鴻池朋子の営みそのものを体感する新作個展@青森県立美術館ほか
現代アートシーンを代表するアーティスト・鴻池朋子。東日本大震災以降のプロジェクト展開をもとにつくられた新作個展が、青森県立美術館とその周辺野外、国立療養所松丘保養園 社会交流会館(すべて青森市)にて開催中だ。
北東北(秋田)出身で、現代アートシーンを代表するアーティスト・鴻池朋子。絵画、彫刻、手芸、歌、映像、絵本などさまざまな画材とメディアを用い、また旅での移動や野外でのサイトスペシフィックな活動によって、芸術の根源的な問い直しを続けている。国内外で多数展覧会を実施し、なかでも2020年、東京・八重洲のアーティゾン美術館のコレクションと現代アーティストの共演企画「ジャム・セッション」の第1弾作家としても注目を集めた。
(参考)五感で体験する野生なるもの「鴻池朋子 ちゅうがえり」展
地球の振動をも画材と捉える鴻池にとって、「絵」とは単に絵画に留まらない。パブリックアートやアートプロジェクトも「絵」の一部だ。今回は、震災以降、世界各地で今この瞬間も続くプロジェクト展開をもとにつくられる圧倒的なスケールの作品や、指人形といった新作の数々が紹介される。本展は、場所と呼応し、人間社会はもとより動物や自然界との交流の中でなされる鴻池のつくる営みそのものでもある。
個展の枠や、美術館という場も超えた世界の「いま」と呼応するアート展開も大きな見どころだ。
ウクライナやバルカン半島に思いを馳せながら縫われたカーテンを、能登半島地震における被災者住宅に設置するプロジェクトや、青森の人々が参加し自らの思い出を縫った「物語るテーブルランナー」(2015、2016)での制作物、美術館・アレコホールに集められた全国の美術館を展示使用し、列島を覆うネットワーク・インフラの使いなおしを試みる「車椅子アレコバレエ」、鴻池作品を素材に研究活動をおこなう研究者が自らの展開を紹介するアートラボ「新しい先生は毎回生まれる」など、鴻池の作品展開は、従来的な作品構造、制度的枠組みを軽々と飛びこえ、そこからの抜け道を探すかのようである。社会と地球の「いま」と呼応しながら広がり、アートという個人的営みのもつ可能性を拡張していく。
なお、本展サテライト会場として、国のハンセン病療養施設である「松丘保養園社 会交流会館」にも作品が展示されている。2019 年の「瀬戸内国際芸術祭」で国立療養所大島青松園(香川県高松市)を訪れたり、熊本の国立療養所菊池恵楓園絵画クラブ「金陽会」メンバーによる作品群を大島に持ち込み、美術館での個展会場内で巡回展示する活動を行ったりと、ハンセン病療養所や施設から生まれた作品と関わり続けてきた鴻池。本展では、松丘の成瀬豊(菊池恵楓園絵画クラブ「金陽会」発足メンバー)の作品と金陽会作品約30点が再び交わるほか、鴻池の作品『物語るテーブルランナー in 大島青松園』、新城中学校美術部や北中学校総合文化部員とが「美術館ロッジ」で制作した梵珠山六角堂休憩所の皮絵、木下直之によるノート公開やお話、山川冬樹のライブパフォーマンスなど、療養所から今も生み出される創作の数々が紹介される。
旅する作家から、「地図帳やランドマーク」の役目を託されたという青森県立美術館。同館は、新作や現地レポートを通じて、観客に鴻池の軌跡をリレーする中継ぎ役でもある。「作家やアーティストのようにメッセージや問いを投げかけるのではなく、後はもう自分の体しかない、というギリギリのところまで連れだしたい」と語る鴻池。観客の体がその場に晒された時、アートが人間の本能的なものに向けて、豊かに染み渡るメディシン(薬草)のように機能していくかもしれない。会期は9月29日(日)まで。
※掲載情報は7月31日時点のものです。
開館日や時間など最新情報は公式サイトをチェックしてください。
「鴻池朋子展 メディシン・インフラ」
会場/青森県立美術館とその周辺野外、国立療養所松丘保養園 社会交流会館
会期/2024年7月13日(土)〜9月29日(日)
開館時間/[美術館]9 : 30〜17 : 00(入館は16 : 30まで)[社会交流開館]10 : 00〜16 : 00
休館日/[美術館]8月13日(火)、8月26日(月)、9月9日(月)、9月24日(火)[社会交流会館]毎週月曜日
入場料/[美術館]一般1,500円、高大生1,000(800)円、中学生以下無料 [社会交流会館]無料
「鴻池朋子展」+「AOMORI GOKAN アートフェス 2024 かさなりとまじわり」セット券一般 2,000円、高大生1,200 円、小中学生100 円
URL/www.aomori-museum.jp/
Text:Akane Naniwa