バランスにちょっと悩んでいます。パントビスコさんは家事はお得意な方ですか?」

「得意じゃないですね。今アトリエで作業してるんですけども、最初はちゃんとしようって決めて、配置したりとか人が来てもいいようにしてたんですけども、使っていくうちにやっぱりちょっと散らかってくるし、片付けなくても成立するって思ってあんまりやってないですね」

「ここにペンが出てるってことは、いつも使うから結局出すんだって。毎回片付ける方が不都合だったりしますよね。難しいですよね、全部完璧にするのは」

「そうですね。やっぱり人生は有限なので、何をどれに配分するかっていうのもなんか大事だなと。僕も不都合というか、毎年エイプリルフールに嘘をついてるんですね。おそ松さんが流行ってた時は六つ子でしたとか、昨年は何かの大会で優勝しました、何かは言わないけど、とか。それで今年はフランスのパリに移住しますと書いたんですね」

「律儀にフランス語でも書かれていましたもんね(笑)」

「そうです。でもあのフランス語を翻訳すると、ズッキーニのWikipediaの文章っていう、何も関係ないもので」

「本当にびっくりしました。リアルだったんですよ。アートの世界の方だから、本場に行くのね、と。でも対談があるのにって(笑)」

「意外と皆さん信じてくださるんだなって。お仕事関係の方から3社ぐらいお問い合わせがあって、打ち合わせ大丈夫ですかとか、会食の予定はどうすればいいですかと聞かれました。そこで『いやいやエイプリルフールですよ』って言うのもなんだか恥ずかしいし、もしかしてネタにのってきてくださってるのかな?と思ったり。一体なんて答えたらいいのか、自分から蒔いた種ですがそれに不都合を感じました」

「でも、画像を見ていくうちに、めちゃくちゃ合成のパントビスコさんが出てきて、あ、そういえばこういう人だったと思いました」

「それは大変助かります。後日、アンケートをとってみたんですよ。そしたら、4割ぐらいの方がまだ信じてて、長文のDMも来ました。『私は今、フランスで語学を学ぶために勉強しています。もし、パントビスコさんがギャラリーを開かれる際は絶対に行くので、受験のモチベーションになりましたって』。どうしようかなって思いました」

「背中を押しちゃったんですね(笑)」

「そこでさらに不都合って感じたのが、嘘って言わなきゃいけないこともそうですし、嘘っていう発信自体も全員が見てるわけじゃないので、見ていない人からすると毎回この弁解をしなきゃいけないんですよ。僕の言い訳をすると、ちゃんと『#エイプリルフール』と絶対入れてるんです。と言っても、大体の方が全部を読まないのですが……」

「来年のエイプリルフールも楽しみにしています(笑)」

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『はやくちよこれいと』
遠い不思議の国からやってきた、チョコレートの魔人がもっている「はやくちよこれいと」を一粒食べれば、楽しくて難しいリズミカルな言葉遊びの始まり! 親子で一緒に楽しめる早口言葉の絵本。
著者/吉田明世
出版社/インプレス
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『おれたクレヨン』
ある日、お友達の男の子とお絵描きをしていた主人公の女の子・コハクちゃん。一緒にお花畑を描くことになり、赤のクレヨンを使おうとすると、男の子も赤のクレヨンを使いたいと言い出してしまい……。
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出版社/株式会社日本能率協会マネジメントセンター
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Photo: Koji Yamada Edit & Text: Yukiko Shinto

Profile

吉田明世Akiyo Yoshida 2011年TBSにアナウンサーとして入社。2019年にフリーアナウンサーとなり、現在はラジオパーソナリティーをはじめ、テレビやイベント出演、モデルなど、多彩に活躍。プライベートでは2児の母であり、絵本専門士と保育士の資格を持つ。2022年に初めての絵本『はやくちよこれいと』を出版した。TOKYO FM ワンモーニング/ブルボンpresents Shining Starのパーソナリティとして活躍中。Instagram: @akiyo0414
パントビスコPantovisco Instagramで日々作品を発表する話題のマルチクリエイター。これまでに5冊の著書を出版し、現在は「パントビスコの不都合研究所」(Numero.jp)をはじめ雑誌やWebで連載を行うほか、三越伊勢丹、花王、ソニーなどとの企業コラボやTV出演など、業種や媒体を問わず活躍の場を広げている。著書に『パントビスコ ここだけの話だよ。』(扶桑社)、『やさ村やさしの悩みを手放す108の言葉』(主婦の友社)ほか。初の絵本『おれたクレヨン』(日本能率協会マネジメントセンター)が発売中。Instagram: @pantovisco

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