多幸感に満ち溢れたショー。ファレルの初陣となる「Louis Vuitton」2024年春夏メンズコレクション
ルイ・ヴィトン(Louis Vuitton)は、新メンズ・クリエイティブ・ディレクターのファレル・ウィリアムスにとってデビューコレクションとなる2024年春夏メンズコレクションのショーを発表した。
2021年に急逝したヴァージル・アブローの後を受ける形で、新たにメンズ部門の全権を託されたのがグラミー賞13冠に輝く世界的なアーティスト、ファレル・ウィリアムス。自身が主宰するビリオネア・ボーイズ・クラブ(Billionaire Boys Club)や、ギャップ(Gap)、ナイキ(Nike)などとの協業経験はあるものの、ビッグメゾンのクリエイティブを指揮するのは勿論初めてとあって、就任発表以来、大きな関心を集めていた。ショー会場には、ジェイ・Z&ビヨンセ夫妻やミランダ・カー、キム・カーダシアンといったセレブリティを始め、エイサップ・ロッキーやタイラー・ザ・クリエイター、レニー・クラヴィッツなどのミュージシャン、さらに盟友のNIGOやアーティストのカウズ、NBAプレイヤーのラッセル・ウェストブルックなど豪華な面々が列席。本コレクションの注目度の高さを改めて示すこととなった。
ショーの舞台となったのは、セーヌ川に架かるパリで最も歴史のある橋、ポンヌフ。ライトアップで彩られた橋上には、ルイ・ヴィトンを象徴するダミエ・パターンのイエローカーペットが敷き詰められている。コレクションのテーマは、生命の普遍的な源でもある“THE SUN”(太陽)。太陽という存在を、文化や信条を超えて、人々を勇気づけ、ときに癒し、団結させる輝きを放つ光の象徴として捉えた。先述のダミエ柄を配したカーペットのみならず、グラフィックの光線やショーピースのカラーパレットに舞台装飾など、コレクションのいたるところに“THE SUN”(太陽)というテーマが通底されている。
ランウェイの一角にはピアノを中心とする管弦楽隊を配備。トッド・トウルソが監督したフィルハーモニーによる前奏曲『PUPIL KING』でショーの幕が開ける。記念すべきファーストルックは、クラシカルなピークドラペルが印象的なライトグレーのスリーピーススーツ。テーラリングを基調としながら、ダミエ柄のタイやショートパンツに膝丈ブーツの合わせなど、随所に“らしさ”が伺える。このブーツと同様に、コレクションの中で多用されたのが、ダミエ・パターンとカモフラージュが融合した“ダモフラージュ”という新柄だ。スーツやトランク、フーディなどにも用いられ、メゾンが培ったオーセンティシティを再解釈する大胆さを観客に印象付けた。ダミエ・パターンは今季のキーモチーフにもなっており、“ダモフラージュ”以外にも、ピクセルアートのE.T Artisrtの手によってパリの街並みを8ビット風にアレンジしたパターンなど、様々なバリエーションを見せた。
荘厳なオーケストラの調べから一転、ハーレム出身のラッパー、ジム・ジョーンズの『SUMMER COLLECTION』にBGMが変わると、より多様性に富んだルックが披露される。アイコニックな「モノグラム」をツイストさせた“LVERS”のタイポグラフィ入りのバーシティジャケットとフライトキャップの組み合わせは、まるで90年代東海岸のヒップホップアーティストのようでもあり、ダミエを刺し子のような意匠で表現したデニムのセットアップからは、日本文化の影響も垣間見られた。また、コレクションに併せて制作されたショートフィルムにも出演したアメリカのアーティスト、ヘンリー・テイラーとのコラボレーションアイテムも登場。テイラーが描いた肖像画は刺繍となって、ジャケットやデニムなどに用いられている。
なかでも白眉だったのが、ファレル流の“ダンディズム”を表現した一連のルックだ。煌びやかなパールで装飾されたキーポルに加え、1920年代の婦人用ツイードジャケットを想起されるノーカラーの羽織りにバルーンシルエットのファットショーツ、白いルーズソックスとレザーの短靴を合わせたルックに象徴されるように、画一的なジェンダー規範に捉われない奔放なスタイルは、老舗メゾンの新時代を予感させるのに十分なものであった。
ショーのフィナーレでは、ファレルがオーディションで選んだ50名近いゴスペルの聖歌隊が登場。『JOY(Unspeakable)』という人生讃歌的な楽曲を朗々と歌い上げる中、“ダモフラージュ”スーツに身を包んだファレルとメンズ・スタジオのスタッフがランウェイに現れ、祝祭的なムードに包まれて大団円を迎えた。ファレルが本コレクションで伝えたかったのは、グラフィックなどでも使用された“LVERS”というポジティブなメッセージ。これは、温かさや幸福感、歓迎する気持ちの基盤となる心の状態を表すものだという。その言葉通り、暗く陰鬱なムードが蔓延する時代において、人々の心に灯りをともし、気持ちをぐっとアップリフティングさせるような多幸感溢れるショーは、改めてファッションの力を思い起こさせてくれるものであった。
Text:Tetsuya Sato