「線と言葉・楠本まきの仕事」展を湯山玲子がレポート | Numero TOKYO
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「線と言葉・楠本まきの仕事」展を湯山玲子がレポート

ビデオ『KISSxxxx』のための描き下ろし(1991)©Maki Kusumoto
ビデオ『KISSxxxx』のための描き下ろし(1991)©Maki Kusumoto

 

1984年のデビュー以来、38年にわたる漫画家・楠本まきの仕事を通覧する展覧会が開催中。世代を超えたファンを獲得し、さまざまな話題作を生み出した耽美で退廃的、巧緻でスタイリッシュな世界を著述家でプロデューサーの湯山玲子がレポートする。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2023年1・2月合併号掲載)

少女漫画における耽美系の最先端表現

「Kの葬列」より(1993) ©Maki Kusumoto
「Kの葬列」より(1993) ©Maki Kusumoto

ゴスロリにロックの耽美ビジュアル系と、完全に市民権を得てしまった表現世界がある。キーワードは、不思議の国のアリス、月夜、吸血鬼、ビアズリーのサロメ、ヴァロットン、イギリスのお茶会、包帯と眼帯、媚薬、マンドラゴラ、丸尾末広、グランギニョール、四谷シモン、金子國義、高畠華宵、鶴屋南北の桜姫などなど。一度、「耽美山手線ゲーム」をやってみたいものだが、このある意味、アウトサイダーな世界は、日本では24年組(萩尾望都ら) を代表格として、少女漫画によって進化発展してきた。官能性をも擁するこの耽美ワールドは、BLを派生させたのはご存じの通り。

楠本まきはまさにその歴史の最先端にいるマンガ家で、少女と美形バンドマンの恋を描き(くらもちふさこが切り開いたクリシェ)その名を不動にした人気作『KISSxxxx』では小出しにしていたセンスが、どんどん先鋭化し、『赤白つるばみ』では、日常生活描写の中にその美意識を記号ではなく香らせる、という独自表現に成功している。

原稿の肉筆展示では、ロットリングの極細線によるミリ単位の造形、黒ベタのコンポジション、余白の使い方などの上手さに脱帽。エッチング作品も味わい深い。展示してある生原稿一枚こそがまさに作品という感じであり、「所有したい」というマーケットは、とんでもなく大きいはず。私は彼女の描くところの「女の黒髪」が大好きなので、ラプンツェル題材の作品を書いていただきたい、と思った次第。

「ch-11」より 雑誌『ダ・ヴィンチ』のための描き下ろし(2000) ©Maki Kusumoto
「ch-11」より 雑誌『ダ・ヴィンチ』のための描き下ろし(2000) ©Maki Kusumoto

「Two Decades」展のためのエッチング(2003) ©Maki Kusumoto
「Two Decades」展のためのエッチング(2003) ©Maki Kusumoto

会場風景 撮影:大橋愛
会場風景 撮影:大橋愛

会場風景 撮影:大橋愛
会場風景 撮影:大橋愛

展覧会ポスタービジュアル ©Maki Kusumoto
展覧会ポスタービジュアル ©Maki Kusumoto

「線と言葉・楠本まきの仕事」展

会期/2022年10月1日(土)~12月25日(日)
会場/弥生美術館
住所/東京都文京区弥生2-4-3
開館時間/10:00〜17:00
※入場は30分前まで
休館日/月曜
料金/一般¥1,000、大学・高校生¥900、中・小学生¥500
(竹久夢二美術館にも入館できます)
URL/www.yayoi-yumeji-museum.jp

掲載情報は12月20日時点のものです。
開館日時など最新情報は公式サイトをご確認ください。

Text:Reiko Yuyama Edit:Sayaka Ito

Profile

湯山玲子Reiko Yuyama 著述家、プロデューサー。著作に『女ひとり寿司』(幻冬舍文庫)、『四十路越え ! 』(角川文庫)。クラシック音楽の企 画イベント「爆クラ」、ショップチャンネルにて ファッションブランド「OJOU」を主宰。

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