言葉にならない色彩「カラーフィールド 色の海を泳ぐ」 | Numero TOKYO
Art / Post

言葉にならない色彩「カラーフィールド  色の海を泳ぐ」

展示風景 撮影:渡邉修 写真提供:DIC川村記念美術館
展示風景 撮影:渡邉修 写真提供:DIC川村記念美術館

抽象絵画の潮流“カラーフィールド”の画家たちや、彼らと交流した彫刻家ら9名の作家による展覧会「カラーフィールド 色の海を泳ぐ」。大きなカンバスに色彩を広げて「場=フィールド」 をつくる抽象絵画の潮流であるカラーフィールドは、1950年代後半から60年代にかけてアメリカを中心に発展し、その後の美術にも影響を与えてきた。貴重な展覧会を作家、河野咲子がレポートする。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2022年6月号掲載)

展示風景 撮影:渡邉修 写真提供:DIC川村記念美術館
展示風景 撮影:渡邉修 写真提供:DIC川村記念美術館

色彩のにおい、色彩のことば

色彩を言葉であらわすことはできない。それだからわたしは黙りこくって、広々とした展示室をあゆみつつ、そこにはない音を聴き、そこにはない匂いを嗅ぎ、そこにはない肌に触れてゆく。まだ中まで焼け切らないホットケーキの粉っぽい匂いとか、アンドロメダに住むうろこだらけの隣人に抱きしめられた心地とか。

1950年代後半から60年代の米国を中心に、カンバスが広やかな色彩の面でおおわれるカラーフィールドの絵画が描かれた。この企画展では、カラーフィールド作品の収集で知られるマーヴィッシュ・コレクションより1960年代以降の作品を紹介している。

展示風景 撮影:渡邉修 写真提供:DIC川村記念美術館
展示風景 撮影:渡邉修 写真提供:DIC川村記念美術館

わたしがそれらの絵画に見たのは、けっして「夕焼けのような色」だとか「メタリックな輝き」ではなかった。色あいを色あいの言葉で喩えてしまえば、それはもとの絵画の色の機微からどこまでも懸け離れていってしまう。いっそ目をつむったときに感じられる音や触覚やにおいのほうが、じっさいの色合いの知覚にまだ近い。そうして絵画がほとんど目に見えなくなったとき、ようやくわたしの両眼は巨きな絵画の色彩にすっぽりと包み込まれる。

企画展にあわせて展示替えされた同館のコレクション展では、青と緑の部屋、赤と黒の部屋……というように展示室ごとに似た色彩の作品が集められていた。ふしぎなことに、そこでは絵画の色彩のイメージがただちに胸裏へと降りてきたような気がしている。それはたとえば血肉の赤。幸福の黄。へだたりの青。

展示風景 撮影:渡邉修 写真提供:DIC川村記念美術館
展示風景 撮影:渡邉修 写真提供:DIC川村記念美術館

※掲載情報は7月31日時点のものです。
開館日時など最新情報は公式サイトをご確認ください。

「カラーフィールド 色の海を泳ぐ」

会期/2022年3月19(土)〜9月4日(日)
会場/DIC川村記念美術館
住所/千葉県佐倉市坂戸631
開館時間/9:30〜17:00
※入館は16:30まで
休館日/月曜
料金/一般 ¥1,500、学生・65歳以上 ¥1,300、小中高校生 ¥600
URL/https://kawamura-museum.dic.co.jp/

Text:Sakiko Kawano Edit:Sayaka Ito

Profile

河野 咲子Sakiko Kawano 作家。1994年生まれ。第5回ゲンロンSF新人賞受賞。幻想小説、SF、短歌、テクスト批評、現代美術評などを執筆する。旅の批評誌『LOCUST』編集部員。

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