タイの奇才・アピチャッポンの新作アート作品が公開中
『ブンミおじさんの森』で2010年カンヌ国際映画祭最高賞(パルムドール)受賞するなど、国際的評価を得る映画監督であり、現代美術作家として映像インスタレーションを中心に多様な活動を行う奇才、アピチャッポン・ウィーラセタクン。東京・谷中のSCAI THE BATHHOUSEで7年ぶり5度目の個展が開催中だ。
孤独な夢、近しい身内の物語や抑圧された集団の記憶など、心の片隅に追いやられた不穏な心理を予感させるアピチャッポン・ウィーラセタクンの作品。亡霊のようなイメージが、歴史の道筋をたどって現在に立ち現れ、引き伸ばされた時間のスクリーンに忍び込み、人々の日常を越えて闇と忘却、光と記憶のあいだを彷徨い続ける。
本展では、展覧会タイトルと同名の新作『Solarium』(2023)が公開。幼少期に夢中になったホラー映画から着想を得たという、ガラスの両面に映し出された2チャンネル映像のインスタレーションだ。盲目の妻を救うため、患者の眼球を盗んだ狂気の医師(マッドドクター)を描くタイ映画『The Hollow-eyed Ghost』(1981)を再現し、暗闇の中をさまよいながらも、やがて日の出の太陽に破壊されてしまう男の姿と、目に見えない光のあたたかさがそれぞれのスクリーンに映し出される。スクリーンとして中央に置かれたガラスの構造体に反射し、双方向に飛び交う光と音の運動と拡散によって構成されており、ガラスに貼られたホログラフ・フィルムに亡霊が浮かび上がるしかけだ。鑑賞者と被写体は入れ替わり、視覚が捉える領域とその外の世界を行き来するなかで、私たち自身の存在のゆらぎが鏡のように映し出されていくという。
なお、ウィーラセタクンのドローイングを一般公開するはじめての機会となる。光、影、眼球のスタディからなるモノクロームの水彩画シリーズや、近年ウィーラセタクンが制作の過程で訪れた場所を記録した写真アーカイブを5部構成で編纂した立体作品『Boxes of Time』(2024)も初公開となる。作家の5年間にわたる光と影の探求が結実した本展に、ぜひ注目を。
※掲載情報は3月26日時点のものです。
開館日や時間など最新情報は公式サイトをチェックしてください。
アピチャッポン・ウィーラセタクン「Solarium」
日時/2024年3月16日(土)〜5月25日(土)
会場/SCAI THE BATHHOUSE
住所/東京都台東区谷中 6-1-23
時間/12:00〜18:00
休廊/日・月・祝日
URL/www.scaithebathhouse.com/ja/
Text:Akane Naniwa