11月4日まで。「舟越桂 森へ行く日」展を見に箱根へ行こう
今年3月に急逝した彫刻家、舟越桂が生前から準備していた個展「舟越桂 森へ行く日」が彫刻の森美術館の周年を記念して開催中。遠くを見つめるまなざしを持った静かな佇まいの人物像で知られる舟越が、生涯を通じて人間とは何かを問い続けた作品の変遷とその創作の源となる視線に迫る。本展を美術ライターの浦島茂世がレビュー。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2024年11月号掲載)
変わることがない温かい眼差し
はじめて舟越桂の名前を知ったのは、中学生のとき。筒井康隆の単行本『残像に口紅を』の表紙絵だった。性別不詳の人物は、無表情なのに目力が強く、内に秘めた優しさを感じた。この絵を描いた舟越桂は彫刻家であること、主にクスノキを使って人物像を彫っていること、目は大理石をはめ込んでいること、父親や弟もまた彫刻家であることをすぐに調べ上げ、今年の春、突然亡くなってしまうまでずっと追いかけていた。いまも喪失感が強い。
本展は、舟越が病床でギリギリまで準備を進めていた展覧会だ。アトリエの再現空間や、端正な人物像が並ぶ小さな展示室を抜け、2階の広い展示室へ赴くと、メインの大空間が広がる。ポップな色で着彩されている作品も多いものの、空間全体が静寂に包まれている。作品全体が静けさを纏っているのも舟越作品の魅力のひとつだ。
この空間には舟越が1990年代前後から制作し始めた異形の像が主に並ぶ。首が異様に長かったり、お腹が丸く膨れたりしている異形の像は、時には怒りや悲しみの表情も刻みつけられている。しかし、不思議と違和感を感じない。どの作品からも、人に対する深い慈しみが感じられ、むしろ安らぎすら感じる。舟越の人間に対する優しい眼差しは全く変わっていないからなのだろう。そう、舟越の作品は絵も彫刻も、人物も、異形の像も、すべてが優しさに包まれているのだ。
秋の休日、箱根に向かってこの静寂でとびきり温かい空間に多くの人に浸ってもらいたいと願う。
彫刻の森美術館 開館55周年記念
「舟越桂 森へ行く日」
会期/2024年7月26日(金)~11月4日(月・休)
会場/彫刻の森美術館 本館ギャラリー
住所/神奈川県足柄下郡箱根町ニノ平1121
時間/9:00〜17:00(入館は閉館の30分前まで)
休館日/なし
URL/www.hakone-oam.or.jp/specials/2024/katsurafunakoshi/
Text:Moyo Urashima Edit:Sayaka Ito