展覧会レビュー:山野アンダーソン陽子と画家のコラボレーションから現れたもの
スウェーデンを拠点に活動するガラス作家、山野アンダーソン陽子。彼女が18人の画家に声をかけ、画家自身が描きたいと思うガラスを言葉で表現してもらい、その言葉に応答して山野がガラスを吹く。できあがったガラスを画家が静物画に描き、写真家の三部正博が画家のアトリエを訪れて絵画とガラスの写真を撮影し、デザイナー須山悠里がアートブックのかたちに仕上げた。このプロジェクトが生んだ作品たちを東京オペラシティ アートギャラリーにて展示中。本展「ガラスの器と静物画 山野アンダーソン陽子と18人の画家」をライターの森祐子がレビュー。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2024年4月号掲載)
目に見えない存在の現れ
とうめいで色を持たず、なめらかな肌をしたクリアーガラスの、光と影が描く意外な線に心を奪われる。宙吹きガラスの、見えていなかった表情が姿を現す。ガラス作家の山野アンダーソン陽子さんが、デザイナーの須山悠里さん、写真家の三部正博さんと進めてきたプロジェクト「Glass Tableware in Still Life」。18人の画家との往復書簡のような表現の重なりを、本へ、展示へと開いていく。描いてみたいガラスの器は……画家の言葉だけを手がかりに、想像しかたちにするガラス作家と、現れた器を受けて描く画家。画家のアトリエで、ガラスの流れるような陰影を、モノクロームでさらに深く切り取る写真家。
彼らの作品を眺め、壁に記された短い文章を読みながら進む。画家との対話を回想する、まっすぐで飾らない山野さんの言葉運びから、相手の出方を面白がる、人間への興味を感じる。にじむ冷静な観察眼とユーモア。美の捉え方。ガラスの魅力や特性。山野さんの言葉が、普段なら作品の後ろに隠れて見えない、画家のパーソナリティや作家同士の相互作用を引っ張り出して、作品を見る目を少し開いてくれた。そうした関係性の見せ方が、本展におけるアートなのではないかと思う。
ガラスと色彩の穏やかな流れに深みを与えるのは、 壁一面に大きく映し出された制作風景の映像だ。スーパースローのクローズアップに、のっけから見惚れる。熱と対峙し、スピード勝負の力仕事だと聞く。だが山野さんの手指は、やわらかく丁寧な所作で、竿を扱う。彼女の、内に秘めた繊細な感性を覗き見るようだった。
※掲載情報は3月10日時点のものです。
開館日や時間など最新情報は公式サイトをチェックしてください。
「ガラスの器と静物画 山野アンダーソン陽子と18人の画家」
会期/2024年1月17日(水)〜3月24日(日)
会場/東京オペラシティ アートギャラリー(ギャラリー 1, 2)
住所/東京都新宿区西新宿3-20-2
時間/11:00〜19:00(入場は18:30まで)
料金/一般1400円、大・高生800円、中学生以下無料
休館/月曜日(祝日の場合は翌火曜日)、2月11日(日・全館休館日)
www.operacity.jp/ag/
Text:Yuko Mori Edit:Sayaka Ito