シャネル(CHANEL)は、2025-26年秋冬 オートクチュール コレクションをパリにあるグラン パレのサロン ドヌールで開催。メゾンのアンバサダーを務めるキーラ・ナイトレイやマリオン・コティヤール、グレイシー・エイブラムス、ソフィア・コッポラと娘のロミー・マーズ、コジマ・マーズらに加え、日本からは俳優の安藤サクラ、宮沢氷魚などが参加した。
新たなアーティスティック・ディレクターにであるマチュー・ブレイジーのデビュー前ということもあり、今回のコレクションもクリエイション・スタジオが手掛けた。フロントロウのソファや床に敷き詰められたエクリュの絨毯、ロココ調の装飾が施された門扉など、パリ・カンボン通りにあるシャネルのオートクチュール サロンを想起させる舞台美術がノーブルなムードを後押しする。

会場内に、ロンドン出身のチェリスト/コンポーザー、オリヴァー・コーツとマイカ・レヴィの共作『Pre-Barok』が流れると、ショーはスタート。ファーストルックから全身アイボリーでまとめたルックが続く。メゾンのシグネチャーマテリアルであるツイードは、袖や裾にフリンジをあしらったミディドレスや、表情感のあるブークレー糸で編み立てたノースリーブのセットアップなど、ディテールやテクスチャーでバリエーションを魅せる。ブークレーツイードのコートドレスには、鳥の羽のような大量のブレードがあしらわれており、重層的な造形に卓越したサヴォアフェールが息衝く。いずれも足元はカラートーンを揃えたニーハイブーツやロングブーツを合わせており、かつてガブリエル・シャネルが打ち出した“シンプリシティ”への回帰をテーマとしながら、懐古主義とは異なる魅せ方に更新され続ける伝統の重要性が伺える。
コレクションを通して印象に残ったのが、冬のシグネチャーピースの再考である。中でもエクリュ、アイボリー、グリーン、ブラックなど幅広いカラーで展開されたスーツは、リトル ブラック ドレスなどと並ぶガブリエル・シャネルの発明のひとつであり、ファッションにおける旧弊な性規範を取り払ったジェンダーレスな装いの先駆けである。ジャケットはノーカラー&フロントに配した4つのポケットなど、象徴的なディテールを踏襲しながら、裾や袖口に毛足の長いフェザーのフリンジをあしらったものやカラフルな糸がメランジ状に溶け合ったツイード素材、さらに一見するとセーターのようなニット地のものなど、バリエーションも豊富。ニュアンスのあるグリーンの短丈ジャケットにクリース入りのワイドパンツを合わせたルックは新鮮で、メンズウエアから着想を得たスーツのシルエットには、動きを制限されることのない女性たちの自由な意思が込められているという。
ガブリエル・シャネルの影響という点では、彼女が愛したイギリスの田園風景やスコットランドの荒野からインスピレーションを受けたルック群に顕著であった。一際異彩を放っていたブラウンのハンティングジャケットは、オートクチュールの豪奢で煌びやかなイメージとは対を成す牧歌的なムードのアイテム。下半身のショートパンツとロングブーツの組み合わせがクラシカルなムードを助長するが、よく見るとジャケットは腰元でレイヤード風にセパレートされており、ヘルシーな肌見せが、カントリー風の佇まいにセンシュアルなアクセントを添えている。
また、メゾンの屋台骨を支えるアトリエの高度な技術力は圧巻。たっぷりとしたフェザーと肌が透けて見えるほど極薄のシアー素材を組み合わせたケープや、精緻な刺繍とカットアウトの技法が融合したシャンパンカラーのミニドレス、黒のツイードにスワンダウンを散りばめ雪景色を表現したコートなど、技巧の素晴らしさからは、メゾンが培った歴史の堆積が見て取れる。
なかでも出色だったのが、終盤にいくつか登場したボリューム感のあるシフォンのスカート。極薄の生地とたっぷりとした量感が優美なシルエットを描き、まるで水面に絵の具を落としたかのようなグラデーションは、モデルが足を踏み出す度に色の濃淡が変化しているのかと、目の錯覚を覚えるほど。風を孕んだようなドレープの表情もドラマティックさを際立たせていた。

今回、広大な自然への憧憬とオートクチュールの華やかな世界観を結びつけたのが、「麦の穂」のモチーフだ。ガブリエル シャネルが大切にしてきたこのモチーフは豊さを象徴するものであり、本コレクションにおいてもストラップドレスに付いたシフォンのフラウンスに織り込まれたフェザーや総柄のセットアップ、ジュエルボタンのディテールなど、様々な形で引用されていた。ショーのラストに登場したのは、麦の束を手にしたウエディングドレス姿のモデルで、ネックラインに沿って同モチーフの刺繍が施されている。風に揺られ砕け散った麦の穂を想起させるドレスにグラフィカルな柄行きも含めて、刹那的な美しさがえも言われぬ詩情を醸し出す。

クリエイション・スタジオが手掛ける最後のコレクションとなった今回、改めてメゾンに通底する崇高なサヴォアフェールを印象付けた。ある種の原点回帰を経て、マチュー・ブレイジーが次回、どんなクリエイションを見せてくれるのか俄然期待が高まる。
Chanel
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Text: Tetsuya Sato






































