展覧会レビュー:写真家ルイジ・ギッリが描き続けた“地図”

コンセプチュアル・アーティストたちとの出会いをきっかけに、1970年代から本格的に写真家として活動を始めたルイジ・ギッリ。出身地であるイタリアや旅先での風景、アーティストのスタジオなど、多様な視覚的断片によって構成された風景表現を中心に紹介する展覧会「総合開館30周年記念 ルイジ・ギッリ 終わらない風景」が東京都写真美術館(恵比寿)にて開催中。彼の活動を語るうえで欠かせないグラフィック・デザイナーの妻パオラ・ボルゴンゾーニについても触れ、ギッリの写真に対する多角的な思索をたどる本展をアートライターの住吉智恵がレポートする。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2025年10月号掲載)

記憶に導かれる写真という地図
写真と記憶は常に分かちがたい関係を結んでいる。イタリアの写真家ルイジ・ギッリの写真は、出身や文化背景の異なる人々の内面にそっと働きかけて記憶を呼び起こし、まるで子どもの頃の自分がそこにいたかのような気持ちにさせてしまう。1970 年代、測量技師をしながら30代で写真を始め、わずか20年ほどの活動後に早逝したギッリ。そのアジア初の美術館での個展で、近年再評価が進むコンセプチュアルな作家としての側面と共に、色彩や光、空間に対する天性の美的感覚やユーモアのセンスを堪能した。イタリアをはじめとする旅先や街角の看板やポスター、美術品や自宅の室内、窓や鏡に映り込む風景、地図や本など印刷物。断片的なイメージが詩編のように組み合わされた一枚の平面には、遠近法もスケールも逸脱した光景が立ち現れる。観る人に応じて多様な意味を帯びるその風景は、第三者にさえも実在感やノスタルジーをもたらすのだ。

画家ジョルジョ・モランディ、建築家アルド・ロッシのアトリエを撮影した代表作は見どころの一つだ。不在の主の人物像を写真家の慧眼がインテリアの細部に見いだしていく作品群は、複数の芸術家の視点が入れ子になったネスト家具を思わせる。さらに公私共にギッリを鼓舞したグラフィックデザイナーの妻パオラの存在が作家の魂を下支えしている。測量技師として地図を作成していたギッリが生涯探求したのは、周囲の世界を彩るさまざまな記憶に導かれた風景であり、そこに到達するための方位も縮尺もない想像上の地図だったのかもしれない。




「総合開館30周年記念
ルイジ・ギッリ 終わらない風景」
会期/2025年7月3日(木)~9月28日(日)
会場/東京都写真美術館
休館日/月曜日(月曜日が祝休日の場合は開館し、翌平日休館)
開館時間/10:00~18:00
※木・金曜日は20:00まで。
※8月14日(木)~9月26日(金)までの木・金曜日は21:00まで
※入館は閉館30分前まで
URL/https://topmuseum.jp/
Text:Chie Sumiyoshi Edit:Sayaka Ito
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