今週末まで! 諏訪敦「眼窩裏の火事」@府中市美術館
府中市美術館では、2月26日(日)まで諏訪敦「眼窩裏の火事」を開催中。緻密で再現性の高い画風で知られる諏訪敦。この展覧会では、「視ること、そして現すこと」を問い続け、絵画制作における認識の意味を拡張しようとする画家の姿が立ち上がってくる。本展を彫刻家であり評論家の小田原のどかがレポートする。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2023年3月号掲載)
美と認識を揺さぶる
幼少の頃、まぶたの裏に映る像を追うのが好きだった。照明を視界に入れ、すぐ目を閉じると、眼前の光がまぶたを透過する。自分の名であるのどかの「の」の字が見える気がして、楽しい遊びのひとつだった。
諏訪敦の個展を訪れ、展覧会タイトルとなった「眼窩裏の火事」と同名の絵画を前にして、そのことを思い出した。「眼窩裏の火事」とは、諏訪も度々経験しているという、視野内に光の波が現れる現象「閃輝暗点(せんきあんてん)」や、美を判定する部位とされる「内側眼窩前頭皮質」に由来するようだ。
諏訪は写実絵画の画家としてよく知られる。「事物をあるがままうつすこと」が写実の意味だ。しかし当然、次のようなことが問題となる。物それ自体を認識することは可能か。哲学者・カントによるこの問題提起は、現代の哲学者たちにとっても重要な論題であり続けている。
会場で諏訪の絵画を見て歩き、作品を通じて「写実」が幾度も問い直されてきたことがわかった。写真と見まがう具体性を追求しつつ、見るとは何か、認識とは、美とは、死とは、と問いが重ねられていく。それは形而上のみに終始せず、第二次世界戦争と敗戦の経験など、諏訪とその家族の人生の問題と交差していく。
大型の肖像画も圧巻だが、コロナ禍で制作され、高橋由一《豆腐》などを参照した静物画シリーズが実によい。遊び心にあふれていることは勿論、静物画によって絵画史を再演する試みに、文字通り、目を開かされた。
諏訪敦「眼窩裏の火事」
会期/2022年12月17日(土)〜2月26日(日)
会場/府中市美術館
住所/東京都都府中市浅間町1-3
時間/10:00〜17:00(入館は16:30まで)
休館日/月曜日
入場料/一般 700円、高大生 350円、小中生 150円
TEL/050-5541-8600(ハローダイヤル)
URL/https://www.city.fuchu.tokyo.jp/art/tenrankai/kikakuten/2022_SUWA_Atsushi_exhibition.html
Text:Nodoka Odawara Edit:Sayaka Ito