展覧会レビュー:フランシス真悟の国内初となる大規模個展@茅ヶ崎
優れた色彩で人々を魅了し、世界的な活躍をみせるフランシス真悟の代表作「Interference」シリーズは、絵画の顔料に含まれる粒子に光が反射し、観る人の角度よりさまざまに表情を変える作品として知られる。シリーズの一つとして昨年、銀座エルメス フォーラムで7mにもおよぶ壁画作品《Liminal Shifts》を発表。ガラス造りの展示空間に差し込む自然光を受け、刻々と姿を変える神秘的な作品は大きな話題を呼んだ。そんなフランシス真悟の国内初となる大規模個展が茅ヶ崎市美術館で開催中。友川綾子がレビュー。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2024年6月号掲載)
色彩の自然に没入する
内覧会の朝は春のひどい嵐。直前に晴れ間がのぞいた。鑑賞ツアーのあと、居合わせた知人が「晴れてよかった」と、にっこり笑う。私は思わずこう返した。「そうね。でも、雨の日も見てみたい」
Interferenceシリーズは美しい色面を持つ絵画である。眼前にして、漆塗りのように幾重にも手をかけられた絵肌に圧倒された。まるで光る顔料の粒の集合体。そして、光の具合と見る角度により、色彩を“玉虫色”に変化させる。
光を湛えるこのシリーズは、やわらかな自然光を採り入れる茅ヶ崎市美術館の空間に、よく似合っていた。フランシス真悟の拠点は、鎌倉とロサンゼルス。禅にインスピレーションを受け、サーフィンをするらしい彼のプロフィールと、茅ヶ崎の土地の空気も、また似合う。美術館の外の自然が、作品により抽象化され、展示室内に再び立ち現れているかのような錯覚さえある。
地下階に進むと、他シリーズの展示が続く。コロナ禍をきっかけにはじめたDaily Drawingシリーズには、制作のプロセスで実験し、思考し、寄り道している姿が立ち現れていた。完璧な作品をつくりあげる彼の、少しナイーブな側面。まるで日記をのぞき見したかのような感覚に、どきりとさせられる。そして、クライマックスは、八角形の展示空間に設置されたインスタレーション。
「もっと見たい」という後味が残った。晴れの日も、雨の日も。もっと長い時間、瞑想するように、絵の前に佇み続けてみたい。
フランシス真悟「Exploring Color and Space-色と空間を冒険する」
会期/2024年3月30日(土)-6月9日(日)
会場/茅ヶ崎市美術館
住所/神奈川県茅ヶ崎市東海岸北1-4-45(市立図書館隣り・高砂緑地内)
開館時間/10:00-17:00(入館は16:30まで)
休館日/月曜
TEL/0467-88-1177
URL/www.chigasaki-museum.jp/exhibition/7778/
Text:Ayako Tomokawa Edit:Sayaka ito