展覧会レビュー:「SIDE CORE展」@ワタリウム美術館
公共空間や路上を舞台にしたアートプロジェクトを展開するアートコレクティブ「SIDE CORE(サイドコア)」による、東京初の大規模個展「SIDE CORE展|コンクリート・プラネット」がワタリウム美術館(東京・外苑前)にて開催中。都市の独自な公共性や制度に着目し、これに介入/交渉することで作品作りを行うサイドコア。本展を体験した後に見る東京の街はこれまでと同じ東京の街だろうか? 注目の展覧会をアートライターの杉原環樹がレビュー。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2024年12月号掲載)
都市のネガをポジにするまなざし
生物がそれぞれに持つ異なる世界の見方を、生物学の用語で「環世界」という。先日、公共空間や路上を舞台に活動してきたアートチーム「サイドコア」がワタリウム美術館の周辺で開催した街歩きツアー「night walk」に参加して、この言葉を想起した。普段は何げなく行き過ぎている青山の路地の風景が、グラフィティや街の歴史に詳しい彼女・彼らと歩くと、意味や奥行きに満ちた「読み物」のように見えてくる。そのまなざしの変化に驚いた。
本展でも、サイドコアは街と身体の交わりから生まれた作品群を通して、観客をその都市観に誘い込む。絵画、陶芸、コラージュ、映像など媒体は多様だが、全体に通底するのは、人々が日頃意識の外に置いている都市の暗部や死角に光を当てる視点だ。
例えば、吹き抜けの空間に設置された巨大な螺旋状のチューブの作品は、その内部を走る球の残響音によって、街が発するノイズの存在を意識させる。4階の映像では、3人のスケーターがSF映画のように東京の広大な地下空間を滑走する。緊急事態宣言下の無人の渋谷の街を、表現の格好の「舞台」に転換してしまった作品もある。サイドコアは、都市のネガをポジにするのだ。
同時に本展は、その空間構成でも観客の身体を揺さぶる。象徴的なのは、展覧会終盤に設けられた、ある「穴」の存在だ。ただの安定した床に見えていた足場は、その下に巨大な空間を潜ませていた。そのことに気づいたときの、身体感覚の変化。ふと目線を変えると、都市は新たな姿で私たちを迎えてくれる。本展の会場を後にするとき、東京の街は少し変わって見えるはずだ。
「SIDE CORE 展|コンクリート・プラネット」
会期/2024年8月12日(月・振休)〜12月8日(日)
会場/ワタリウム美術館+屋外
住所/東京都渋谷区神宮前3-7-6
開館時間/11:00〜19:00
休館日/月
URL/watarium.co.jp/
Text:Tamaki Sugihara Edit:Sayaka Ito