中谷美紀やBLAKPINKジスら来場。ドリーミーな異世界へと誘う「Dior」2025年春夏オートクチュールコレクション
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中谷美紀やBLAKPINKジスら来場。ドリーミーな異世界へと誘う「Dior」2025年春夏オートクチュールコレクション

© ADRIEN DIRAND
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ディオール(Dior)は、2025年春夏オートクチュールコレクションをパリにあるロダン美術館で発表。ファイン ジュエリー&タイムピーシズ ジャパン アンバサダーを務める中谷美紀やグローバルアンバサダーのBLAKPINKのジスに加え、アメリカの俳優 ジェナ・オルテガやアニャ・テイラー=ジョイなど、豪華セレブリティが来場し、フロントロウを彩った。

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© ADRIEN DIRAND © RITHIKA MERCHANT © CHANAKYA SCHOOL OF CRAFT
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観客席を中心にして、回廊状に設けられたランウェイの背景を飾ったのは、9枚の大きな絵画。草花や大地、動物、人間の「目」などのモチーフを大胆な筆致と鮮やかなカラーで描いた作品は、インド・ムンバイ出身のアーティスト、リティカ・マーチャントによって考案されたもの。ディオールは、マリア・グラツィア・キウリがアーティスティック・ディレクターに就任して以降、世界中の女性アーティストを支援するコミットメントを強く打ち出しており、今回の会場デザインにもその意向が反映されている。

© ADRIEN DIRAND © RITHIKA MERCHANT © CHANAKYA SCHOOL OF CRAFT
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インディロックバンド、ボーイジーニアス(boygenius)のメンバーで、ソロシンガーとしても活躍するルーシー・ダッカスの楽曲『Ankles』と共にショーはスタート。シンプルなストリングスとアコースティックな曲調は内省的なリリックも含めて、やや意外な選曲と思いきや、これがショーの世界観を後押しする重要な起動装置となっていた。

ファーストルックは、燕尾服のようなカッティングのブラックジャケットと共地のショートパンツ。ジャケットのラペルやパンツの身頃には鳥の羽のような繊細なあしらいが施されており、後れ毛のように垂れた糸が切りっぱなしのようなニュアンスを添える。足元はアビエーターサンダルとミュールを掛け合わせたようなシューズ。トロージャンを思わせるパンキッシュなヘッドピースに合わせて逆立てられたアイブロウの処理が出色で、アイキャッチーなアクセントに。この斬新なヘッドピースは、バリエーションを変えながらコレクションを通してほぼ全てのルックで重用されており、ショーの世界観を構築する上でヘアメイクがいかに重要なエレメントであるかを再認識させた。

本コレクションのインスピレーションソースとなったのが、1871年に発表されたルイス・キャロルの児童小説『鏡の国のアリス』である。主人公の少女・アリスが鏡を通り抜けて異世界に迷い込むストーリーをヒントに、オートクチュールのアトリエを埋め尽くす鏡を入り口にして、ファッションにおける過去数世紀の創造性を辿っていく。マリア・グラツィア・キウリが挑んだのは、新/旧という単純な二元論ではなく、また、過去でも未来でもないファッションそのもの、さらにファッションに付随する変容の概念を問い直すことであった。

実際に、ショーの中盤に登場した袖口にラッフルをあしらった黒いドレスなどは、若き日のイヴ・サン=ローランがデザインした「トラペーズ」ラインを想起させ、1952〜1953年秋冬オートクチュール コレクションでムッシュ ディオールがデザインした「ラ シガール」のシルエットが、オリジナルのモアレ織りの生地を使って再解釈されるなど、メゾンのアーカイブを鮮やかにモディファイ。また、新たなエレガンスの提唱として“ニュールック革命”を巻き起こしたクリスチャン・ディオール初のオートクチュールコレクションを象徴するアイテム「バー」ジャケットもまた、メゾンの変遷を辿る意味で欠かせないアイコンピースである。マリア・グラツィア・キウリは、これまでも幾度とわたり同ピースのアレンジを発表してきたが、本コレクションでは、その特徴であるグッと絞ったウェストラインやダブルのデザインはそのままに、フォーマルなテイルコートのようなディテールを取り入れ、アウターとして仕上げた。

ファッションの変遷を辿る丹念な作業は、メゾンの歴史以外にも向けられている。とりわけ、鳥籠のような骨組で形作られるクリノリンは、ブリザードフラワーや刺繍をあしらったものに加え、極端なミニ丈やフリンジを垂らした異種まで、バリエーションも豊富。装飾の隅々にまで伝統的なサヴォアフェールが息衝いたパニエスカートやレースのトリミングを施したチュールキュロット、さらに身頃を小さな羽根で覆ったたマントなど、おとぎの世界から飛び出したかのような童心を掻き立てるルックも目を引く。

カラーパレットは、序盤がブラックとホワイトが中心、中盤以降にベージュ等のヌーディカラーが登場したが、かなり抑制を効かせた色調がイノセントなムードを助長していた。細部に目を向けると、前述したクリノリン以外にも、肩から袖にかけて膨らみを持たせたレッグオブマトンスリーブやオーガンジーを重ねたブルマパンツなど、時間の秩序を覆したクラシカルなディテールやアイテムが夢物語のような異世界へと誘ってくれる。

ショーの中盤以降、フランスの女性DJ/コンポーザーであるクロエ(Chloé)のミニマル・エレクトロな楽曲を挟んで、クライマックスのフィナーレで鳴り響いたのが、オープニングと同じルーシー・ダッカスの楽曲『Ankles』であった。彼女は、2020年アメリカ大統領選では、早くから民主党のバニー・サンダース支持を打ち出し、“変革のための投票”を促す “Vote For Change”コンサートに参加するなど、いわば「物言う」リベラルなアーティストの代表格だ。ショーの演出としての意図は不明だが、オートクチュールの豪華絢爛かつドリーミーな異空間と、繊細な心の機微を歌ったルーシー・ダッカスの私的世界の組み合わせは、素晴らしく美しく感情を揺さぶられるものがあった。マリア・グラツィア・キウリのクリエイションを語る上で、女性たちのエンパワーメントは重要なキーワードのひとつだが、今コレクションから強く感じたのは、あんたんたる現実世界をただ憂うだけではなく、ストラグルしていく反骨精神。空に向かって突き出した異形のヘッドピースに、ファッションが持つパワーと可能性を見出したのは、決して自分だけではないはずだ。

Dior
クリスチャン ディオール
TEL/0120-02-1947
URL/www.dior.com

Text: Tetsuya Sato

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