アイザック･ジュリアンの大規模インスタレーション公開＠エスパス ルイ・ヴィトン大阪
イギリス人アーティスト、アイザック･ジュリアンによる個展「TEN THOUSAND WAVES」が、大阪・御堂筋にあるエスパス ルイ・ヴィトン大阪にて開催中だ。音とイメージの変化を通して移住やディアスポラのあり方を一貫したテーマに制作するジュリアンの、大規模なインスタレーション作品が公開となった。
カリブ海のセントルシア島にルーツを持つアイザック･ジュリアン。1980年代半ば、マーガレット・サッチャー政権下のイギリスにおいて、ビデオを社会活動の表現媒体として、また抵抗言説を伝える手段として用いたイギリス人映画作家たちのムーブメントを牽引した一人だ。
代表作として、人種や階級、セクシュアリティにまつわる経験の場としてのノッティングヒル・カーニバルを追ったドキュメンタリー『Territories』（1984年）などがある。自身の作品にしばしば登場するこれらのテーマに加え、さまざまな映像や音楽の素材を再利用し、リミックスすることで、多面的な言説を生み出す手法で知られている。1970年代後半のアンダーグラウンドな音楽カルチャーのレンズを通し、ジェンダーと人種の問題にまざなしを向け、カンヌ国際映画祭で賞を受賞した『ヤング・ソウル・レベルズ』のように、ジュリアンの創作において音楽は考察と内省のための重要な触媒でもある。
本展で公開となった『Ten Thousand Waves』（2010年）は、ジュリアンのもっとも野心的なインスタレーション・プロジェクトのひとつだ。9つのスクリーンに映し出される本作は、数々の受賞歴を誇る女優のマギー・チャンや、映像作家のヤン・フードンなど中華圏の芸術界の主要人物をはじめ、ロンドンの音楽家であるジャー・ウォブル、チャイニーズ・ダブ・オーケストラ、作曲家のマリア・デ・アルベアールなどの協働によって制作されたという。役者、場所、時代のポリフォニーそのものである本作は、書道や映画、さまざまな神話が交差する中国文化へのオマージュでありながら、強制的な移動と移民の問題を中心に捉えている。船乗りが女神媽祖に助けられたという16世紀の中国の伝説と、2004年にイギリス北部の海岸で起こった中国人労働者23名が巻き込まれた遭難事故が呼応しながら物語はすすむ。
本展は、国際規模のプロジェクトを実施し、所属コレクションを世界に紹介することで、より多くの人々が作品に触れられる機会を創出するという、フォンダンシオン ルイ・ヴィトンのミッションに基づき世界各地のエスパス ルイ・ヴィトンで開催する「Hors-les-murs（壁を越えて）」プログラムの一環として開催。大阪では5回目となる記念すべき本展に、ぜひ注目したい。
※掲載情報は3月30日時点のものです。
開館日や時間など最新情報は公式サイトをチェックしてください。
「TEN THOUSAND WAVES」
日時／2024年3月27日(水)〜9月22日(日・祝)
会場／エスパス ルイ・ヴィトン大阪
住所／大阪市中央区心斎橋筋2-8-16 ルイ・ヴィトン メゾン 大阪御堂筋5F
時間／12：00〜20：00
休廊／ルイ・ヴィトン メゾン 大阪御堂筋に準ずる
URL／www.espacelouisvuittontokyo.com/ja/osaka
Text：Akane Naniwa
