展覧会レビュー:再発見された女性画家「ヒルマ・アフ・クリント展」 | Numero TOKYO
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展覧会レビュー:再発見された女性画家「ヒルマ・アフ・クリント展」

展示風景 Photo: Miyoshi Fumitaka
展示風景 Photo: Miyoshi Fumitaka

スウェーデン出身の画家ヒルマ・アフ・クリント(1862–1944)のアジア初となる大回顧展が東京国立近代美術館にて開催中。抽象絵画の先駆者として近年再評価が高まっているアフ・クリント。彼女の代表作品を中心に、スケッチやノート、同時代の秘教思想や女性運動といった多様な制作の源など、画業の全貌を見られる貴重な機会をライターの青野尚子がレポートする。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2025年6月号掲載)

展示風景 Photo: Miyoshi Fumitaka
展示風景 Photo: Miyoshi Fumitaka

天からのメッセージのような絵画

初めてヒルマ・アフ・クリントの絵を見たのは2019年、ニューヨークのグッゲンハイム美術館での回顧展だった。ほとんどノーマークだった作家がこんなに大きな、しかも大量の絵を描いていたなんて。パステルカラーの円や渦巻、花のような模様はスピリチュアリズムや神智学でいう「高次の存在」から啓示を受けて描いたものだという。グッゲンハイム美術館の円形空間にふわふわと漂う不思議な空気にすっかり取り込まれて、スパイラル状の展示空間を何度も行き来してしまった。

展示風景 Photo: Miyoshi Fumitaka
展示風景 Photo: Miyoshi Fumitaka

東京国立近代美術館での展示にはそれらスピリチュアリズムと関係した絵画のほかに学生時代や商業画家として成功を収めていたころの作品が並ぶ。伝統的な手法による絵画からはしっかりとしたデッサンなど、彼女の力量が並々ならぬものであることがわかる。

展示風景 Photo: Miyoshi Fumitaka
展示風景 Photo: Miyoshi Fumitaka

ヒルマが抽象的な絵を描き始めたのはカンディンスキーやモンドリアンらに先んじるとして彼女を抽象画の祖と考えるべきでは、という見方もある。ただ、ヒルマの抽象画は「高次の存在」からのメッセージを伝達するためのものであり、彼女自身がそれを自己表現の一手段としての芸術と考えていたかどうかは疑問だ。

ヒルマ・アフ・クリントが美術史の文脈で注目されるようになったのはつい最近のことだ。これから研究が進めば彼女の作品や生涯について私たちが知らなかったことが明らかになるかもしれない。美術史や、美術史における彼女の位置をどう定義づけるのか、そのことも含めて気になる作家だ。

展示風景 Photo: Miyoshi Fumitaka
展示風景 Photo: Miyoshi Fumitaka

展示風景 Photo: Miyoshi Fumitaka
展示風景 Photo: Miyoshi Fumitaka

「ヒルマ・アフ・クリント展」

会期/2025年3月4日(火)〜6月15日(日)
会場/東京国立近代美術館
時間/10:00〜17:00(金・土曜は20:00まで、入館は閉館30分前まで)
休館日/月曜
URL/art.nikkei.com/hilmaafklint/

Text:Naoko Aono Edit:Sayaka Ito

Profile

青野尚子 Naoko Aono アート、建築を中心に活動するライター。美術館ラバー。『背徳の西洋美術史 名画に描かれた背徳と官能の秘密』『超絶技巧の西洋美術史』(ともに池上英洋と共著)など。
 

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