パントビスコの不都合研究所 vol.14 宇賀なつみ | Numero TOKYO
Culture / Pantovisco's Column

パントビスコの不都合研究所 vol.14 宇賀なつみ

世の中に渦巻くありとあらゆる“不都合”な出来事や日常の些細な気づき、気になることなどをテーマに、人気クリエイターのパントビスコがゲストを迎えてゆる〜くトークを繰り広げる連載「パントビスコの不都合研究所」。今回は、フリーアナウンサーの宇賀なつみが登場!


パントビスコ「今日はゲストに宇賀なつみさんをお迎えしました。実は、7年前に展示に来てくださって以来のお付き合いで、今回ようやくご出演いただけてうれしいです」

宇賀なつみ「もうそんなに前になるんですね。お招きいただき、ありがとうございます」

パントビスコ「まずお互いの似顔絵を描くことが恒例になっているのですが、宇賀さんは普段絵を描かれることはありますか?」

宇賀なつみ「『描くぞ』と意気込んで描くことはないのですが、よくメモに落書き程度に描いたりはしますね」

似顔絵、完成!

(左)宇賀なつみが描いたパントビスコ (右)パントビスコが描いた宇賀なつみ

「私はパントビスコさんのハットと眼鏡と髭をポイントに描いたのですが、黒目になってしまってちょっと怖いですね(笑)」

「宇賀さんの持っている強さと可愛らしさを表現してみました」

訪れた国は30カ国! 中東ヨルダンで起こったハプニングとは

「早速ですが、今日は宇賀さんが今年2月に出版されたご著書『じゆうがたび』についてお話ししたかったんです。読む前は『いろいろなところに行った旅行記なのかな』くらいにしか思っていなかったのですが、宇賀さんの半生がすべて詰め込まれていたのでびっくりしました。それと構成がとってもよかった。一気に引き込まれました」

「ありがとうございます!」

「宇賀さんがなんだか不都合を喜んでいる人のように思えたんですね。そこが僕にはないところだなと。どんな経験も自分の中に吸収して、良い方向に持っていくっていうのが人間らしいなと思いました」

「実は、今回“不都合”と聞いたときに『ないな』って思ったんです。何か不都合があっても、結局好都合にできると思ってしまうので」

「やっぱり。本の通りだなってうれしくなりました。僕は旅は好きなんですけど、回数は全然少ないですね。だからトラブルに遭うこともあまりなくて。気の持ちようをどのようにしているのでしょうか。絶体絶命のときがあるじゃないですか。物をなくしたりとか」

「でも生きてるから大丈夫ですよ!」

「考え方がそもそも違う(笑)」

「本当に命が危ないかもって思ったら、さすがに焦りますけど、それ以外だったらどうにかなります。実は先月ヨルダンに行ってきたんです。そのときにお願いしていたドライバーさんが、ワディ・ラムっていう砂漠の保護区に入っていくときに、道路からそのまま突っ込んで行ったんですよね。普通の車で」

「舗装されていない道を?」

「砂漠です。もう本当に砂ですよ。車がゆっくり進むので大丈夫なのかなと思っていたら、案の定砂にはまって動かなくなっちゃって。最初はそのドライバーさんが、タイヤの周りの砂を掻き出してたんですけど、全然進まないんです。電話して助けを呼んだら、近くの村から車が3台くらい来てくれて。面白いから写真を撮っていたんですね。そしたらみんなピースして写って(笑)」

「陽気だなぁ(笑)」

「『今から動かすから、お前ら重いから降りろ』って言われて、紐で繋いで引っ張ってくれたんです。『ここから先は四駆に乗り換えていかないとダメなんだよ』って笑われて、知らなかったごめんって。結局1時間ぐらいロスしました。でも面白かったですね」

「そんなあっけらかんに言われるとそう感じますけど、なかなかできることじゃないですよね」

「ドライバーさんにはすごく謝られました。でも、『もう素晴らしい経験だった、ありがとう』って感謝しました」

「そう思えるのが素敵ですね」

「旅は不都合を好都合に変えられるチャンスだと思っています。日常生活だと、常に次の予定に追われて、仕事でもプライベートでも余白がなくなりがちですよね。特に今ネット時代になって、次から次へと情報が入ってきますし、気が休まらない。でも、旅先だと余白ができる。本の中にも書いたのですが、自分の年齢や職業、役割などを一旦置いて、ただの自分になって旅してるわけですから、別に時間なんてあってないようなものなんです」

「忙しい方が、時間なんてあってないようなものっておっしゃると、ちょっと不思議な気持ちになります」

「本来は、生き物として明るくなったら起きて、お腹が空いたら食べてっていう風に生きてる方が幸せなわけじゃないですか。それを生産性を上げるために、人間が人間を管理するために作ったのが時間だと思ってるので、普段はもちろん時間を頼りにしているし、大事にしてますけど、旅に出た時ぐらいは放棄してもいいんじゃないかなって」

「確かにその通りですね。今のお話を聞いて、青森のエピソードが思い浮かびました。デジタルデトックスの。何時くらいに暗くなるんでしたっけ」

「青森のランプの宿ですね。あれは秋だったので、もう18時を過ぎたら暗かったですね」

「部屋にランプが1個あるだけで、電気が通ってないんですよね。それがちょっと信じられなかったです」

「いいですよ〜。月ってこんなに明るいんだなって思いましたね」

「綺麗でしょうね。よく考えたら、生まれてから1度もそういう環境に置かれたことがないと思います。だから、原始に戻るというか、そういう行為をするっていう発想自体がなかったです」

「私も行ってみて、初めてわかりました。あ、人間ってやることなくて暗いと寝られるんだって。19時半に寝ましたから」

「早い! ご飯を食べ始める時間ですよね」

「ご飯を18時から食べて、ビールを1本だけ飲んで、その後部屋に戻って本を読もうと思ったら、暗すぎて本すら読めなくて。もう諦めて寝たんです。気持ちよかったですよね。だから、ただの自分になる、つまりただの人間になるっていうことですかね。 それを旅の中ではできるなと思っていて、それは私にとっては冒険でもあり、癒しでもあるんです」

“努力”という言葉を使いたくない理由

「素晴らしい。本当に羨ましいな。自分にない考え方を持っていらっしゃるので。なんだか濃いですよね、人生が」

「そうですか? でも濃くしたいと思ってます。というのも、小学生の頃から毎日日記を書いているのですが、手帳を埋めたくてその日したことを書いていくと、毎日『カレー食べた』とかだけじゃつまらなくて。そこで毎日何かハイライトを作ろうとすると、自然と一日一日が濃くなっていくのかなと思います」

「なるほど。芸人さんのラジオをたまに聴くんですけれど、芸人さんはやっぱりエピソードトークが大事じゃないですか。だから、あえてトラブルに飛び込んでったりとか、失敗を望んだりとか」

「それと一緒ですね。誰に話すわけじゃなくても、どこかで発表するわけじゃなくても、やっぱり面白いじゃないですか、自分が。毎日平穏無事がいいという人もいるでしょうし、もちろんそれも素晴らしいんですけど、私はやっぱりアクセントやスパイスが欲しいです」

「なんだか考えさせられますね」

「本の中にも書いたんですけど、小中学生ぐらいまであんまり自分のことも好きじゃなかったし、毎日楽しくなかったんですよね。でも、自分が変われば世界は変わるんだっていうことに、ある本をきっかけに気づくことができて。ちょっとずつ実践していったら、大学生になる頃にはだいぶ改善されていたというか、いろんなことを面白がれるようになっていたし、自分のことも、好きまではいかないけれど、嫌いじゃないかな、ぐらいにまで思えるようになっていったんですよね」

「僕もそういうことを知らなかったときは、きっと恵まれた方で、いろんな人からの寵愛を受けてきたんだろうな、と。めちゃくちゃ悩んでたり、つまずきがあったんだって知れてすごくよかったです。人間味があるというか。それをちゃんと書くっていうのが、またやっぱり勇気がいる。僕はできないんで」

「でもなんだろうな。一生懸命やっていたら必ずつまずきますし、壁にもぶち当たりますし。でも、私は挫折とか努力したとかあんまり言いたくないんですよね。当たり前なので。自分としては頑張ってるつもりでも、別に人から見たら大したことないかもしれないし。それを努力と言うのは、ちょっと重いかな。その時その時自分なりに工夫はしたんだと思いますが、努力したとまではまだ自分では言えないかなっていう感じがしますね」

たった5時間の自由時間をフル満喫! 福岡出張の夜

「これもお聞きしたかったのですが、お仕事で行かれる旅もありますよね。プライベートな旅と出張は切り分けていらっしゃいますか?」

「分けてないですね。100%自分で何をするか決めるか、ある程度決まっているかぐらいの差ですけど、どちらも楽しいので、結局(笑)。仕事で行くと、普段入れない場所にお邪魔させていただいたり、地元の方にお店を教えてもらえたりするっていう良さもありますし。あと、みんなでワイワイって楽しさもありますね。一人旅だと、自由で心の向くまま動けますし」

「この間、僕も作品の展示でハワイに行ってきたんですね。やっぱりハワイってそれだけでも、なんかポジティブで楽しくて、明るいっていうイメージがあるので、その話をすると『いいね』って言われるんですね。実際展示の準備があったりしてそれなりに大変だったのですが。だから、プライベートでもう1回行こうとは思っているんですが、ハワイっていう印象だけで楽していいねとか、遊びに行っていいねって思われるのはちょっと心外だなと(笑)」

「私、仕事でハワイに行っても超楽しめると思います!『いいね』って言われても『いいでしょう〜』って(笑)。ハワイはまず空港に降り立ったときの風が気持ちいいですよね。あの風に吹かれているだけで、本当に色々解放されますね。あとは、例えばご飯食べたりはしますよね?」

「そうですね、ご飯は食べました」

「それが楽しいじゃないですか〜!」

「あぁ、視点が違った(笑)」

「例えばスポーツキャスター時代に、福岡出張があったんですね。一日取材して、夜の試合を見て、その後インタビューをして。夜の放送が終わったら0時ですよ。そこからみんなで飲みに行くんです。それが2時ぐらいに終わるんですよ。次の日朝7時に起きてまたロケなので、自由時間がもう5時間ぐらいしかない。それで自分でもう1軒、サクッと飲みに行っていましたからね(笑)。私の時間を作りたいと思って」

「ちゃんとその場所の良さを取り入れようとしてますね」

「せっかく福岡に来たのに、仕事だけして帰るのが嫌だったんですよ」

日常生活での不都合は、現代人にお馴染みのあの作業!?

「さっき、不都合なことが思い当たらないとお話ししましたが、考えたらありました。段ボールです」

「段ボールですか!?」

「まず、届いた段ボールを開けますよね。宛て名のシールを剥がして、全部中身を出す。そしてすべて解体して、ガムテープの部分を剥がして、折りたたんで捨てるっていうところまでの、一連の作業がすごく面倒だなって」

「なるほど。すごく生活感あふれる答えが返ってきました(笑)」

「考えたら、10年前はそんなになかったと思うんですね。もう何でもお家に届けていただけるようになって、本当にありがたいし便利になったんですが、こんなに段ボール解体する!?っていうくらい連日しているとき、私この作業一番嫌いかもって思いました(笑)。何回やっても慣れないですね。段ボール、どうされてますか?」

「面倒だなとは思うんですけど、そこまでは考えていないですね。よくお野菜の配達とか、昔プラスチックの入れ物に入れて運ぶのがあったじゃないですか。今考えるとサステナブルな。毎回あれをやるわけにはいかないですからね。そのまま返却してとか、取りに来てもらうとか。ということは、ここに何かビジネスチャンスがあるかも」

「最近小さいものだったら、紙の封筒に入れてポストに投函できるものがありますよね。あれ便利ですよね。段ボールじゃなくて、袋とかどうでしょう」

「そうですね、やり方はありそうです。便利になった世の中の裏返しですね」

『じゆうがたび』
どんなに忙しくても、「自分を幸せにするために旅に出る」というモットーの宇賀なつみが、これまで歩んできた “道のり”を旅の記憶とともに綴った初のエッセイ。人生そのものを、旅するかのようにドラマチックに前向きに生きるヒントがたくさん詰まった1冊。旅をテーマにしたグラビアも必見!
価格/¥1,760(税込)
著者/宇賀なつみ
発売元/幻冬舎
Amazonで見る

今回の対談の舞台となったのが、ダイニングバー「NOS Bar&Dining 恵比寿」。6月5日(月)までパントビスコの作品を展示中。ぺろちにサイコパスオといったキャラクターやポップな色彩が織りなす空間で、おいしいフードを楽しんで。

NOS Bar&Dining 恵比寿
住所/東京都渋谷区恵比寿南2-3-14 CONZE恵比寿 B1F
TEL/050-3171-8448
営業時間/月~土 18:00~26:00
日・祝 17:00~23:00
https://nosebisu.com/

 

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Photos: Wataru Hoshi Edit & Text: Yukiko Shinto

Profile

宇賀なつみNatsumi Uga 1986年、東京都生まれ。2009年立教大学社会学部を卒業後、テレビ朝日に入社。「報道ステーション」気象キャスターとしてデビュー。その後、同番組のスポーツキャスターとして、トップアスリートへのインタビューやスポーツ中継などを務めた後、「グッド!モーニング」「羽鳥慎一モーニングショー」等、情報・バラエティ番組を幅広く担当。2019年に同局を退社しフリーランスに。現在は、「土曜はナニする!?」(関西テレビ)「池上彰のニュースそうだったのか!!」(テレビ朝日)「日本郵便SUNDAY'S POST」(TOKYO FM)「テンカイズ」(TBSラジオ)等、テレビ・ラジオを中心に活躍中。初のエッセイ本『じゆうがたび』は発売から1週間も経たずして重版となり話題に。朝日新聞デジタルマガジン&[and]で旅エッセイ連載中https://aestas.tokyo/ Instagram: @natsumi_uga
パントビスコPantovisco Instagramで日々作品を発表する話題のマルチクリエイター。これまでに5冊の著書を出版し、現在は「パントビスコの不都合研究所」(Numero.jp)をはじめ雑誌やWebで連載を行うほか、三越伊勢丹、花王、ソニーなどとの企業コラボやTV出演など、業種や媒体を問わず活躍の場を広げている。近著に『やさ村やさしの悩みを手放す108の言葉』(主婦の友社)。Instagram: @pantovisco

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