V&A博物館でティム・ウォーカーの個展「Wonderful Things」が開催中
ファッション写真界のストーリーテラー、ティム・ウォーカー(Tim Walker)の個展「Wonderful Things」がロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館で開催中。その見どころをティム・ウォーカー本人の言葉とともに紹介。
「ヴィクトリア&アルバート博物館は、僕にとって夢のパレス––世界で一番インスパイアされる場所」
そのユニークなアプローチとファンタジー溢れる作品で、90年代を代表するファッション・フォトグラファーとしてその名を馳せるティム・ウォーカー。1970年イギリスで生まれた彼は、ロンドンのコンデナストライブラリーのセシル・ビートンのアーカイブで働いたことがきっかけで写真に興味を持った。その後エクセター・カレッジオブアートで写真を勉強し、1994年に卒業後イギリスからニューヨークに単身渡り、リチャード・アヴェドンのアシスタントとして働く機会を得る。その後独立し、自らのファッションフォトグラファーとしてのキャリアを築いていったウォーカー。彼がアヴェドンのアシスタント時代彼から受けたアドバイスは「美しさがすべて」。美しさとファンタジー溢れる彼の作品からは、美しいだけではなく、ユーモアや愛情が感じられる。
そんな彼の大規模な個展「Wonderful Things」が現在ヴィクトリア&アルバート博物館で開催されている。ギャラリー38Aの入り口からレトロスペクティヴと題された部屋に入ると、そこにあるのはウォーカーの過去の作品からピックアップされたポートレート中心の作品。彼のミューズであるティルダ・スウィントン、リンゼイ・ケンプ、クリスティン・マクメナミー、カレン・エルソン、ケイト・モスたちのポートレイトやファッションイメージが時代を追って壁一面に並ぶ。
そこを過ぎると、今回のエキシビションのメインとなるヴィクトリア&アルバートミュージアムからインスパイアされたウォーカーの10のフォトグラフィックプロジェクトが展示されている。ウォーカーが何度も足を運び、あらゆる場所から探し出したV&Aの所蔵作品の数々。そしてそれらからインスパイアされた彼の写真、フィルム、スケッチなどが各部屋に分かれて展示。
このエキシビションのデザインは、いつも彼と仕事をしているセットデザイナーのショーナ・ヒース。そしてV&Aのスザンナ・ブラウンがキュレーターとして参加。2015年から始めて、4年をかけてウォーカーとともにこのエキシビジョンのプロジェクトを完成させた。
ウォーカーは言う。「V&Aのコレクションは、多岐に渡り幅広い。そして心に響くものばかり。フォトグラファーとして、私は今まで写真自体をインスピレーションソースとして見たことがなかった。それは絵画だったり、料理本だったり、新聞だったり;またはソファーの生地やレンガのテキスチャーだったり。様々な物です」。ウォーカーがV&Aの所蔵品からインスピレーションされた数々の中には、中世の手書き写本が書かれたステンドグラス、詩人のイーディス・シットウェルの遺産、ヴィヴィッドなインドの絵画、宝石を散りばめたかぎタバコ入れ、エロティックなイラスト、25mにもおよぶバイユータペストリーの写真、アレキサンダー・マックイーンのドレスなど、多岐に渡る。
彼がこのエキシビションのために撮った新作とともに、彼がどのように写真に向き合い、インスピレーションソースをどのように作品に取り入れているのか紹介されていて興味深い。ここでエキシビションの見所を彼の言葉と合わせて紹介しよう。
Retrospective
レトロスペクティブ
「子供のころ、庭で物語のシーンを作ってそれを写真に撮って遊んだ。何かを想像して、それを現実に作り、写真に収める。それはこれまで一度も変わっていない」
Illuminations
イルミネーションズ
「V&Aのステンドグラスは素晴らしい色が透ける万華鏡。それぞれのパネルは異なる物語を語る。照らされた赤は、母のことを考えました。私が小さな頃、彼女は5つの大きな赤いシルクランプシェイドをリビングルームに作りました。それは冬の夜に家をとても暖かく光る。私にとって色は家を思い起こします。私を一瞬にして感情的な反応を引き起こす透き通るような色は、この写真撮影の主要となるのです」
インスピレーション元:
「V&A所蔵のこのステンドグラスは1520年のもので旧約聖書のトビアスとサラが描かれているもの。カップルは青いベッドシーツの下で穏やかに眠り、その彼らの足下には小さな犬が丸くなっている。そして彼らの後ろには深い赤色のカーテンがかかっている。私は親密で家庭的なこの場面に驚くと同時に、ベッドと大胆な原色を写真に取り込みたいと思いました」
Cloud 9
クラウド9
「V&Aにある南アジアの歴史的絵画を探究することは、私も世界の一部に存在しているということを思い出させてくれる。これらの写真は、その国の活気と神秘主義を称えるとともにその豊かな歴史を伝えたかった。幸運にも、我々がこの作品を製作したときイングランドは熱波に覆われ、ウースターシャー・デルフィニュームのフィールドはインドのような強烈な光に照らされた」
インスピレーション元:
「私が完璧に保存されたこの絵画を最初に見たとき、その不明瞭な動物、虹色の岩そして粉のように青い空に私は魅了された。イメージは多数ある『Harivamsa』のイラストのひとつで、テキストはすばらしいサンスクリット語の叙事詩マハーバーラタに続いて、ヒンズー神クリシュナの命を例示しています。この話は、忠誠、道徳と美徳を探究しているのです」
Pen & Ink
ペン&インク
「私はいつもオーブリー・ビアズリーのイラストのインクのような漆黒で、自信とエロティシズムの部分に魅了されます。V&Aは何十枚と彼のプリントを所蔵している。私は100年以上前に最初に発見されたきよりも、現代の方が衝撃的に受けられていると感じました。私たちは、ビクトリア朝時代の人たちよりお上品なのだろうか? 私は彼の作品を前から知っていたが、プリントを間近で見たとき、私はそれらをすぐに写真で表現することをイメージできました。私にとっての挑戦は、彼の目印となるものを3次元空間で表現すること。私たちは吊るされたワイヤーとビーズを使って空中で絵を描いているようにも感じました」
インスピレーション元:
「これは、オスカー・ワイルドが書いたフランスの劇『サロメ』のビアズリーのイラストの1つ。私にとって、ビアズレーのイメージは、遊びのなかに曖昧にしたジェンダー、エロチシズムと誘惑のテーマを強化しているように見えます。それらは、私にワイルドの有名な言葉を思い出させる:誘惑から逃れる唯一の方法、それは誘惑に屈すること」
Handle with Care
取り扱い注意
「これらの写真は、ミュージアムの管理者、キュレーターそしてアーカヴィストへのラブレターです。彼らの仕事はとても重要です。アレキサンダー・マックイーンのドレスを見ると、V&Aのクロスワーカーズセンターによって特別に包装されているのがわかる。それは、やがて美しいゴーストとなる。これらの写真で私が想像したキャラクターは、ミュージアムで生き返ったマヌカンたち。カレン・エルソンのような素晴らしいモデルたちと仕事をする時、私は時々彼らが私のカメラをコントロールしているように感じるーー私たちはテレパシーを通じたジェスチャーダンスをしているのです」
インスピレーション元:
「私がV&Aのクロスワーカーズセンターで包まれたアレキサンダー・マックイーンのドレスを見た時、妖気漂う、新しい美しさがオブジェの中に佇んでいるように思えました」
Box of Delights
ボックス・オブ・デライツ
「私たちはみな、自分たちが愛するプライベートな世界を秘密の場所にしまい込む必要がある。日記、スクラップブック、電話でさえも。1675年まで遡るV&Aの刺繍が飾られた小箱は、その要求の表明のような感じがします。ファンタジーの対象と変換、それはまるであなたがなりたい人になれる表現の自由が支配するロンドン・クラブ・シーンのような世界を示唆します」
インスピレーション元:
「400年前、ティーンエイジャーの女の子が刺繍の技術を見せつけるために刺繍付きの箱を作りました。私が特にこの箱が素晴らしいと思ったのは、果樹、花、象牙が箱の中に並んだ、それはとても複雑な箱庭。箱のドアを開けると下の部分に、かつての所有者の最も大事にした、秘密のアイテムが入ったかもしれない引き出しが備えつけられているのです」
Soldiers of Tomorrow
ソルジャーズ・オブ・トゥモロー
「この65mもの長さの写真は、V&Aの80万点におよぶ写真コレクションのひとつ。今までこんなに大きな写真は見たことがない。それはバイユータペストリーを表します。それはいつも私を魅了するオブジェ。それは私がタペストリーのカオスと美しさを引き出す写真を制作する時にインスパイアされるもの。ファッション産業は時にとても浪費的で汚染も引き起こすこともある。全てリサイクルされ、自家製で、この撮影のために手で編むという考え方がに基づいて、私たちは様々な方法で物事を再利用しました––––古いアイロン台はシールドになり、掃除機は中世の装置となる……。その姿はエコ戦士です。未来の戦士」
インスピレーション元:
「バイユー・タペストリーは、1066年ヘイスティングズの戦いの原因となった出来事の物語り。オリジナルのタペストリーの色は忠実にロイヤル・アカデミー・オブ・アートの生徒たちによって再現されました。このセクションは、兵士たちが矢で貫かれたり、馬がぶつかりあったりする戦いのシーンが描かれています。私たちの写真では、暴力だけでなく、この1世紀ほど古いタペストリーのすばらしいディテール、テクスチャーや色も伝えたかったのです」
また、このエキシビションの他に、マイケルホッペンギャラリーでウォーカーの「ワンダフル・ピープル」のエキシビションも始まった。こちらはポートレイトの展示が中心。合わせて見たい!
Tim Walker: Wonderful Things
会期/2019年9月21日(土)〜2020年3月8日(日)
場所/Victoria and Albert Museum Galleries 38a and 38
住所/Cromwell Road, London, SW7 2RL
vam.ac.uk
Tim Walker Wonderful People
会期/2019年10月25日(金)〜2020年1月25日(土)
場所/Michael Hoppen Gallery
住所/3 Jubilee Place, London, SW3 3TD
www.michaelhoppengallery.com/
Text: Chise Taguchi