成河が挑むオートフィクションの迷宮──『ナルキッソスの怒り』 | Numero TOKYO
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成河が挑むオートフィクションの迷宮──『ナルキッソスの怒り』

東京芸術劇場で開幕する『ナルキッソスの怒り』は、俳優の成河が一人で演じる舞台だ。

原作はウルグアイ出身でフランスを拠点に活動する劇作家・演出家のセルヒオ・ブランコによる戯曲。いわゆる一人芝居ではなく、作者自身をモデルとした語り手が登場するオートフィクションという形を取っている。

物語は、セルヒオ自身が滞在したスロベニアの首都リュブリャナのホテルでの体験をもとに描かれる。セルヒオが学会に参加するために訪れたリュブリャナで出会ったイゴールという美しい青年。彼と知り合ったことから、徐々に不可解な出来事が起きていく……。

2015年にウルグアイの首都・モンテビデオで初演されてから、南米・欧州ツアーを経て、2020年にはロンドン公演が行われ、2021年オフ・ウエスト・エンド・シアター・アワード最優秀新作賞を受賞している。その後も、15言語以上に翻訳され20ヶ国以上で上演が重ねられ、今回待望の日本初演を迎えることとなった。

この芝居に挑むのは、ミュージカルからストレートプレイまで幅広い役柄に出演している成河だ。軽妙なトークや気軽で親しみやすいキャラクターとして舞台に登場し、観客のハードルを引き下げておいて、作品の主題をしっかりと心に根付かせていく。

新国立劇場『ピローマン』では抑圧下に生きる作家の狂気を見せ、ミュージカル『ライオン』では、ミュージシャンでもあるオリジナルキャストにも引けを取らない演奏と演技で、一人の人間の人生をつむいだ。さらに神奈川芸術劇場の『冒険者たち』シリーズでは、土地そのものを体現するようなユーモラスながら深みのある役柄が記憶に新しい。

どの作品に関しても感じることは、役に対する理解が非常に深い、ということだ。役だけでなく、作品自体が今の社会に照らし合わせてどうなのか、という考察を常に怠らない。演出家が信頼を寄せる理由も、そこにあるのだろう。

今回の『ナルキッソスの怒り』は、オートフィクションという作品の性質上、成河自体が登場する形になるのだが、セルヒオ・ブランコの許可を得て、そのセリフを成河自身が書くという。

演出は成河と絆の深い藤田俊太郎。これまでも数多くの作品で受賞しているが、昨年は『リア王の悲劇』、成河も出演した『VIOLET』の演出により芸術選奨新人賞を受賞している。

実力派の俳優と気鋭の演出家による本作は、単なる一人芝居では収まらないだろう。成河がどこまで自らを差し出すのか。その先に立ち現れるものを、ぜひ劇場で体感してほしい。

舞台『ナルキッソスの怒り』
出演/成河
作/セルヒオ・ブランコ
翻訳/仮屋浩子(『ナルキッソスの怒り』北隆館刊)
上演台本/仮屋浩子 成河 藤田俊太郎
演出/藤田俊太郎
公演日程/2026年4月18日(土)~4月30日(木)
会場/東京芸術劇場 シアターウエスト
チケット料金(税込)/原作本付指定席 10,400円 指定席 8,800円
問い合わせ/チケットスペース 03-3234-9999
(10:00~15:00 ※休業日を除く)
URL/https://narcissus-stage.com/

Text:Reiko Nakamura

 

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