クリエイティブ集団「ユーフラテス」出身、石川将也が「佐藤雅彦展」をレビュー | Numero TOKYO
Art / Feature

クリエイティブ集団「ユーフラテス」出身、石川将也が「佐藤雅彦展」をレビュー

佐藤雅彦+中村至男 《勝手に広告》 撮影:加藤健
佐藤雅彦+中村至男 《勝手に広告》 撮影:加藤健

教育番組『ピタゴラスイッチ』やTVCM、書籍、ゲームなど、さまざまなメディアを通じて発信される斬新かつ親しみやすいコンテンツにより、1990年代以降のメディアの世界を牽引してきた佐藤雅彦。その創作活動の軌跡をたどる展覧会「横浜美術館リニューアルオープン記念展 佐藤雅彦展 新しい×(作り方+分かり方)」では、「作り方を作る」という思想に裏打ちされた独創的なコミュニケーションデザインの方法論を明らかにした。佐藤に師事し、慶應義塾大学佐藤雅彦研究会OBが立ち上げたクリエイティブグループ「ユーフラテス」にも所属していたグラフィックデザイナーで視覚表現研究者の石川将也が本展をレポート。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2025年11月号掲載)

佐藤雅彦+齋藤達也 《指を置く》 撮影:加藤健
佐藤雅彦+齋藤達也 《指を置く》 撮影:加藤健

目新しさに終わらない脳への新しさ

デザイン、すなわち「機能を持った表現」を美術館に展示することは、本来の想定とは異なる対象に提示されることを意味する。美術の文脈から批評されたり、発表時に感じられた「新しさ」が時を経て失われてしまうこともある。例えば、本展で展示されている『指紋の池』に使われている指紋認証技術は、スマホで顔認証が主流な現在、少し古い技術という印象がある。しかし読み取った自分の指紋がディスプレイの池の中に現れ、おずおずと泳ぎ出し、他の指紋の群の中に紛れていく様と、その結果生じる「愛らしい」という表象は、ここでしか味わえない。本作に限らず、佐藤雅彦による創作物の多くが今もなお「新しい」のは、それが技術的・視覚的にそれまでに存在しなかったという以上の新しさを目指して作られてきたからだ。つまり展覧会タイトルにもある「新しい分かり方」である。

横浜美術館「佐藤雅彦展」会場風景 撮影:加藤健
横浜美術館「佐藤雅彦展」会場風景 撮影:加藤健

「どうしたらそれが伝わるのか?」「どうすればそれが分かるのか?」に向きあい続けた佐藤のコミュニケーションデザインは、情報の一方的な伝達ではなく、受け手の認知能力を能動的に活用させることで理解が生まれる点に特長がある。15秒CMでは到底伝えきれないような情報が、それまでの人生で一度もしたことのなかったような思考経路を通して、構造ごと頭の中に立ち上がった時に生じる、自分の能力に対する喜び。そのような分かり方をして得た情報は強い。しかしそれを実現するためには、時としてそのメディアで当たり前とされている既存の制作手法とは違う「新しい作り方」から生み出す必要があった。「装置合宿」というNHKのスタジオの使い方から開発した「ピタゴラ装置」のように。展覧会自体も、「新しい作り方」の数々を伝える、美術館というメディアを用いた佐藤の最新作で、メディアに応じた伝達手法を開発し用いる様が示されている。

横浜美術館「佐藤雅彦展」会場風景 撮影:加藤健
横浜美術館「佐藤雅彦展」会場風景 撮影:加藤健

横浜美術館リニューアルオープン記念展
「佐藤雅彦展 新しい×(作り方+分かり方)」

会期/6月28日(土)~11月3日(月・祝)
会場/横浜美術館
住所/神奈川県横浜市西区みなとみらい3-4-1
TEL/045-221-0300
URL/https://yokohama.art.museum/
※オンラインチケットは予定枚数を終了しています
※当日券、若干枚あり

Text:Masaya Ishikawa Edit:Sayaka Ito

Profile

石川将也 Masaya Ishikawa グラフィックデザイナー、視覚表現研究者。1980年生まれ。2000年より佐藤雅彦に師事。19年までユーフラテスに所属。20年独立。最新作はU-NEXTによる新しい工作番組『うご工作』。@kamone
 

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