忙しい時やストレスにさらされた後など、自分が辛い思いをしたときほど、面白い映画やドラマを欲する、という人も多いだろう。
辛い状況を乗り越えたご褒美としても良いし、現実逃避の効果もある。また、よくできたコメディの中には、笑いだけでなく人の心の深いところを温めてくれるような、そんな作用も感じられる。
新年度の忙しさなどでバタバタしている人にぜひおすすめしたいのが、シアタークリエで上演される『陽気な幽霊』だ。
この作品は1941年7月にロンドンのピカデリー劇場でウエストエンド初演され、5年間1997回という驚異的な連続公演記録を達成。1945年には名匠デヴィッド・リーン監督により映画化もされている。その後もブロードウェイを始め世界各地で繰り返し上演され、2020年には再び映画化されるなど、人気の高い作品だ。
作者はイギリスの劇作家ノエル・カワード。上流階級・中産階級を背景にした洒脱でウィットに富んだコメディの劇作家として成功をおさめ、俳優、作詞家、作曲家、演出家、映画監督、プロデューサーとして多彩に活躍し、社交界のセレブリティとしても有名だった人物だ。
ウェルメイドコメディとして名高いこの作品は、カワードが第二次世界大戦中のロンドン大空襲で数々の死と破壊に直面した経験を元にして、わずか6日間で書き上げられたという。
強いストレスを受ける環境下だからこそ、笑える作品を作りたい、という気持ちが働いたのだろう。
当初は、戦時中に幽霊を題材にしたコメディを上演することに否定的な意見が多かったものの、その予測を裏切り、多くの熱狂的な観客に迎え入れられる結果となった。
物語は、小説家のチャールズと再婚した妻・ルースの自宅が舞台。チャールズは小説の取材をするために、霊媒師のアーカティ夫人を呼び、かかりつけの医師ブラッドマン夫妻を招待して降霊会を催す。しかし、霊は現れず、霊媒師はイカサマだということになるが、客が帰った後、7年前に亡くなったチャールズの先妻・エルビラが現れる。チャールズにしか見えないエルビラは、チャールズとルースにちょっかいを出し、それが段々とエスカレートして、とんでもない結果を招く…。
今回、幽霊も生きている人間も同じ存在という、カワード独特の人間観を舞台上に描くのは、演出家の熊林弘高。彼の人間の内面を深く掘り下げる演出は名だたる名優から厚い信頼を受け、数々の話題作を演出している。今回は、初めてのコメディ作品となり、その手腕が期待されている。
チャールズ役は、様々な映画やドラマ、舞台で活躍し、コメディ作品での人気も高い田中圭。共演はチャールズの先妻・エルビラ役に優賞や、舞台『ザ・空気』、『子午線の祀り』、『Le Père 父』では読売演劇大賞優秀女優賞を受賞している若村麻由美。二番目の妻・ルースには多くの映画やドラマに出演、大河ドラマ『麒麟がくる』のヒロイン役でも人気を集めている門脇麦。霊媒師のアーカティ夫人役には、読売演劇大賞最優秀女優賞など数々の賞を受賞し、2014 年には紫綬褒章も受章した高畑淳子。かかりつけの医師ブラッドマン博士とその妻には、実際の夫婦である佐藤B作とあめくみちこ。チャールズの家のメイド役には天野はなが出演する。
舞台経験の豊富な俳優ががっちりとタッグを組んで挑むコメディ作品。日頃の雑事から解き放たれて、ゆったりと楽しみたい作品だ。
舞台『陽気な幽霊』
作/ノエル・カワード
翻訳/早船歌江子
演出/熊林弘高
製作/東宝
<東京公演>
公演日程/2025年5月3日(土)~29日(木)
※5月12日(月)18時追加公演あり
会場/シアタークリエ
チケット料金(全席指定・税込)/12,000円
問い合わせ/東宝テレザーブ 0570-00-7777
<大阪公演>
公演日程/2025年6月2日(月)~8日(日)
会場/シアター・ドラマシティ
チケット料金(全席指定・税込)/12,000円
問い合わせ/梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ 06-6377-3888
<福岡公演>
公演日程/2025年6月11日(水)~15日(日)
会場/福岡市民ホール 中ホール
チケット料金(全席指定・税込)/13,000円
問い合わせ/博多座電話予約センター 092-263-5555
Text:Reiko Nakamura