ディオール(Dior)は、現地時間の3月3日にパリ・チュイルリー庭園にて2026−2027年秋冬ウィメンズコレクションを発表。日本から参加した、俳優の河合優実、今田美桜に加え、グローバルアンバサダーを務めるジス(BLACKPINK)やヒョンジン(Stray Kids)、アニャ・テイラー=ジョイ、エヴァー・アンダーソンら豪華セレブリティがフロントロウを彩った。
本コレクションの会場となったチュイルリー庭園は、今から450年以上前にカトリーヌ・ド・メディシス女王によって建設が命じられた由緒ある庭園。ルイ14世による再設計を経て、1667年には一般市民にも解放されたが、訪問者に厳格なドレスコードが要求されたという。当時から現在に至るまで、この場所を訪れるすべての人たちが「観察者」であり、散策すること自体が一種のパフォーマンスと化すという点においては、誰もが等しく「見られるため」の舞台でもあったのだ。アーティスティック・ディレクターを務めるジョナサン・アンダーソンにとっても創造性を掻き立てるこの場所を、ショーステージとしても機能させるために庭園内に回廊型のセットを配置。自然豊かな庭園内にあえてイミテーションの公園を作り上げた。

コレクションノートには、レズビアン小説の傑作と謳われるラドクリフ・ホール『孤独の井戸』(1928年)から「噴水は空中に水しぶきの雲を投げ、気まぐれに虹をかけた」という一節を引用しており、人工物から生み出される偶発的な美しさを期待したことが見て取れる。また、主人公がセクシャルマイノリティとして、自身のアイデンティティを探求する同小説の内容をなぞらえれば、アンダーソン自身も、男性と女性、非現実と現実、自然物と幻想というように単純な二元論では語れない曖昧さのなかに「美」や「本質的な価値」を見出したのではないだろうか。

抑制を効かせた弦楽器の調べが徐々に高揚感を高めるSentieri Selvaggi, Carlo Boccadoro & Emanuele De Raymondiの『Triptyque』が流れると、ショーはスタート。ファーストルックは、ポップコーン編みのような表情感のあるニットトップスにチュールスカートを組み合わせたドレス。キュッと締まったウエストから裾に向かって広がるペプラムは、メゾンのアイコンピース「バー」ジャケットを再解釈したもの。ティアードになったフリルの一部には小さなビジューがあしらわれており、銀のテープのトリミングも相まって、1949年オートクチュールコレクションで披露された「ジュノン」ドレスを想起させる。また、ティアードフリルは、ウェディングドレスのバッスルのように裾を引きずるほど長くボリューミーで、歩くたびにふんわりと揺れるバックシャンにロマンティックな余韻を残す。その後、カラーは異なるが、スカート部分が同一デザインのドレスが続くと一転、ガンクラブチェックのジャケットと共地のストール、パンツを合わせたルックが登場。風を孕んだような軽やかなテクスチャーとゆとりのあるシルエットが、クラシカルな柄行きをコンテンポラリーに魅せている。
ガンクラブチェックは、その後も裾部分に分量をたっぷりとってドレープを形作ったローブジャケットなどにも採用。また、今年1月のメンズコレクションでも披露されたポール・ポワレから着想を得たブロケードは、今回もジャケットやドレスなどにも用いられた。シルクのような光沢感のある生地に、金糸を使って織り上げた精緻な色柄は、本コレクションのインスピレーションにも寄与したルイ14世によって隆盛を極めた豪華総覧なバロック様式に通ずるものがある。他にも、素材やカラーなど、バリエーションで披露されたラペルをサテンで切り替えたスモーキングジャケット風のロングコートも目を引いた。ベルベットの質感やVゾーンから大胆に肌を覗かせたセンシュアルなルックは、無造作なヘアスタイルや足元に合わせたTストラップパンプスという一見“チグハグ”な組み合わせによって、エレガンスなムードをノンシャランに中和する。

ちなみに、オフィシャルのYouTubeチャンネルでショーを見ると、時折りドローンによる真俯瞰視点の映像が差し込まれる。ランウェイを中心にして、左右に「バッサン オクトゴナル(八角形の池)」 の水面に人工物の睡蓮が浮かぶ“イミテーションの”庭は、人為的だからこそ極めてグラフィカルな美しさを演出する。
サウンドトラックが、NEW YORKの『think of you』に変わった中盤以降には、メゾンのシグネチャーをアンダーソンなりに解釈したコレクションピースが続く。先述した「バー」ジャケットは、シルエットはそのままに砂時計型のスリーブにアレンジしたり、直接的なリファレンスではないかもしれないが、1952年秋冬コレクションで発表された「シガール」ドレスのウエストラインが張り出したような異形なシルエットの片鱗を伺わせるピースも存在する。
なかでもアンダーソンのデビューコレクション以来、メンズ、ウィメンズともに多用されている“デルフト”ドレスからの引用は今回も登場。パネルを幾重にも重ねてボリュームを出したディテールは、ジャケットのヘムラインにアクセントを添えたり、アウターのフロントデザインやドレスの後ろ身頃などにも取り入れられていた。また、前任者のマリア・グラツィア・キウリが多用していたモチーフのひとつで、ムッシュ・ディオールも愛したリボンやボウ(蝶々結び)は、アンダーソン就任以来、やや控えめな印象であったが、本コレクションではサテンのリボンを縦使いしてフリンジに応用。リボンの結び目で不規則な流れを生むフリンジが、歩く度に足に絡んでは離れるさまはプリミティブな躍動感を覚えた。

他にもアンダーソンの特徴でもある「ドレスアップとカジュアルダウンに象徴される相反するものの駆け引き」は、今回も多方に見て取れる。デニム地のティアードスカートもその好例だが、出色だったのが終盤に登場したダブルブレストのジャケットにフェード感の強いワイドシルエットのデニムを合わせたルックだ。別布で切り替えたピークドラペルのジャケットに微かに現れるネップのような表情は、スパンコールを散りばめたもので、ハンドルに手を通さずラフに掴んだハンドバッグも含めて、エフォートレスなムードが時代の空気感と呼応する。
小物類に目を向けると、睡蓮を模ったアシンメトリーなサンダルや、ストラップに「DIOR」のメタルアクセサリーをあしらったスエードブーツなどのシューズ類に加え、オールニット製のトップハンドルバッグやリボンとポルカドットを組み合わせたレザーバッグ、アンダーソンらしい童心をくすぐる亀を模したがま口バッグなどが印象に残った。バッグはショーに登場しただけでも相当数のデザインやバリエーションが見られ、この中からブックトートのような大ヒットが生まれるかもしれない。
“最新こそ最高”というクリシェは、ことファッションにおいては全く当てはまるものではないが、アーティスティック・ディレクターに就任して以来、常にキャリアハイを更新していくようなアンダーソンのクリエイションを見ていると、あながち嘘ではないとも思えてくる。市井の「観察者」として、素晴らしいショーを鑑賞した直後でも、余韻に浸ることなくすぐに次のコレクションへの期待に変わることが、その証左と言えるだろう。
Dior
クリスチャン ディオール
TEL/0120-02-1947
URL/www.dior.com
Text: Testuya Sato
















































