
バレンシアガ(Balenciaga)は、2025年冬コレクションを3月9日にパリのアンヴァリッドのドームの中庭で発表。会場にはTHE BOYZのジュヨン、千葉雄喜、三吉彩花、kemio、キム・ソヒョン、ジェシカ・アルバなどの豪華セレブリティが来場し、ランウェイ形式のショーを鑑賞した。
かつて軍の病院だった“アンヴァリッド”前に設置された会場内には、高い壁で覆われた巨大な迷路が広がり、あえて席の序列や境界線を曖昧にすることで、フロントローという概念を取り払った。著名なジャーナリストもセレブリティも関係なく、誰もが平等に最前列でショーを楽しめる配置となっている。
コレクションノートによると、アーティスティック・ディレクターを務めるデムナは、本コレクションで標準的なドレスコードを研究し、標準的なフィット感や衣服をファッションの文脈に取り入れるために何が必要かを研究したのだという。一般的に“スタンダード”と呼ばれるものの定義を改めて問い直し、再考した研究と実践をカタチに落とし込んだ。

インダストリアルなビートに、調子外れなうわ物とゲームの電子音が絡む不気味なトラックが流れるとショーはスタート。今回も音楽はデムナの公私に渡るパートナーであり、過去すべてのコレクションにも携わってきたBFRNDが担当している。ファーストルックは、端正な黒のスーツスタイル。2つボタンのシングルジャケットに、レギュラーカラーシャツとナロータイを合わせたVゾーンも含めて、極めてシンプルなルックだ。ボタンの留め方やフラップの処理、さらにジャケットの袖口からシャツを1〜2cm程覗かせるなど、意外にも従来のドレスマナーをきちんと押さえている。デムナの考えるドレスのスタンダードを、あえて教科書通りに表現したのだろう。ただ、その後には同じジャケットを素肌に直接羽織り、ボトムスにはロングスカートを合わせたり、手作業でシワを付けたネイビーのスーツやインナーに合わせたタートルネックも含めて、全体に“虫食い”のような穴が開けられたスーツが登場。また、オフィスカジュアルを想起させるポロシャツとスラックスのルックには、フルフェイスのヘルメットを合わせている。これらは、一見「平凡」な衣服に解剖学的アプローチを採り入れることで、服作りの原則を適用したものだという。
一方、ウィメンズは、スタンダードフィットのコートやロング丈のトレンチ、フェイクファーコートなど、すっきりとしたシングルガーメントのルックが続く。モデルの足取りも含めて、矢継ぎ早にルックが入れ替わるので余韻を感じる暇もないが、ネイビーのタイトスカートに白シャツを合わせた、女性版の“スタンダード”なオフィスウェアをトレースしたようなルックは、プッシュアップとコルセットが一体化したようなフェティッシュな構造に。これまでのビジネスウェアの固定概念に挑戦すると共に、スタンダードな衣服に服作りの感覚が巧みに盛り込まれている。前半のカラーパレットは、ほぼモノトーン偏重だったが、デムナが「ピンクや赤、ロイヤルブルーといったクリストバル・バレンシアガのオートクチュールの色合いも取り入れた」と説明したように、裾まで引きずるフード付きのスウェットワンピースは、鮮やかなロイヤルブルーかつ1967年に発表されたウエディングドレスのプロポーションを再現するなど、メゾンの伝統や先人への敬意も見て取れる。
中盤以降は、デムナらしいストリートスタイルの再解釈が目を引いた。レザージャケットとフェード感のあるオーバーサイズのデニムを合わせたルックや超マキシ丈のロングカーディガン、ヴィクトリア調の立ち襟が特徴的なオーバーサイズのスウェットなどが登場。“スタンダード”の再考という解釈が適しているのかは不明だが、鍛え上げられた肉体にボロボロのタンクトップとジョガーパンツを組み合わせたジムウェアのようなルックも散見された。
バレンシアガは2024年冬コレクションにおいて、ド直球のトライバルモチーフや過剰なチェーン使いのジャケット、クラッシュデニムのブーツインスタイルなど、2000年代初頭のビジュアル系もしくは、アノニマスな丸井系ドメスティックブランドのムードを彷彿とさせる斬新なルックが物議を醸した。その流れは今回ウィメンズにも応用されており、デニムやダウンジャケットの大仰なファー使いやウエストマークしたベルトで身体のラインを強調したタイトフィットなファードレス、大胆なスリットが入ったレオパード柄のワンピースなどからは、“Y2K”のアナザーサイド、もしくは平成時代のギャル文化を想起させる。極めてドメスティックなトレンドなので、デムナ自身がどれほど意識したのかは全く定かではないが、本コレクションを通じて強烈な印象を残した。ただ、これまでもIKEAのショッパーや黒いゴミ袋を模したバッグなど、ラグジュアリー的なコモンセンスを転覆させるような風刺的なユーモアがデムナの真骨頂であることを考えると、インスピレーションソースは思わぬところにありそうだ。
毎回、話題になるコラボレーションだが、今回はプーマ(PUMA)とモータースポーツ向けのギアなどを手掛けるイタリアのブランド、アルパインスターズ(Alpinestars)がラインナップ。プーマとのコラボでは、インラインモデルが絶好調の「スピードキャット」スニーカーを、フロントデザインやマテリアルを再解釈した新デザインで発表。バレンシアガのライオンの紋章がアーリー90sの欧州フットボールクラブを思わせるウォームアップスーツは人気を予感させる。ウィメンズのトラックジャケットと共地のスカートは、腰にトップスを巻いたようなトロンプルイユのデザインが特徴で、こちらもトレンドを賑わせそうだ。
ショーのラストには、真紅のフェイクファーや光沢感のあるパファーなど、素材やボリュームが異なるオペラコートをバリエーションで魅せてしっとりと幕を閉じた。その僅か5日後にはデムナがバレンシアガを去り、グッチのクリエイティブ・ディレクターに就任されることが電撃的に発表された。後任に関して現時点での発表はないが、稀有なカリスマ性で一時代を築いたスターデザイナーの後を受けるだけに、大胆な変化も含めて大きな期待が高まる。
Balenciaga
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Text: Tetsuya Sato