パントビスコの不都合研究所 vol.10 櫻井海音 | Numero TOKYO
Culture / Pantovisco's Column

パントビスコの不都合研究所 vol.10 櫻井海音

世の中に渦巻くありとあらゆる“不都合”な出来事や日常の些細な気づき、気になることなどをテーマに、人気クリエイターのパントビスコがゲストを迎えてゆる〜くトークを繰り広げる連載「パントビスコの不都合研究所」。今回は、M&Oplaysプロデュース『鎌塚氏、羽を伸ばす』で舞台に初挑戦する俳優の櫻井海音をゲストにお迎えします。


パントビスコ 「初めまして。今日はよろしくお願いします」

櫻井海音「ようやくお会いできてうれしいです」

パントビスコ「まず対談のはじめに、お互いの似顔絵を描いていただきたいのですが」

櫻井海音「絵はあまり描かないので、難しいですね」


パントビスコ「似顔絵はオリジナルがあるので、似てる似てないの評価をされるのが難しいなと思って。僕も頼まれたら、断るんです」

似顔絵、完成!

「うわぁ~うれしい!ありがとうございます」

「キャラクターにしてしまいました。めちゃくちゃおしゃれに描いていただいて、お上手です」

フットサルの試合で出会ったある大人

「早速不都合についてお聞きしましょうか。世の中で不都合だな、不便だな、これどうなんだろうって思うことはありますか」

「そうですね……。僕、人あたりが強い大人が苦手なんですよね。自分で自分の感情をコントロールできないというのが。マナー的なところがありますよね」

「みんなに刺さるようなことですね。自分を省みたくなります。何か具体的な体験があったんですか」

「僕フットサルをやるんですけど、結構上の年代の方たちとご一緒することがあって。初めてお会いした方で僕の10個上くらいかな。そのときに、すっごいムキになられて。僕のプレースタイルもあると思うんですけど、ちょこちょこドリブルをするタイプなんですね。それで、若いやつがちょこまかやって……と思われたんでしょうね」

「だってスポーツですからね。それぞれのスタイルがありますから」

「2年くらい前なんですけど、そのときは2日くらい引きずりましたね」

「試合って“試し合い”じゃないですか。良いプレーやスポーツをするというより、個人的にムカつくという感情で動いていたんでしょうね」

「あくまで“エンジョイ”でやっているのであって、プロではないので。なんでこんなに本気でやられちゃうんだろうって(笑)」

「確かに。プロのサッカー選手の方はそういうスタンスではないですよね。精神的にも安定していると思います」

「そうですね」

「決められたルールの中でやるので、個々のプレーや考えが大事になってきますよね。ちょっとでもそこからはみ出ちゃうと、誰かを不快にさせたり。スポーツ以外でもありますよね。例えば電車で割り込みされたりもそうですし。罰則とかはないですけど、こちらからは言いにくいですよね。自分だけがもやもやして終わりってことも多い気がします」

「あぁ、多いですね。わかります」

「言い返しても通じないですし」

「僕は引き下がって、謝りに行きました」

「それは大人ですね! 自分で解決しようと……。ちなみにお相手はどのような反応だったんですか?」

「まんざらでもない感じでした。それでまたもやっとしてしまって」

「一枚も二枚も、海音さんが上手ですね。器の大きさが違います」

「いえいえ(笑)」

「もうそういう人なんだって思うしかないですよね。向こうも思い当たる節はあったんでしょうし。そこでちゃんと人間ができていたら、さっきはごめんねって言えたはずですよね。プンプン。逆に、海音さんは怒ることってありますか?」

「感情的になることはないですね、冷静に嫌なやつって感じですかね(笑)。正論で詰めていくタイプですね。友達とか」

「そういうことが言える間柄というのもありますよね。ロジカルなんですね。いや、大事だと思うんですよ。僕が面白い作品を作りたいとか、何かを動かす力になるのが、だいたい愛と怒りなんですよ。「何かが好きで伝えたい!」というときと、「これが許せない!これを変えたい!」というときと両極端なことが多いんですね。SNSの発展で個人が発信しやすくなった今、怒りを抑えなくてはいけない場面が増えた気がしていて。それでもやもやを溜めて、心を病んでしまったり。海音さんみたいに思ったことを言ったほうがいいのになって思います」

「やっぱりそうなんですね。作品をインスタで見させていただいて、こういう作品をどういうところからインプットして何を原動力としてこういう作品が作れるんだろうとずっと気になっていたので」

「動機がないと薄っぺらな作品になっちゃうので、根拠みたいなものを持つようにしています。それか、何も意味のないことを書くかですね。」

「僕はやっぱり怒りで作られている作品がすごく好きで。皮肉っているじゃないですけど、風刺的なメッセージをポップにして訴えかけている感じがすごく刺さります。代弁していただいているような気持ちになります」

「ありがとうございます。言って欲しいことを言ってくださって」

「あ、もう一つ不都合があります。もう少し、ポップなものが……。渋滞!」

「渋滞!?」

「あれだけはすごくイライラしちゃいますね(笑)ぶつけどころがないですし」

「渋滞って平等にくらいますよね。ビル・ゲイツが車に乗っていても渋滞にはまりますからね」

「仕事でよく高速を使うのですが、この前もドラマの本読みに向かっているときにとんでもなく混んでいて、これ間に合わなかったら役者人生が終わるぞというくらいの気持ちで、すごく焦りました」

「本当に顔合わせの最初の段階ですもんね」

「現場から、先輩の役者さんが次々到着する連絡が入ってくるんですよ。もう心臓がばくばくで。結局1分前に着いたんです。ギリギリ!本当はアウトなんですよ。先輩たちよりも先に来ているべきですし。あれほど渋滞を恨んだ日はなかったですね」

「しかも悲しいことに、車内で焦ってものんびりしても、時間は変わらないですしね」

「そうなんですよ(笑)」

「それは誰もが共感できる不都合ですね。僕からもひとついいですか? この間、クレジットカードを不正利用されたんです。明細はチェックするようにしているんですけど、三ヶ月連続で東京ディズニーリゾートから引き落とされていて。行っていないのに。調べたら、気づくか気づかないかの金額で、不正利用されていたみたいです。そこからが大変で、そのカードを使えなくして新しいカードを発行してもらったので、全部の支払い情報を書き換えないといけなくなったんです。それが腹立たしかったですね」

「わかります。僕もこの間財布をなくしたんですよ。この世の中ってこんなに身分を証明できないことが不便なんだっていう。何にも証明できるものがないので、再発行できないんですよ。お金を下ろしたくてもカードがないので、カードを再発行するにも免許証がないので」

「確かに!それは大変だ」

「結局住民票を発行してもらったのですが、そのときもカードの書き換えが面倒でしたね」

「いっそのこと、一枚のカードで全サービスを使えるようにして欲しいです。またそれをなくしたら大変だと思いますけど(笑)」

演じる前に“思考”することが楽しい

「作品のことを聞かせてください。海音さんは今回が初舞台なんですね」

「そうなんです。緊張や不安もありますけど、その中に期待感もありますし、まだ稽古も始まっていないので、どのような現場になるかわからないんですけど、稽古を重ねてコミュニケーションを取りながら楽しさを見出していけたらいいなと思っています」

「僕も知人から、映画やドラマはカットして短く撮っていくのに対して、舞台は一連になっているのでそこが大変というのを聞いて。セリフを全部覚えるのも信じられないです」

「僕も今だに信じられないです(笑)」

「演技していて楽しいな、とか面白さは感じていますか?」

「そうですね。演じることはすごく面白いです。演じているときというよりは、思考しているときが一番楽しいです」

「思考ですか?」

「映像作品だとテスト撮影を何回かするのですが、そのときにここの芝居はどうしようかな、こういうニュアンスにしようかな、こういう写りかたをすれば視聴者さんにわかりやすいかな、とか考えるときが一番楽しくて。もちろん本番が始まったら役に入るだけなので、そういうのは一切なくなるんですけど。それが思い通りにいったときや、本番で覆されたりしたときは、変化があるので楽しいですね」

「今回、舞台のタイトルに羽を伸ばすという言葉がありますが、仮に明日から一ヶ月休みを取っていいよと言われたら、何をしますか」

「僕、合宿がしたいんですよ」

「何合宿ですか?」

「例えばサッカーチームを作って、みんなで合宿に行きたいです」

「青春ですね」

「そうなんです。青春がしたいんですよ。学生時代はずっとサッカーをやっていたので、合宿や遠征はよく行っていたのですが、当時は本当に辛かったです。そういう辛いときの思い出の方が、ふと思い返したときによかったなぁと思うことに最近気づいて。多分辛いことの方が人間は覚えているじゃないですか。あえてそういう環境を作って、浸れるような思い出を作りたい」

「海音さん、年輪がすごいですね。休みを与えられたのに、わざわざ合宿をするなんて」

「仕事か仕事じゃないかというのが大きいと思うんですけど、合宿はそこになんの責任感もないので、そういう学生の頃の何も考えなくて良い感じとか、まさに羽を伸ばす感じが欲しいなあと」

「僕もそうなんですけど、仕事でも目的やゴール地点を作ってそこに向かうっていうことばっかりになっていて。何も考えずに無駄なことをやりたいなと思うようになりました」

「いいですねぇ。合宿したいです」

「海音さんは役者業と並行して音楽活動もされていますが、それぞれの魅力はどんなところにありますか」

「僕は音楽といってもバンドなので、それこそチームスポーツじゃないですけど、バンドという一つの塊でいろんなことをなしているのである意味安心感があって。それが俳優になると一人になることによってその責任が全部自分にくるし、言動も気をつけなきゃいけないので、そういう意味ではベクトルが違う感じがありますけど、それはそれで僕は楽しくて。一人で挑む楽しさと、チームで作り上げる楽しさはどちらも違った面白さや緊張感がありますね」

「海音さんはご自分の置かれた状況にチャレンジしたり、色をつけようとする姿勢があるのが素敵ですね」

「うれしいです。ありがとうございます」

「そういう方が演じると魅力的なものになると思いますし。舞台楽しみにしています!」

M&Oplaysプロデュース『鎌塚氏、羽を伸ばす』

“完璧なる執事”として名高い鎌塚アカシ(三宅弘城)は、密かに思いを寄せていた女中の上見ケシキに失恋したことから、すっかり元気をなくし、それを見かねた主人から休暇を言い渡される。豪華寝台特急『アルビオン』に乗車したアカシは、車内でかつて仕えていた綿小路家の令嬢チタル(二階堂ふみ)と再会を果たす。そこで殺人事件の調査を開始することになり、騒動に巻き込まれ……。櫻井さんはチタルの従者、真鍋リョウスケを演じる。

作・演出:倉持裕

出演:三宅弘城、二階堂ふみ、櫻井海音、玉置孝匡、マキタスポーツ、西田尚美

東京公演
日時:2022年7月17日(日)~8月7日(日)

会場:本多劇場

住所:東京都世田谷区北沢2-10-15

チケット発売日:2022年5月14日(土)

富山公演

日時:2022年8月11日(木・祝)



愛知公演
日時:2022年8月13日(土)~14日(日)



島根公演

日時:2022年8月16日(火)



岩手公演
日時:2022年8月21日(日)



新潟公演
日時:2022年8月24日(水)



大阪公演
日時:2022年8月27日(土)~28日(日)

http://mo-plays.com/kama6/

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Photos: Kouki Hayashi Hair & Makeup: Go Takakusagi(VANITES) Styling: Akiko Fujii Edit & Text: Yukiko Shinto

Profile

櫻井海音Kaito Sakurai 2001年4月13日生まれ、東京都出身。NHK連続テレビ小説「エール」(2020)や「逃げるは恥だが役に立つ」(2021)などへの出演をきっかけに俳優として本格的な活動をスタート。その後、ドラマ「ナイト・ドクター」(2021)、「つまり好きって言いたいんだけど、」(2021)、映画「嘘喰い」(2022)などに出演。『王様のブランチ』のレギュラーやJ-WAVE「PIA SONAR MUSIC FRIDAY」のナビゲーターを務める。Kaito名義でバンド、インナージャーニーのドラムを担当。 https://www.kaitoweb.net/ Instagram: @kaito_0413
パントビスコ Pantovisco Instagramで日々作品を発表する話題のマルチクリエイター。これまでに5冊の著書を出版し、現在は「パントビスコの不都合研究所」(Numero.jp)をはじめ雑誌やWebで7本の連載を行うほか、三越伊勢丹、花王、ソニーなどとの企業コラボやTV出演など、業種や媒体を問わず活躍の場を広げている。近著に『やさ村やさしの悩みを手放す108の言葉』(主婦の友社)。Instagram: @pantovisco

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