展覧会レビュー:「小西真奈 Wherever」@府中市美術館

現代の日本において、風景画の可能性を拡張している作家のひとりである小西真奈。府中市美術館(東京)にて、小西の美術館での初の大規模個展が開催中。2000年代の代表作を精選し、また近作と新作をたっぷりと展示する本展をブランドコミュニケーションなども手がけるライターの森祐子がレビュー。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2025年3月号掲載)

曖昧で鮮明な、記憶のきらめき
心に残るシーンというのは、目にした風景の「全て」ではなくて、きらりと光った何か。そういう「部分」が放つ強い印象から生まれるのではないかと思う。鮮明で、そして曖昧な、記憶の風景。
「小西真奈 Wherever」を訪れて感じたのは、記憶がつくるハイキーな色彩だった。陽を浴びた花壇や手すりの輝き、フラミンゴ、スイミングプールを取り囲むピンクは、きっと実際よりかなり明るく強い。けれど作家自らの目が心に焼き付けた光景は、こちら側なのだ、たぶん。
かつては雄大な自然の風景を、細部まで精緻に描き込む大きな作品を特徴としてきた小西さんは、出産とコロナ禍を経て、日常の身近な風景や、撮り溜めていた写真を題材に描き進めている。

写真の写す現実だけでは捉えられない、心の中にある「現実」を描く。鮮やかな色彩や踊るような筆致、ラフに描き残したディテールが、記憶の自由なきらめきを伝えてくれる。ポップなモチーフに入り交じり、時には降りしきる雪の、しんと色と音を失った世界を。岩陰の暗がりでも、海水は紺碧のブルーを。
〈Wherever〉どこにいても、ハッとする光景は、心が見つけるのだと、小西さんのみずみずしく光に満ちた作品が教えてくれるようだ。油彩だけでなく、鉛筆画のモノクローム近作がまた生き生きとして、淡いピンクとグレーを用いた額装も含め魅力的だった。今展では2009年までの作品も並ぶ。リアルでありながら幻想的な気配。大きな変化を実感しながらも、精神的な原点を見る思いだった。



「小西真奈 Wherever」
会期/2022年12月14日(土)〜2月24日(月・振)
会場/府中市美術館
住所/東京都都府中市浅間町1-3
時間/10:00〜17:00(入館は16:30まで)
休館日/月曜日(2月24日は開館)
入場料/一般¥800、高校・大学生¥400、小・中学生¥200
TEL/050-5541-8600(ハローダイヤル)
URL/https://www.city.fuchu.tokyo.jp/art/tenrankai/kikakuten/Konishi_mana.html
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