かつての“ユートピア”を舞台に、スペイン文化への憧憬を表現した「Louis Vuitton」2025年ウィメンズ クルーズコレクション
ルイ・ヴィトン(Louis Vuitton) は、現地時間の5月23日にアントニ・ガウディが手掛けたバルセロナのグエル公園にて2025年ウィメンズ クルーズコレクションを発表。メゾンのアンバサダーを務めるジェニファー・コネリーやStray Kids のフィリックスをはじめ、レア・セドゥ、ソフィ・ターナー、クロエ・グレース・モレッツ、ローラ、大阪なおみなどの豪華セレブリティが来場し、ショーに花を添えた。
コレクション会場に選ばれたグエル公園は、ガウディ建築の傑作と称されるサグラダ・ファミリアと並ぶバルセロナの観光名所。同公園は、ガウディがパトロンであったグエル伯爵と協業し、自然や芸術に囲まれた“ユートピア”としての分譲住宅地として構想されたものだが、その早すぎた先見性やグエル伯爵の逝去などもあり、計画は頓挫。その後、公共公園としてバルセロナに寄付された場所である。これまでも世界各地の遺産でコレクションを発表してきたルイ・ヴィトンにとって、ランウェイショーを通じて情熱に満ちたスペイン文化にオマージュを捧げると共に、それぞれ異なる土地の特性を自分自身に取り入れて豊かさを醸成する旅の真髄(こころ)を表すものでもあるという。
舞台演出は、プロダクションデザイナーのジェームズ・チンランドが担当。ギリシャ神殿様式に即した柱が立ち並ぶ空間の曲線に沿って客席が配置され、モデルは会場を囲む回廊の奥から登場する演出だ。サウンドトラックとしてゲイリー・ニューマンの『Music for Chameleons』が流れる中、ショーがスタート。ファーストルックは、ワイドラペル&ビッグショルダーのツイードジャケット。立体的な袖付けに象徴される構築的なテーラーリングが特徴だが、ヘルシーなミニ丈とアンクルブーツで軽快に魅せている。ワイドブリムが特徴のストロー素材のガウチョハットとグレース・ジョーンズを思わせるミラーサングラスもポイントで、その後のルックでもキーアイテムとして多用されていた。続いて登場したスキーブルゾンのような短丈のレザージャケットと共地のジョガーパンツも含めて、序盤に披露されたルック群からはハッキリとした80’sムードが漂う。これらはクリエイティブ・ディレクターを務めるニコラ・ジェスキエールの青春時代のトレンドから着想を得たものらしいが、ウエービーなソバージュヘアやしっかりとしたアイブロウなど、世界観を統一したヘアメイクも出色だった。
クラシカルなコートドレスや大きく胸元を開けた直線的なカッティングのジャンプスーツなど、端正なルックが中心だった前半に対し、中盤以降はよりカジュアルな雰囲気に。ローブのような羽織りのトップスとゆったりとした腰回りのジョッパーズを合わせたスタイルや、フラメンコの衣装を彷彿させるワンピースなどが登場。足元にはフリンジで覆われたアンクルブーツを合わせ、スペインの伝統文化やその邂逅によって独自の文化を形成した中南米のスタイルを想起させるルックが目を引く。
場内のサウンドトラックがマルコム・マクラーレンの「Madame Butterfly」に変わった終盤以降に印象的だったのは、大小のドレープや、それによって形作られるラッフルが特徴的な一連のルック。たっぷりとした分量とドレープの表情がコクーンシルエットを強調するベアトップワンピースやウエストラインを強調したバルーンスカートなどからは、鮮やかなカラーパレットを含めてスペインの情熱的なエッセンスが見て取れる。他にも煌びやかなビジューで装飾されたアンサンブルドレスや精緻なエンブロイダリーで透け感を表現したアイテム、胸元や袖口などにモザイク柄をあしらったクラフト感溢れるドレスなど、前半とは趣を一変させたフェミニンなルックが相次いだ。
ガウディ建築やアート、乗馬、フラメンコといったスパニッシュなエレメントを雑食的に取り込み、彼の地にオマージュを捧げた本コレクション。オペラ『蝶々夫人』のソプラノボイスをエレクトロビートに重ねた「Madame Butterfly」のサウンドも、コレクションのコンセプトを強化している。同曲を作ったマルコム・マクラーレンが、サウンドコラージュやサンプリングミュージックの祖であることを考えると、異なる時代のトレンドを巧みに編集するニコラ・ジェスキエールのクリエイティビティを表すかのような選曲でもあった。
小物類に目を向けると、シグネチャーのモノグラムやダミエなどは、ミニサイズのバンドリエールをはじめ、巾着型のポーチやトートなど様々なバッグに用いられており、多くの人気を集めそうだ。シューズ類では、先述のフリンジブーツに加え、ニーハイのライディングブーツやレインボーカラーのポインテッドトゥブーツも今後のトレンドを予感させる。
スペインの文化やそこで育まれた偉大な先達に敬意を表し、メゾンに通底するエモーショナルな発見の旅を通して、その魅力を表現した今回のコレクション。空間デザインや音楽などの演出面も含めて、今年で就任から11年目を迎えるニコラ・ジェスキエールの円熟味を感じさせるものであった。
ルイ・ヴィトンクライアントサービス
TEL/0120-00-1854
URL/louisvuitton.com
Text:Tetsuya Sato