アーティストたちの協働から見えてきたものとは。「転移のすがた」@銀座メゾンエルメス
エルメス財団のプログラム「アーティスト・レジデンシー」は過去10年間の歩みのなか、職人、アーティスト、メンターの間で、交わされ、紡がれてきたさまざまな「転移」のすがたを、ソウル、東京、パンタン(パリ郊外)3都市それぞれ異なる視点から複層的に回顧する。銀座メゾンエルメスフォーラムでは、レジデンシーの参加に協力を仰いでいる推薦者(メンター)と滞在アーティストの作品に見られる相関関係に注目し、3組のアーティストたちを紹介する展覧会が開催中。アートプロデューサーの住吉智恵がレポートする。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2022年3月号掲載)
対話に磨き上げられた作品世界
エルメス財団が芸術家を工房に招聘し、職人との協働制作を行うプログラム「アーティスト・レジデンシー」では、2010年創設以来、34人のアーティストが熟練者の技術に触れ、さまざまな素材や技法に挑戦してきた。本展ではその滞在作家とメンター(推薦者)との相関関係に注目し、3組の作家たちが師弟関係や世代を超えて芸術性を感応し合う「転移」の様相を見いだそうとする。
クロエ・ケナムによる多様性の象徴としての果物のオブジェは、ガラス工房に伝わる技法と様式を用いたバロック的装飾表現により、作物の産地の差異や距離を度外視した過剰供給を浮き彫りにする。エンツォ・ミアネスによる固有のメロディが織り込まれた布と既製品を組み合わせたインスタレーションは、滅びゆく物たちの詩的な余韻に生者の歴史を語らせようとする。小平篤乃生によるガラスや金属に微かな有機性を吹き込む彫刻群は、師であるジュゼッペ・ペノーネが自然物の息吹から奏でる音楽と共鳴する。
メゾンの伝統を担う職人たちの経験と見識が現代美術作家に与える影響は計り知れない。さらに若い作家に大いに刺激され、単なる推薦人を超えた本気を見せる先輩作家たちとの協働が魅力的だ。そこにはクリエイションを通じて対話を重ね、呼応し合いながら自身の作品世界を磨き上げていくプロセスが見てとれた。アーティストはもちろん、ミッドキャリアクライシスに直面する全ての人にこの実践の成果は朗報となりそうだ。
※掲載情報は3月1日時点のものです。
開館日や時間など最新情報は公式サイトをチェックしてください。
アーティスト・レジデンシー10周年記念展「転移のすがた」
会期/2021年12月17日(金)〜2022年4月3日(日)
会場/銀座メゾンエルメス フォーラム
住所/東京都中央区銀座5-4-1 8・9F
入場料/無料
時間/11:00〜20:00(日曜日は〜19:00)※事前にウェブサイトで確認すること。
休館/不定休(エルメス銀座店の営業時間に準ずる)
TEL/03-3569-3300
URL/www.hermes.com/jp/ja/story/maison-ginza/forum/211217/
Text:Chie Sumiyoshi Edit:Sayaka Ito