伝説のデザイナー、そして知られざる「倉俣史朗」に出会う @世田谷美術館
東京・世田谷美術館で「倉俣史朗のデザイン―記憶のなかの小宇宙」が開催されている。倉俣史朗は、1960年代から90年代にかけて活躍したデザイナー。イッセイミヤケの店舗デザイン、透明な椅子「ミス・ブランチ」をはじめ独創的な内装や家具などを発表し、60年代以降のデザイン界に大きな影響を与えた。
本展では「倉俣史朗自身」を一つの軸としながら、初期から晩年までの仕事が紹介されていく。また「夢日記」など、これまでにあまり紹介されることのなかった資料も展示され、倉俣史朗の新たな一面に触れることができる。2024年1月28日まで。
代表作の一つである椅子「ミス・ブランチ」は、まるでバラが浮遊しているような透明な椅子。それまで家具に使われることのなかったアクリルなどの工業素材が用いられ、さらにはモノとしてだけでなく詩的な感情が引き起こされると、多くの人々を魅了した。
1991年、倉俣史朗はキャリアの最盛期に、56歳という若さで亡くなってしまったが、今なお伝説的なデザイナーとして、世界からの評価は高まっている。2021年には、香港の美術館「M +」に倉俣史朗がインテリアデザインを手がけた新橋の寿司店「きよ友」がまるごと移設され、再現展示されたことが話題となった。さらに近年では、エキスパンドメタルの椅子「ハウ・ハイ・ザ・ムーン」、通称”オバQ”な照明「K-Series」など、復刻も続いている。
「倉俣史朗のデザイン―記憶のなかの小宇宙」展では、独立前の三愛時代から始まり、年代ごとに区切られた仕事がテーマごとに紹介される。そして途中には「倉俣史朗の私空間」として、愛蔵の書籍やレコードが展示され、終盤ではイメージ・スケッチ、夢日記や言葉などがまとめて紹介されている。これほど大規模に、倉俣史朗の手がけた椅子や家具、資料などが揃う機会はとても貴重だ。
また倉俣史朗は、1978年以降、世田谷で暮らしていたという。ここ世田谷美術館で企画された本展では、並ぶ書籍やレコードや、これまであまり紹介されてこなかった夢日記など、”伝説のデザイナー”としてではなく、倉俣史朗という人間の気配までをも読み取りたくなってしまう。
倉俣史朗が手がけたものたち、そして内面や思考の痕跡でもあるスケッチや言葉たち。それは形になってからも、形にならなくとも、時を超えて軽やかに広がり、浮遊しつづけている。
12月3日(日)には、インテリアデザイナーの近藤康夫による講演会「今、倉俣史朗を振り返る」が開催される。ぜひ世田谷美術館にて再び、新たに「倉俣史朗」に出会ってほしい。
倉俣史朗のデザイン―記憶のなかの小宇宙
期間/2023年11月18日(土)〜2024年1月28日(日)
会場/世田谷美術館
住所/東京都世田谷区砧公園1-2
時間/10:00〜18:00(最終入場時間 17:30)
休館日/毎週月曜日および年末年始(2023年12月29日(金)~2024年1月3日(水))※ただし2024年1月8日(月・祝)は開館、1月9日(火)は休館。
観覧料/一般1,200円、65歳以上1,000円、大高生800円、中小生500円
※各種割引、詳細は公式HPをご確認ください。
URL/www.setagayaartmuseum.or.jp
講演会「今、倉俣史朗を振り返る」
講師/近藤康夫(インテリアデザイナー)
日時/2023年12月3日(日)15:00~16:30
会場/講堂 定員/先着140名
参加費/無料
※当日午後2時より講堂前にて整理券を配布。※手話通訳付き
Text:Hirromi Mikuni