展覧会レビュー:“君が私を完成させる” ライアン・ガンダー展@箱根

コンセプチュアル・アートの旗手として知られるイギリスのアーティスト、ライアン・ガンダー。日本初公開作品や本展のためにつくられた新作が紹介される展覧会「ユー・コンプリート・ミー」が、神奈川・箱根のポーラ美術館にて開催中。国内でも高い人気を誇る作家の現在地をアートライターの杉原環樹がレポートする。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2025年9月号掲載)

世界を新鮮に組み立て直すために
世界には、現実化してはいないが「あり得た別の現実の姿」が、つねに無数にある。人は日頃、いつも通りのものの見方や思考からなかなか抜け出すことができない。けれども、頭の中にじつはある小さな考えの種や疑問に新鮮に、正面から向き合うことができれば、現実は異なる輝きを帯びるのではないか? ライアン・ガンダーが本展で見せるのは、そんな可能性に開かれた世界への誘いである。

ロビー横の部屋にある、床に綺麗に並べられた膨大な数の玩具やゲームのパーツと、壁のパネルに貼られたハズレのクジは、世界がいまのこの姿であるのはたまたまにすぎず、じつはいかようにも選択可能であることを想起させる。近くには、時間の絶対性を揺るがす二重になった時計のオブジェや、ポーラ美術館で実際には行われなかった架空の展覧会のポスターもある。

どこか小難しい展示のように聞こえるかもしれないが、本展はじつにポップで明るい。別の展示室では、壁から顔を出した2匹のネズミが、作者の子供たちの声で美術作品である自らについて喧喧諤諤(けんけんがくがく)、議論している。館内に無数に置かれた「影に音はあるの?」などの素朴な問いが書かれたボールは、読む者の頭に玉突きゲームのように想像の連鎖を生み出す。そもそも、型通りの思考から離れ、子供のように世界で遊ぶことは楽しいのだ。
ガンダーは本展のハンドアウトで、あらゆることが創造行為の素材となると述べる。くだらなく思える物事も、断片的な記憶も、世界に孤立したものなどなく、扱い方次第で瑞々しい意味を持ち得る。「君が私を完成させる」。本展の題名の通り、世界はいまも、あなたにそう呼びかけている。


「ライアン・ガンダー:ユー・コンプリート・ミー」
会期/2025年5月31日(土)~11月30日(日)
会場/ポーラ美術館
住所/神奈川県足柄下郡箱根町仙石原小塚山1285
時間/9:00〜17:00 ※入場は16:30まで
会期中無休
https://www.polamuseum.or.jp/sp/ryan-gander/
Text:Tamaki Sugihara Edit:Sayaka Ito
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