展覧会レビュー:今週末まで!「今津景 タナ・アイル」@初台 | Numero TOKYO
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展覧会レビュー:今週末まで!「今津景 タナ・アイル」@初台

展示風景 撮影:木奥惠三
展示風景 撮影:木奥惠三

近年はインドネシアを拠点にし、インドネシアの都市開発や環境汚染といった事象に対するリサーチをもとにした作品を手がけるアーティスト、今津景。東京オペラシティ アートギャラリー(東京・初台)にて開催中の初の大規模個展「今津景 タナ・アイル」を美術ジャーナリスト、永田晶子がレビュー。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2025年4月号掲載)

展示風景 撮影:木奥惠三
展示風景 撮影:木奥惠三

生きる・作ることの確かな連なり

1980年生まれの今津景は、特異なイマジネーションに満ちた絵画が2010年代より注目されてきたアーティストだ。メディアから採集した画像をアプリケーションで加工し、下絵を作る手法自体は昨今珍しいものではない。だが、指先ツールによるバグのような痕跡を含め油彩で描く作品は、当初から異彩を放っていた。

初の大規模個展となる本展は、インドネシアという新天地を得て、ますますパワーアップする今津の新作や近作がそろう。大きな特徴は、作家が同地で出合った歴史と神話、地球環境やエコフェミニズムなどの今日的問題を独自に解釈した作品が多いこと。そして、絵画と併せてオブジェやインスタレーションも展示し、空間全体を作品のように作り上げていることだ。

展示風景 撮影:木奥惠三
展示風景 撮影:木奥惠三

圧巻は、セラム島の神話「ハイヌウェレ」から着想した作品群が並ぶ最大の展示室。ハイヌウェレは排せつ物が財宝になり、それを一時喜んだ人々に殺されて、埋められた体から作物が生えたとされる女性だ。なんとも理不尽な話。同名の絵画作品は、生命力あふれる緑色を背景に、切断された腕や髑髏、作物のタロ芋が絡み合い、哀惜するように女性の横顔が線描で添えられている。汚染された川で死滅した魚たちを、生きているがごとく絵筆で蘇らせたシリーズにも心を惹かれた。

作家は滞在制作を機に17年にインドネシアへ拠点を移し、この地でパートナーと出会い、出産を経験した。生きること、そして作ること。その確かな重なりがここにある。

展示風景 撮影:木奥惠三
展示風景 撮影:木奥惠三

展示風景 撮影:木奥惠三
展示風景 撮影:木奥惠三

展示風景 撮影:木奥惠三
展示風景 撮影:木奥惠三

展示風景 撮影:木奥惠三
展示風景 撮影:木奥惠三

「今津景 タナ・アイル」

会期/2025年1月11日(土)〜3月23日(日)
会場/東京オペラシティ アートギャラリー(ギャラリー1, 2)
住所/東京都新宿区西新宿 3-20-2 東京オペラシティビル 3F
開館時間/11:00〜19:00(入場は18:30まで)
休館日/月曜日(祝休日の場合は翌火曜日)、2月9日(日)
入場料/一般1400円、大・高生800円、中学生以下無料
URL/www.operacity.jp/ag/

Text:Akiko Nagata Edit:Sayaka Ito

Profile

永田 晶子 Akiko Nagata 美術ジャーナリスト。東京都生まれ。毎日新聞編集委員、公立ミュージアムの運営を経て、2022年よりフリーランス。取材領域はアートと建築。日本経済新聞、アート媒体「Tokyo Art Beat」「BT」などに寄稿。

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