60年代に一世を風靡したプレタポルテ「ミス ディオール」にオマージュを捧げる「Dior」2024年秋冬コレクション
ディオール(Dior)は、2024年秋冬ウィメンズコレクションを2月27日(火)にパリのコンコルド広場で発表。会場には、BLACKPINKのジスをはじめ、ジェニファー・ローレンス、ナタリー・ポートマン、SEVENTEENのミンギュといった各界を代表するセレブリティに加え、日本からはジャパンアンバサダーを務める新木優子とビューティー アンバサダーの山下智久が来場し、ランウェイショーに花を添えた。
メゾンを指揮するマリア・グラツィア・キウリは、1967年に当時のクリエイティブ・ディレクター、マルク・ボアンのアシスタントであったフィリッぺ・ギブルジェが手掛けたメゾン初のプレタポルテコレクション「ミス ディオール」へのオマージュに今回挑んだ。「ミス ディオール」が特別な誰かのためのオートクチュールではなく、量産可能なドレスを制作することで、ともすれば選民的で高尚なものであったハイファッションをアトリエと顧客だけの蜜月から離し、世界中の女性たちの市民権を獲得するまでの過渡期にフォーカスを当てたのである。
セットデザインを手掛けたのは、インド人アーティストのシャクンタラ・クルカーニ。周囲を竹細工で覆った会場中央のサークルには、「女性の身体をどのように見るのか」という“身体性”にまつわる政治に焦点を当てた作品「竹の鎧」を計9体配置。その奥に見える壁には、実際にシャクンタラ・クルカーニが「竹の鎧」を纏ったフレスコ画が大きく描かれている。
照明を落とした会場が明転すると、セルジュ・ゲンズブール『馬鹿者のためのレクイエム』のドラムブレイクだけを抜き出したトラックが鳴らされ、ショーはスタート。 ファーストルックは、上品な光沢感のあるギャバジンを使ったトレンチコートに共地のパンツを合わせたスタイル。その後もミリタリーライクなコートやピークドラペルのジャケットにラップスカートを合わせたルックなど、ベージュ×ブラックを基調とする端正なルックが続く。
なかでも目を惹いたのが「MISS DIOR」の手書き風ロゴだ。ショー開催前に公開されたティザームービーには、かつてブティックのショッパーに使われた「MISS DIOR」ロゴも登場するが、本コレクションにおいては、ラフな筆致にアレンジすることで抑制の利いたルックに新鮮な違和感を付与していた。
なお、このティザームービーには、アーカイブ映像としてネックラインをビジューで埋めたトップスやオールオーバープリントであしらったモノグラム柄など「MISS DIOR」コレクションの貴重な記録が収められている。 今回、マリア・グラツィア・キウリはオリジンを生かしつつ、前者はビジューを小さなビーズに置き換え、後者はモノグラムロゴをブルーやブラウンで再解釈するなど、単なる懐古主義に陥ることなく巧みにモダナイズさせていた。2つの映像を見比べてみると、よりその進化が楽しめるはずだ。
乾いたドラムブレイクのインストから一転、ゲーンズブールとジェーン・バーキンのデュエット曲『ジュ・テーム・モワ・ノン・プリュ』の甘美なメロディーに変わると、ルックのトーンも様変わりする。ピュアホワイトのウールに金ボタンを配したトレンチや、ボックスシルエットのワンピースに白いロングブーツを合わせた60’sムード満載のルックが登場。
その後も、大判のウィンドウペン(こちらもティザーに登場している)や織り柄が美しいツイードジャケット、さらに騎馬隊が被るようなウールキャップにフェドラハットなど、マテリアルやパターン、小物使いに至るまでクラシカルなエレメントが多方に取り入れられていた。
「MISS DIOR」は当時、若さや明るさをマニフェストするコンセプトを掲げており、女性にとってのステータスアイテムであると同時にフレッシュさを象徴するものであったという。若さと明るさ、もっといえば“美しさ”を過剰に求めた前時代と違い、同じモチーフや意匠を現代的に再解釈した今回のルックからは、時代に合わせて変容可能なフェミニティの力強さと連帯するパワーを感じさせるものがあった。
フットウェアやアクセサリー類に目を向けると、大人気のディオール オブリーク エンブロイダリー柄は、小振りのボストンバッグなどで登場。他にも、錠前に「MISS DIOR」ロゴを配したハンドバッグや、ランウェイではハンドルに腕を通してクラッチのように携えていたキルティングバッグ、エナメルのような質感とバックストラップのディテールがフェティシュなロングブーツ、また、後半のルックで多用されていたビーズで装飾されたレザー製のベレーなどが印象に残った。
もちろん、メゾンに通底するサヴォアフェールも健在だ。ショーのラストで連続して披露された優美なシルエットを描くマキシ丈ドレスでは、シアーな素材に施された精緻な刺繍や煌びやかな装飾を施したフリンジなど、随所に卓越した職人技術が息衝いている。
最後にマリア・グラツィア・キウリが場内を一周して挨拶をすると、会場は大きな拍手に包まれた。オマージュという手法を通して偉大なる先達を讃え、彼女(彼ら)が培ったレガシーに新たな息を吹きむことで過去と現在を鮮やかに繋いでみせた。それはメゾンの伝統を未来へと継承するという覚悟を持ったマリア・グラツィア・キウリらしい素晴らしいコレクションであった。
Dior
クリスチャン ディオール
TEL/0120-02-1947
URL/www.dior.com
Text:Tetsuya Sato