人生の移ろいや個性の成長を“衣服”という言語で表現した「Miu Miu」2024年秋冬コレクション
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人生の移ろいや個性の成長を“衣服”という言語で表現した「Miu Miu」2024年秋冬コレクション

ミュウミュウ(Miu Miu)は、2024年秋冬コレクションを3月5日(火)にパリ16区にあるイエナ宮で発表。フロントロウには、ジャパンアンバサダーを務めるTWICEのMOMOをはじめ、ソフィア・コッポラ監督の最新作『プリシラ』で主演を務めたケイリー・スピーニー、IVEのウォニョン、(G)I-DLEのミンニ、エヴァー・アンダーソン、エマ・コリンら豪華セレブリティが集まった。

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「INDIVIDUAL MOMENTS(それぞれの瞬間)」と銘打たれた本コレクション。ミウッチャ・プラダは、人生のステージや個々のパーソナリティ、さらに世界の移り変わりに合わせて変容していくファッションを表現した。アールデコ建築の重厚な空間に映し出されたのは、ベルギー系アメリカ人アーティスト、セシル・B・エヴァンスによるビデオインスタレーション作品。コレクションのテーマとは関係なく独立して制作されたものだが、デジタル上に残された記憶を、荒廃した世界に残された女性が取り戻そうとするストーリーは、追憶の日々を衣服で表現したコレクションともリンクするものであった。

ダビーなベース音が響き渡る中披露されたファーストルックは、ダブルのコートにパジャマのようなシャツとパンツを合わせたもの。無造作に着けたパールネックレスや乱れた襟元など、少女が母親の洋服を借りたようなバランスを意図的に作り出すことで幼少期の思い出を表現。

その後に続いた、クロップドスリーブの襟付きワンピースとリブタイツ、ワンストラップシューズを合わせたルックは、おしゃまな一張羅を想起させる。こうした複数の要素が混在するさまは、人生における様々な瞬間を表したもので、フォーマルなブラックドレスに端正なハンドバッグやグローブといった格式高さを象徴する一連のルックは、大人らしさを表現するものであった。

また、子供時代の特徴でもある衝動性と反抗心を表現するために、相反する要素を自由なマインドで掛け合わせた。前述したパジャマに合わせたのはコートだけでく、ボリューム感のあるシアリングジャケットといったアウター類、アーリー90sのプラダスポーツを彷彿させるスポーティなブルゾンと優美なバルーンスカートの組み合わせ、コンパクトなレザージャケットとロングシャツによる長短のレイヤードなどがそれだ。人間の成長における「服」という言語が、昔を懐かしく思い出させるだけでなく、前を向かせる駆動力を備えた装置として機能していることを証明している。

こうした相反する要素と考えは、ルックだけでなく素材使いやディテールにも見て取れる。オフィスウェアのようなニットのシャツワンピースからはミュウミュウを象徴するようなアズーリ(青)のポプリン生地が顔を覗かせる。同様に、モヘアを押し潰して縮絨させたような質感のワンピースや、表面にシワ加工を施したシルクドレスなどにも複数の要素を融合。1つの経験に付随する思い出が沢山あるように、1枚の服にも様々な要素が共存していることを表した。

カラーパレットは、前半がグレーやネイビーなどシックなトーン中心だったものの、後半は一転、ペパーミントやマスタード、淡いピンクやオレンジなどが多用され、音楽の演出効果も手伝って、気持ちをどんどんとアップリフティングさせていく。ディテールに目を向けると、ダイナミックな筆致と大柄が特徴のフラワープリントが目を引いた。アメリカンポップアートのような鮮やかな配色で表現されたかと思えば、彩度を落としてモダンな面持ちに落とし込むなど、アウトプットによって表情が様変わりする。

アクセサリーやシューズ類では、スムースレザーやカラースエードでバリエーションを揃えた大振りのハンドバッグやバブーシュのようなスリッパ、Tストラップのレザーシューズ、軍靴のようなトゥデザインがタフなニーハイブーツ、メンズのルックでも使われていた端を同系色でトリミングしたスカーフなども目立っていた。

そして、本コレクションのテーマを象徴していたのが、モデルのキャスティングだ。ブランド制作のショートフィルム「女性たちの物語」にも出演したアンヘラ・モリーナをはじめ、俳優のクリステティン・スコット・トーマス、バレエダンサーのギヨーム・ディオップ、ラッパーのエンジェル・ヘイズとリトル・シムスズなどに加え、ブランドの1ファンである70歳の中国人医師を起用。バックボーンや属性の異なる多様性に溢れたキャスティングの理由は、コレクションノートに記されたミウッチャ・プラダの言葉によって補足されている。

アンヘラ・モリーナ
アンヘラ・モリーナ
クリステティン・スコット・トーマス
クリステティン・スコット・トーマス

ミウッチャによると今回のコレクションは、「服」という言語を通して人生の特徴を再考するように、 “女の子らしさ”という言葉の意味を再定義するものであったという。かつては、特定の年齢、特定の性別だけに用いられていた“女の子らしさ”は、今では反抗心や自由な精神、その人ならではの個性を表す万国共通の慣用句に用いられていること。そしてそれは、現在のミュウミュウを構成する一つの特徴としてではなく、広範な意味で、気質の根本的要素として捉えるべきだと彼女は説いている。

こうした考えや狙いは、前時代の“女の子らしさ”を意図的に表現したルックを、幅広い年齢層のモデルが着用するなど、コレクション全体に通底するものであった。“女性(男性)らしさ”や、“高齢者(若者)はこうあるべきだ”といった様々な「呪い」に縛られている人たちを解放させるパワーに満ち溢れ、ファションが本来有する気持ちをぐっと高揚させる作用を伴った素晴らしいコレクションだったといえよう。

Miu Miu
ミュウミュウ クライアントサービス
TEL/0120-451-993
URL/www.miumiu.com

Text:Tetsuya Sato

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JANUARY / FEBRUARY 2025 N°183

2024.11.28 発売

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