戦後から現在までを総覧する「日本現代美術私観:高橋龍太郎コレクション」 | Numero TOKYO
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戦後から現在までを総覧する「日本現代美術私観:高橋龍太郎コレクション」

東京都現代美術館にて「日本現代美術私観:高橋龍太郎コレクション」展が開催されている。 精神科医である高橋龍太郎によるコレクションは、日本の現代美術を中心としたものとしては世界最大級。 草間彌生はじめ、村上隆会田誠奈良美智の初期作品など、1990年代以降の日本の現代美術作品が数多く収蔵され、東日本大震災を経て、現在もコレクションは続いている。本展では3500点を超えるコレクションから、6つのテーマで115組の作家の作品が紹介される。

1946年生まれ、戦後世代であり団塊世代の始まりとして育った高橋龍太郎。彼が本格的にコレクションを始めたのは1997年。そして東京都現代美術館が開館したのは1995年だ。「戦後」が終わり、バブルが崩壊した90年代後半より東京を拠点に、現代美術を追い続けてきた活動期が重なる。高橋龍太郎というコレクターと東京都現代美術館が交わることで見えてくる、日本の現代美術の流れが興味深い。

村上 隆『ズザザザザザ』1994年 © 1994 Takashi Murakami/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved.
村上 隆『ズザザザザザ』1994年 © 1994 Takashi Murakami/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved.

展示はテーマ毎に6章に分かれ、1章「胎内記憶」では、コレクションがはじまるまでの90年代以前、そしてコレクションのきっかけとなったという草間彌生の作品群などが紹介される。2章の「戦後の終わりとはじまり」では、村上隆の初期作品『ポリリズム』や『ズザザザザザ』、会田誠『紐育空爆之図(にゅうようくくうばくのず)(戦争画RETURNS)』、「戦後」の終わりともいえる90年代に登場した作品群が続く。

展示風景 撮影:森田兼次 左から/奈良美智『Untitled』1999年 ©NARA Yoshitomo, courtesy of Yoshitomo Nara Foundation 、加藤泉『Untitled』1999年 Courtesy of the artist ©2006 Izumi Kato、『Untitled』2004年 Courtesy of the artist ©2004 Izumi Kato
展示風景 撮影:森田兼次 左から/奈良美智『Untitled』1999年 ©NARA Yoshitomo, courtesy of Yoshitomo Nara Foundation 、加藤泉『Untitled』1999年 Courtesy of the artist ©2006 Izumi Kato、『Untitled』2004年 Courtesy of the artist ©2004 Izumi Kato

3章「新しい人類たち」では、コレクションの重要テーマでもある人間を描いた作品群が登場する。奈良美智の『Untitled』、原始的なモチーフを描く加藤泉、若い世代のアーティストの友沢こたお、山中雪乃も。

展示風景 撮影:森田兼次 左から/森靖『Jamboree - EP』2014年 、 村上早『おどり』2021年、『嫉妬―どく―』2020年 、 庄司朝美『21.2.3』2021年 、 小西紀行『無題』2007年
展示風景 撮影:森田兼次 左から/森靖『Jamboree - EP』2014年 、 村上早『おどり』2021年、『嫉妬―どく―』2020年 、 庄司朝美『21.2.3』2021年 、 小西紀行『無題』2007年

2011年の東日本大震災以後の作品を扱う4章「崩壊と再生」では、Chim↑Pom from Smappa!Groupの『気合い100連発』、吹き抜けのアトリウムでは鴻池朋子による24mもの『皮緞帳』や、小谷元彦による大型の彫刻作品『サーフ・エンジェル(仮設のモニュメント 2)』など、生命の再生を主題とする作品が。

展示風景 撮影:森田兼次 左から/小谷元彦『サーフ・エンジェル(仮設のモニュメント 2)』2022年 、 鴻池朋子『皮緞帳』2015-2016年 、 青木美歌『Her songs are floating』2007年 、 弓指寛治『挽歌』2016年
展示風景 撮影:森田兼次 左から/小谷元彦『サーフ・エンジェル(仮設のモニュメント 2)』2022年 、 鴻池朋子『皮緞帳』2015-2016年 、 青木美歌『Her songs are floating』2007年 、 弓指寛治『挽歌』2016年

5章「『私』の再定義」では、梅沢和木、やんツー、今津景などのデジタルツールを用いた表現や、インスタレーションなど、私の存在を問い直す新しい感覚をテーマに。そして最終章「路上に還る」では、公共空間や路上での作品を手がけるSIDE CORE / EVERYDAY HOLIDAY SQUAD(※1)や鈴木ヒラク、 ∈Y∋のサウンドインスタレーション、90歳目前に描かれたという篠原有司男のボクシング・ペインティング、 パブロ・ピカソの『ゲルニカ』と同サイズの根本敬による巨大絵画が。

(※1)参考記事:Numero.jp「アートコレクティブ・SIDE CORE が表現する、新しい都市風景 @ワタリウム美術館」 

展示風景 撮影:森田兼次 左から/金氏徹平『Gray Puddle  #13』2014年、『White Discharge(建物のようにつみあげたもの#21)』2012年 、 SIDE CORE / EVERYDAY HOLIDAY SQUAD『rode work tokyo_spiral junction』2022年 、 国松希根太『GODDESS』2022年
展示風景 撮影:森田兼次 左から/金氏徹平『Gray Puddle #13』2014年、『White Discharge(建物のようにつみあげたもの#21)』2012年 、 SIDE CORE / EVERYDAY HOLIDAY SQUAD『rode work tokyo_spiral junction』2022年 、 国松希根太『GODDESS』2022年

高橋龍太郎はこれらの作品を「若いアーティストたちの叫び、生きた証」という。
今は世界的に知られるアーティストの若かりし頃の作品はじめ、サブカルチャーと深く関わり、独自の発展を遂げた日本の現代美術も体感できる。そして現在の新たな作品にも出合うことができる。

膨大な作品群、展示された作品は開かれているが、個々と対峙する個人的な体験にもつながっている。コレクションという形になった、アートにおけるひとつの「私観」も体感してほしい。

展示風景 撮影:森田兼次 手前左より/西尾康之『Crash セイラ・マス』2005年、O JUN『美しき天然』2019年、大岩オスカール『ノアの方舟』1999年、池田学『興亡史』2006年
展示風景 撮影:森田兼次 手前左より/西尾康之『Crash セイラ・マス』2005年、O JUN『美しき天然』2019年、大岩オスカール『ノアの方舟』1999年、池田学『興亡史』2006年

また同時期、別フロアにて「開発好明 ART IS LIVE―ひとり民主主義へようこそ」(※2)が開催されている。こちらは、日常生活、社会現象など身近な出来事への関心から、さまざまな表現活動を続けているアーティスト・開発好明(かいはつ・よしあき)の大規模個展。

会期中は、「誰もが先生、誰もが生徒」を合言葉に、100人の先生による100回の授業を行う『100人先生』など、さまざまなプロジェクトが開催されている。変化し続ける作品にもぜひ参加してほしい。


(※2)参考記事:Numero.jp「ひとり民主主義へようこそ。開発好明の大規模個展@東京都現代美術館」

日本現代美術私観:高橋龍太郎コレクション

会期/2024年8月3日(土)~11月10日(日)

開館時間/10:00~18:00(展示室入場は閉館の30分前まで)
8月の毎金曜日は21:00まで開館

休館日/月曜日(9/16、9/23、10/14、11/4は開館)、9/17、9/24、10/15、11/5
会場/東京都現代美術館 企画展示室 1F/B2F、ホワイエ

URL/www.mot-art-museum.jp/exhibitions/TRC

開発好明 ART IS LIVE―ひとり民主主義へようこそ
会場/東京都現代美術館 企画展示室 3F

URL/www.mot-art-museum.jp/exhibitions/art-is-live

Text:Hiromi Mikuni

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