推しのアイドルが逮捕。その時ファンは? 元アイドルオタクが振り返る映画『成功したオタク』
韓国で話題のドキュメンタリー映画『成功したオタク』が2024年3月30日に公開される。監督のオ・セヨンは、かつてあるK-POPスターの「成功したオタク」で、推し活が人生のすべてだった。しかし、“推し”が逮捕され、一夜にして「犯罪者のファン」に。オ・セヨン監督は、その時の混乱や苦悩を振り返り、カメラを片手に同じような経験をした元アイドルファンに会いにいく。
原題の「성덕(ソンドク)」とは「成功したオタク」の略語。成功したオタクとは、好きな歌手や俳優に会い、“認知(名前と顔を覚えてもらうこと)”してもらったファンのこと。また、ひとりのアイドルに憧れてデビューし、“推し”と番組で共演を果たしたアイドルも「成功したオタク」と呼ばれる。K-POPファンは、必ずどこかで耳にするお馴染みのフレーズだ。オ・セヨン監督は、あるK-POPアイドルの熱狂的なファンだった。韓服を着てサイン会に行き、“推し”に認知され、テレビ番組でも共演した。中学生にして「成功したオタク」になり、推し活を通して友人もできた。
「“推し”その人になりたい、とさえ思った。“ただ好きだ”という気持ちを超えて、彼の嗜好や価値観まで似ていたいと思った。彼の考えが込められた歌詞が好きだったし、彼の自由な生き方を応援していた。青春時代、私はずっと彼の影響下にあった」(オ・セヨン監督によるステートメントより)
しかし、ある日、そのアイドルは、違法に撮影したわいせつ動画の流布、および集団性的暴行等の罪で逮捕、服役することに。応援していたアイドルが性犯罪者だった。
失望と怒りの感情が入り混じる中、犯罪者になっても擁護するファンの存在を知り、戸惑ったオ・セヨン監督。気持ちを整理するために、同じようにアイドルが犯罪に手を染め、傷ついたオタクたちに会いにいく。きっぱりとファンをやめ罪を糾弾する人もいれば、事件判明直後に擁護したことを後悔する元ファン、応援していた自分まで罪を犯したような気持ちになる人、もう誰のファンにもならないという人もいる。オ・セヨン監督は、傷ついたファンだけでなく、元大統領の支持者にも会いにいく。そこから見えてきたのは、裏切られた哀しみだけではなく、夢中で推し活をしていたファンの、キラキラと輝く時間だった。
オ・セヨン監督がこの映画を通して伝えたいことは、特定人物を攻撃することや、犯罪や刑罰の内容を詳細に語ることではないという。
「メディアで主に集団的に描写されるのがファンダムだが、この映画ではこれまで誰も耳を傾けなかったファンひとりひとりの顔と声に目を向ける」(オ・セヨン監督によるステートメントより)
オタクたちの声を通して、過去の自分に向き合うオ・セヨン監督の姿には、今、誰かを推している人ならば共感せざるをえないだろう。本当に「成功した」オタクとは何か、この映画から考えてみよう。
『成功したオタク』
監督/オ・セヨン
配給・宣伝/ALFAZBET
URL/alfazbetmovie.com/otaku
3月30日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
Text: Miho Matsuda