ロエベ財団「クラフトプライズ 2023」ファイナリスト選出、日本からは最多の6名。 | Numero TOKYO
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ロエベ財団「クラフトプライズ 2023」ファイナリスト選出、日本からは最多の6名。

志観寺 愛『Reflection』

「クラフトプライズ」は、2016年にロエベ財団に創設された、現代のクラフトマンシップと未来を切り開くアーティストを讃えるコンペティション。第6回目の開催となる「クラフトプライズ 2023」には、117カ国から2700点を超える応募があり、ファイナリストとして30名が選ばれた。日本からは国別最多となる6名が選出。2023年5月17日より6月18日まで、ニューヨーク、ノグチ美術館にあるイサム・ノグチのスタジオで展示される。

今回の候補作では「本質から熟考し時間をかけたテクニックと、巧みな素材操作を探求した作品」が選ばれたという。トロンプルイユ(だまし絵)の技法を用いたもの、よく見ると想像とは異なる素材であったり、また、光や素材、表面との関係を追求することで、動きを感じさせる作品も多く見られた。

志観寺愛によるメタリックな光の反射が印象的なオブジェ『Reflection』は、一見すると布のようにも思えるが、漆に浸した細い糸を、金、銀、錫で覆い、無数に重ねている。そして漆の特性を仕上げではなく、構造のために活用しているという。

稲崎 栄利子『Metanoia』
稲崎 栄利子『Metanoia』

稲崎栄利子の『Metanoia』は、1年以上をかけて制作した、セラミックによる何百もの極小のパーツを組み合わせた作品。ハンドクラフト陶器の限界を超えたとも言われる、その繊細さと緻密さ、不思議な質感に引き込まれる…。

アランダ ラッシュ&テロル・デュー・ジョンソン『Desert Paper 18』
アランダ ラッシュ&テロル・デュー・ジョンソン『Desert Paper 18』

こちらは、アメリカ先住民の伝統に着想を得て、カゴ構造の限界を広げた、アランダ ラッシュ&テロル・デュー・ジョンソンによる『Desert Paper 18』。自然の造形物のようにも思えるが、ユッカ、アガペ、クレオソートなどの植物、銅、火山石などを混ぜてパルプを作り、それを石の上に垂らして生み出された器だ。

渡部 萌『Transfer Surface』
渡部 萌『Transfer Surface』

渡部 萌による『Transfer Surface』は、東北地方で集めた胡桃の木皮から作られた箱。一枚の大きな木片から作られ、重なり合った側面はシンプルな縫い目で固定されている。

本間健司『Contours of Past 2022』
本間健司『Contours of Past 2022』

漆の古木を再利用し、表面に漆が塗られた器『Contours of Past 2022』。本間健司は、漆の木を植え、自ら漆も採取する漆芸家としても知られている。作品の背後に流れる時間にも思いをはせたくなる。

中場信次『Rose Branch』
中場信次『Rose Branch』

ジュエリーアーティストの中場信次による『Rose Branch』。真珠の破片をステンレススチールのワイヤーに通し、彫刻を施すことで、アルミニウムの棘のあるバラの枝に仕上げた。

井本真紀『Torus of Powdered』
井本真紀『Torus of Powdered』

井本真紀の『Torus of Powdered』は、直径560mmの円環の石膏型に粉末ガラスを充填し焼き上げられた、大きくも繊細なガラス作品。亀裂や滴下など、窯の中でガラスが変容していった痕跡が見えることで、それを制御したプロセスに圧倒される。

数珠かおり『108 POINTS OF VIEW』
数珠かおり『108 POINTS OF VIEW』

デンマーク在住の数珠かおりによる『108 POINTS OF VIEW』は、仏教における108という数字の意義に着想を得た、108点の小さな彫刻によるタブロー。それぞれは、エナメル技法を用いた着用可能なジュエリーでもある。

クレール・リンドネール『Buisson n°2』
クレール・リンドネール『Buisson n°2』

クレール・リンドネールによる『Buisson n°2』は、18世紀のレタス食器へのオマージュも込められた遊び心あふれる、炻器(せっき)の彫刻作品。

ナタリー・ドワイヤン『Pays Cabi』
ナタリー・ドワイヤン『Pays Cabi』

一見すると、パッチワークのテキスタイル作品に思えるかもしれない。だがこれは、大きな球状の陶器作品『Pays Cabi』。陶芸作家のナタリー・ドワイヤンは、5ヶ月以上かけ、表面を針で刺し、ベルベットのような質感を出した。

選考委員長のアナチュ・サバルベアスコアは「第6回を迎えるにあたり、この賞の性格を確立した以上、我々は扉を開くべきであると感じています。そして、非西洋的な生命力溢れる美学を分析し、造形的なクラフトにアプローチすることで、芸術の野心のあるクラフトの概念をさらに明らかにすることができ、嬉しく思っています」とコメント。審査委員会には、日本からはデザイナーで日本民芸館館長でもある深澤直人が参加している。

これらのファイナリスト作品は、2023年5月17日より6月18日まで、ニューヨーク、ノグチ美術館にあるイサム・ノグチのスタジオで展示され、オープニングで受賞者が発表される予定。会場となるスタジオは、イサム・ノグチが晩年の芸術活動の中心としていた場所だが、これまで一般公開されておらず、初公開となる。

多様な素材を用い、枠にとらわれずに作品を生み出してきたイサム・ノグチゆかりの場で、ぜひクラフトプライズの作品群に出合ってほしい。

また、この奥深き現代クラフトに興味を持ったなら、これまでのクラフトプライズのノミネート作品などを紹介するデジタルプラットフォーム「The Room」もぜひチェックして。

LOEWE Craftprize 2023
期間/2023年5月17日〜6月18日
場所/ニューヨーク イサム・ノグチ美術館
URL/craftprize.loewe.com/ja/craftprize2023

Text:Hiromi Mikuni

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