創業者のレガシーを通して“創造性”の価値を見出す「BALENCIAGA」2024年冬コレクション
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創業者のレガシーを通して“創造性”の価値を見出す「BALENCIAGA」2024年冬コレクション

©︎Courtesy of Balenciaga
©︎Courtesy of Balenciaga

バレンシアガ(Balenciaga)は、2024年ウィンターコレクションを3月3日(日)にパリのオテル・デ・ザンヴァリッドで発表。会場には、THE BOYZのジュヨン、ピーピー(クリット・アンムアイデーチャコーン)、キム・カーダシアン三吉彩花などのセレブリティに加え、メゾンの創業者であるクリストバル・バレンシアガの下で60年代後半にハウスモデルを務めたダニエル・スラヴィックが来場し、ランウェイショーを見守った。

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アーティスティック・ディレクターを務めるデムナは、本コレクション前に発表したステートメントのなかで、創造性こそが有限かつ貴重なものであり、ラグジュアリーにおける新たな指針であると説いている。そのうえで、今回のコレクションがクリストバル・バレンシアガのレガシーから直接インスピレーションを得たテーマやシルエットを起点に、自身の作品を構成するアイデアの実験をさらに発展させるものであると語った。


会場となったオテル・デ・ザンヴァリッドは、かつて軍の病院だった施設で“アンヴァリッド”という名でパリ市民に親しまれている。重厚感あふれる歴史的建造物を舞台に、ランウェイを取り囲むように巨大なスクリーンを配置。画面にはパリの街並みが朝から夜にかけて刻々と変化する風景と、SNSの画面を大量にコラージュした電子的な風景が交差する物語が映し出され、来場者はそのタイムラインを追体験する。

ショーの音楽は、デムナの公私に渡るパートナーであり、過去すべてのコレクションにも携わってきたBFRNDが手掛けた。インダストリアルなハンマービートにヒプノティックなメロディや声ネタが絡む『Fruitcake Part1』を合図にショーはスタート。ファーストルックは、ラメで装飾を施したレオパード柄のマキシドレス。大きく背中が開いたバックスタイルとウエストラインを強調したシルエットが目を惹く。シックなベルベットのブラックドレスを挟み、スパンコールをあしらったターコイズブルーのドレスが登場。腰下から大きく張り出したコンシャスなシルエットは、クリストバル・バレンシアガのアーカイブに着想を得た“HIP-AULETTE”という新たな構造美だ。ショルダーパッドをヒップラインに縫い付けることで、ウエストとのコントラストをデフォルメして表現している。また、無数に入ったドレープが凍り付いたかのように加工されたロングドレスは、プリントで伝線を模したタイツを合わせるなど、クラシカルな佇まいに退廃的なニュアンスを添えた。手首にはスマートフォンホルダーを兼ねたバングルを着けるなど、多様なエレメントを雑食的に取り込んだスタイルに“らしさ”が伺える。

他にも、トレンチコートやテーラードジャケット、ボンバージャケットなどの袖を抜いて前身頃に垂らしたドレスや、スウェットパンツやデニムパンツを前後逆さまにしてトップスに転用したアイテムなども印象に残った。後者は「ヴァリューズトップ」と呼ばれ、クリストバル・バレンシアガのオリジナル作品「LA VAREUSE」がインスピレーションソースだという。ショーは淡々とスピーディに進み、情緒に訴えかけるような演出や仕掛けなどが一切ないストイックな見せ方は、あえてストーリー性を排しているように思えた。前後の流れを意識させない脈略のないルックの順番も含めて、まるでアイデアの発露がとどめなく溢れ出すデムナの脳内を直接覗き見ているようでもある。

メンズのルックに目を向けると、オーバーサイズのセットアップをバリエーションで見せていた。タイドアップしながらもシャツの裾を片方出したり、肩を乱暴に抜いたりと雑に気崩すことでアンバランスさを助長させている。また、一連のルックにおける、2000年代初頭の丸井系ドメスティックブランドを彷彿させるムードには正直困惑させれた。フェード感の強いダメージデニムのブーツインスタイルや、ド直球のトライバルモチーフや過剰なほどチェーンをあしらったジャケット、さらに前が見えないほど目深に被ったビーニーなどからは、端的に言って当時のビジュアル系ミュージシャンのファッションを想起させる。ハイファッションやラグジュアリーの文脈にはない局地的なトレンドではあるが、アメリカのユース世代のラッパーの間でリバイバルしているらしく、デムナのアプローチとも符号する。かつてのダッドスニーカーに象徴されるように、完全にアウトだと思われていた価値観を鮮やかにひっくり返してきたのがデムナであり、バレンシアガであったことを考えると、前述のスタイルが世界的なトレンドになることも決してあり得ない話ではない。

ショーの後半には、ビスチェとタイトなトップスのレイヤードに、ド派手なレースタイツとロングブーツを無秩序に組み合わせたかなりトゥーマッチなルックも披露された、デムナがステートメントのなかでも語っていたように、それらは美の概念を再考するものであり、こちらの美的感覚を激しく揺さぶるものであった。その是非はさておき、クールか否かという単純な二元論では語るのが難しい、かなりチャレンジングで意欲的なコレクションであったのは間違いないだろう。

Text:Tetsuya Sato

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