ジャーナリストの川上典李子が見た「イサム・ノグチ 発見の道」@東京都美術館
20世紀を代表する芸術家イサム・ノグチ(1904-1988)。一つの素材や様式にとどまることなく、貪欲な造形的実験につながる「発見」を繰り返しながら「彫刻とは何か」を追求したノグチの前人未到といえる創造の軌跡をたどる展覧会が開催中。ジャーナリストの川上典李子がレポートする。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2021年7・8月合併号掲載)
内在する命の表現
エントランスで迎えてくれたのは、150灯もの『あかり』。柔らかな光はもちろん、その軽さについてイサム・ノグチが述べていた作品だ。「《あかり》は重量において軽ライトい。軽さと光ライトを一緒に運んでくる」 その前には円環の彫刻『黒い太陽』。柔らかな光の彫刻と、花崗岩の作品と。二つが連なるノグチならではの世界に、一瞬にして心を奪われてしまった。 日本とアメリカという二つの祖国を持って生まれたノグチ。石彫は22歳のときにパリでブランクーシの助手を務めながら学んだ。さらに洋の東西での出合いを重ねつつ晩年の石彫へと至った、彫刻家の生涯と葛藤、思索の過程が会場から浮かび上がる。デザイナーの三宅一生さんは、ノグチが1952年に広島にて手がけた橋の欄干を身近に過ごすなかで、人を励ますデザインの力を意識したという。そうしたことも思いながら作品を巡っていくうちに、香川県高松市牟礼(むれ)町にあるイサム・ノグチ庭園美術館を訪ねた際の記憶があざやかに蘇ってきた。
地面に打たれた水。土の匂い。吹き抜ける風。「自然石と向き合っていると、石が話を始める。その声が聞こえたら、ちょっとだけ手助けをしてあげるんです」。ノグチの言葉を思い返し、彫刻と自然との分かちがたい関係に心が震えた日のことを……。晩年の『ねじれた柱』をはじめ牟礼から運ばれた大型石彫群で構成されているのは、本展第3章「石の庭」。その世界を東京で体感できる幸せも味わう。
ノグチが向きあったのは、石に内在する命そのものだった。空間と一体となった作品の生命力が、会場を後にした今も、私の胸の奥に響き続けている。
「イサム・ノグチ 発見の道」
会期/2021年4月24日(土)〜8月29日(日)
会場/東京都美術館
住所/東京都台東区上野公園8-36
開室時間/9:30〜17:30(入室は閉室の30分前まで)
休室日/月曜日(ただし、7月26日、8月2日、8月9日は開室)
URL/isamunoguchi.exhibit.jp
Text:Noriko Kawakami Edit:Sayaka Ito