サバト・デ・サルノのデビューを飾る「Gucci」2024春夏コレクション。フォード期を彷彿させるグラマラスなエッセンスも
新クリエイティブ・ディレクターにサバト・デ・サルノを迎えたグッチ(Gucci)の2024春夏コレクションが9月22日に発表された。商業的な成功も含めてブランドの一時代を築いたと言ってもいいアレッサンドロ・ミケーレの後を受けたサバト・デ・サルノの記念すべき初陣とあって、今期最大の注目を集めた本コレクション。会場となったミラノにあるグッチ ハブ(Gucci Hub)には、三吉彩花をはじめ、グローバル・ブランドアンバサダーを務めるNewJeansのハニや、ジュリア・ロバーツ、ライアン・ゴズリング、ハリー・ベイリー、マーク・ロンソンなどのセレブリティが多数来場した。
あらためて、サバト・デ・サルノについておさらいしよう。イタリア南部にあるナポリ チッチャーノ出身のサバト・デ・サルノは、2003年にプラダ(Prada)に入社すると、アシスタント・パターンメーカーとしてキャリアをスタート。その後、アンナプルナ(Annapurna)やドルチェ&ガッバーナ(Dolce & Gabbana)で研鑽を積み、14年間在籍したヴァレンティノ(Valentino)では、2020年からメンズ&ウィメンズウェアを統括するファッション・ディレクターを務めた。
そんな輝かしいキャリアを持つサバト・デ・サルノが、グッチでのデビューコレクションにあたりタイトルに選んだのは、イタリア語で“もう一度”を意味する「アンコーラ(ancora)」。「グッチを“もう一度”好きになってほしい」という彼なりのメッセージを込めたのだという。
注目されたファーストルックは、ピークドラペルのロングジャケットに、胸元が大きく開いたカットソーとマイクロミニのショートパンツを合わせたマニッシュなスタイル。首元を飾るのは、1960年代に登場した「グッチ マリナ チェーン ジュエリー コレクション」をモディファイした大振りのネックレスだ。かねてより、トム・フォード時代のグッチの影響を公言してはばからないサバト・デ・サルノだけに、上質な素材使いやイタリアの伝統的なサルトリアに象徴される仕立ての良さ、さらに大胆な肌見せなどはフォード期のエッセンスを彷彿。同時に、アイコニックなモチーフを多用し、様々なカルチャーの雑食性をコンシャスに昇華させたミケーレのスタイルを刷新することで、サバト・デ・サルノという個性を観客に印象付けた。
また、キーカラーとなった“ロッソ・アンコーラ”と呼ばれるバーガンディのようなレッドも目を惹いたポイントのひとつ。これはブランドの創設者であるグッチオ・グッチが18世紀末にポーターとして働いていたロンドンのザ・サヴォイ・ホテルのエレベーターの壁にインスピレーションを受けたたもので、ショーの中でもシャイニーレザー スタイルやフリンジスカートなどに加え、超厚底のホースビットローファーやバッグ、アクセサリーなどにも用いられていた。
ジェンダーレスなファッションの潮流とは趣を異にするのが、ランジェリーから着想を得た大胆なスリップドレスやクチュールからインスパイアされたミニドレスなどのイブニングルックだ。美しく精緻なレースディテールは、ブランドが培った伝統的なクラフツマンシップを再確認し、思い切ったマイクロミニ丈からは躍動感や若さのエネルギーをも感じさせた。中庸なジェンダーレス ルックでも、ましてや誇張したセクシャリティとも違う健康的な美しさは、トム・フォードでもミケーレでもない新たな方向性を指し示している。フェミニンやマスキュリン、セクシーやコンフォートなど多様なエレメントに同時代性を加味しつつあえてシンプルなスタイルにまとめたことで、卓越した技術力や細部へのこだわりがより強調されていたのは狙い通りと言えよう。他にも派手さこそないが、かなり深めのスリットが入ったレザースカートをオーバーサイズのフーディやニットトップスと合わせたルックからは、リラックスしたモダンなアティテュードが見て取れる。
人気のアクセサリー類に目を向けると、バッグはグッチが誇るアイコンピース「ジャッキーバッグ」や「バンブーハンドル バッグ」が健在。先述した“ロッソ・アンコーラ”カラーに加え、ネオンカラーのパイソンやモノトーンのミニサイズまでカラーやマテリアルも豊富。他にも“ダブルG”のクラッチバッグや縦型ショルダーなども登場。フットウエアは定番のホースビットローファーに加え、クリスタルの装飾パーツがたおやかに揺らめくピンヒールやウェブストライプがアクセントになったコートタイプのスニーカーなど幅広くラインナップする。
今回のコレクションに合わせて発表されたサバト・デ・サルノのステートメントには、愛、自由、多様性といったポジティブな言葉が数多く使われている。その多幸感溢れるムードは、わかりやすく派手なアウトプットではなく、ミニマルでシンプルな意匠へと形を変えて表現された。そのため、多くのメディアでは、ロゴだけが主張するデザインやこれ見よがしのブランドネームにおもねらない“クワイエット・ラグジュアリー”のトレンドと重ねて見る向きも多い。「ancora(もう一度)」というコレクションタイトルには、ハイプになり過ぎたファッションを“もう一度”本質的なものへと取り返すサバト・デ・サルノの決意と覚悟を込めたと考えるのは早計だろうか。
グッチ クライアントサービス
TEL/0120-99-2177
URL/www.gucci.com
Text:Tetsuya Sato