マームとジプシーの藤田貴大が「寺山修司展」をレビュー

さまざまな芸術分野を横断することで、その才能を遺憾なく発揮した寺山修司(1935~83)。現在も戯曲の再演や映画上映などを通じて、若い世代を含めたファンは増え続けている。寺山生誕90年にあたり、世田谷文学館(東京・芦花公園)では収蔵してきた関連コレクションを一堂に展示。自筆の書簡や演劇実験室「天井棧敷」に関する資料で寺山修司の人物像とその活動を紹介する。過去には寺山の初期作品である『書を捨てよ町へ出よう』を演出したこともある「マームとジプシー」主宰の藤田貴大がレビュー。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2025年1・2月合併号掲載)

誰かまでどういうふうに言葉を
雨あがりの陽射しと湿度のなか、集合住宅を突っ切って行くと、寺山修司展が催されているという世田谷文学館が現れた。展示室に足を踏み入れると、足元には人力飛行機ソロモン市街図が大きく記されてあった。何度も見てきたはずの、この図なのだけれど、あらためて見てみると本当によく描かれているなあ、と気づかされる。現在の新宿・高田馬場あたりと、わたしの知らないあの頃のその界隈を重ねて、思いを馳せてみる。

ガラスケースのなかに配置されてある直筆の手紙や原稿を見つめていると、この人って例えば2024年に生きていたんだとしたら、誰よりも早く最新のiPhoneを入手して、四六時中さまざまなSNSやらなんやらをいじるんだろうと思うし、というかこの人にiPhoneを渡しちゃダメだな、とも思った。新しい言葉の在処を知ったら、どこまで追求するかわからない。しかしあるいは、現在のような時代における言葉の在り方を知ったなら、この人ならどういう言葉を用いて、誰かまでどういうふうに言葉を届けるのだろうか、と想像してみた。

彼が生きた時間の先にある、現在という未来に、もし彼がいたなら、と想像しているわたしは、やはり彼の演出のなかにいるのかもしれない。彼が思い描いていた未来は現在、訪れているのだろうか。劇場より外側にある演劇を、わたしはどれくらい意識できているか。世田谷文学館を出るとすぐに賑やかな10代の学生たちとすれ違って、それがやけに眩しかった。



「寺山修司展 ―世田谷文学館コレクション展 2024年度後期―」
会期/2024年10月5日(土)〜2025年3月30日(日) *会期途中に整備休館あり
会場/世田谷文学館
住所/東京都世田谷区南烏山1-10-10
開館時間/10:00~18:00(展覧会入場、ミュージアムショップは17:30まで)
休館日/月曜日(但、月曜が祝休日の場合は開館し、翌平日休館)、館内整備期間(3月10日~18日)
料金/一般¥200、高校・大学生¥150、65歳以上、小・中学生、障害者手帳をお持ちの方¥100
URL/www.setabun.or.jp
Text:Takahiro Fujita Edit:Sayaka Ito
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