
東京都写真美術館にて、ポルトガルを代表する映画監督ペドロ・コスタによる個展「インナーヴィジョンズ」が開催されている。ドキュメンタリーとフィクションの境界を揺るがす独自の映像表現で現代映画の最前線を切り開いてきたペドロ・コスタ。映画を主軸とし、美術とは距離をおきながらも、これまで自らの映像作品を展覧会の形でも発表してきた。本展は、美術館での個展としては日本最大規模、東京では初の開催となる。2025年12月7日(日)まで。

ペドロ・コスタは、映画監督として1989年のデビュー作『血』ヴェネチア国際映画祭で注目を集め、『骨』(1997)や『ヴァンダの部屋』(2000)で国際的評価を確立。『ヴァンダの部屋』では、旧ポルトガル領カーボ・ヴェルデから移住した人々が暮らすリスボンのスラム街を舞台に、過酷な日常を静謐かつ緻密な映像で描き、ドキュメンタリーとフィクションの境界を揺るがす新たな表現を提示した。その後『ホース・マネー』(2014)でロカルノ国際映画祭最優秀監督賞、『ヴィタリナ』(2019)で金豹賞を受賞している。

今回の展示では、ポルトガルで暮らすアフリカ系移民の歴史を映し出す『ホース・マネー』(2014)など、コスタ作品において重要な役割を担う、ヴェントゥーラをはじめとする登場人物たちや、彼らが生きる場所に関わる映像作品に加え、東京都写真美術館のコレクションも紹介。


コスタは、「映像そのものは同じでも、映画と美術館の展示ではそのつながり方が違う」と語っている。映画ではひとつの流れとして編集される映像が、本展では断片として空間に分散され、訪れた人たちは映像、写真、音が交錯する展示空間を歩きながら、その断片を自らで編み直すように体験することができる。

なお、本展のタイトルは、スティーヴィー・ワンダーのアルバム『インナーヴィジョンズ(Innervisions)』(1973年)と同名でもある。コスタが15歳だった1974年当時は、ポルトガルの独裁政権崩壊と植民地解放へとつながるカーネーション革命のさなかだった。そんな時期に出会ったこのアルバム『インナーヴィジョンズ』に、深い影響を受けた。階級や人種にまつわる喪失と希望を描いた本作に、激動の時代と自身の内面の変化がかさなり、共鳴したという。
そしてインナーヴィジョンズが持つ「内面のヴィジョンであり、内面から現れるヴィジョンでもある」という二重の意味は、コスタの映像表現にも通底している。
本展では、展覧会のために映像作品を制作するのではなく、映画を美術館の空間に持ち込むことで、新たな体験を生み出す試みに挑んでいる。

会期中、1Fホールでは、コスタ自身の作品を上映する「ぺドロ・コスタ特集上映」(11月27日〜12月7日)なども開催。ペドロ・コスタの世界を、さまざまな形で体感できる貴重な機会。ぜひ訪れてほしい。

総合開館30周年記念 ペドロ・コスタ インナーヴィジョンズ
期間/2025年8月28日(木)〜12月7日(日)
会場/東京都写真美術館 地下1階展示室
住所/東京都目黒区三田 1-13-3 恵比寿ガーデンプレイス内
TEL/03-3280-0099
時間/10:00〜18:00(木・金は 20:00 まで)
※9月26日までの木・金曜日は21時まで開館
※入館は閉館の30分前
休/毎週月曜日(月曜日が祝休日の場合は開館し、翌平日休館)
観覧料/一般 800円、学生 640円、高校生・65 歳以上 400円
URL/topmuseum.jp
※詳細は公式ウェブサイトをご確認ください。
Text:Hiromi Mikuni
