注目の建築家、小堀哲夫による光と風が差し込む研究施設 | Numero TOKYO
Culture / Editor's Post

注目の建築家、小堀哲夫による
光と風が差し込む研究施設

社員が自由に使える2階のオフィス(Photo : Takahiro Arai)

史上初、国内二大建築賞「日本建築学賞」「JIA日本建築大賞」を2017年にダブル受賞したことで注目を集める建築家、小堀哲夫。彼の最新建築「NICCA イノベーションセンター」が10月についに完成した。働く人の心地よさを追求したという、その建築デザインをすみずみまでご紹介。

今回、小堀氏が手がけたのは、繊維加工や金属加工などの分野で研究・事業展開している、福井県に会社を構える日華化学グループの研究所。“イノベーションを起こすために、人間本来の働き方とは何か”を問うワークショップから生まれたこの施設は、新しい発想や意見が飛び交い、人々が交流する、まるでトルコのグランド・バザールのようなオープンな場を目指して設計された。施設内は、“自然と人間の融合”をテーマに、光と風を活かした設計で知られる小堀氏らしいデザインが随所に見られる。

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4階の通路から見下ろした3階のオフィス
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日差しが落ちた夜間の館内(Photo : Takahiro Arai)
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小川が流れる1階のテラス 「自然環境とともに働くことがいかに生産性を上げるのか立証されている」と小堀氏が語るように、建物全体は、季節や時間の経過が感じられるよう自然光をふんだんに取り入れるための幕天井と、キールトラス(トラス構造による大屋根)を用い、1階から4階まで風の流れを上手に利用した開放的なつくりをベースとしている。また、共有スペースのいたるところにグリーンを配し、屋外のテラスには小川を引き、自然環境を感じられるような工夫を施した。さらに、研究室の壁にもガラスを用いるなど明るくオープンにしたことで、従来の無機質で閉鎖的なイメージを覆えすものとなっている。
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オープンラボのような3階のオフィス(Photo : Takahiro Arai) オープンスペース(オフィス)は、可動式のデスクで目的に応じて自由にレイアウトができる。また、壁の一部がホワイトボードになっていて、その場でミーティングやディスカッションを行える、ライブな意見や情報交換をするオープンラボとしての機能も果たす。さまざまな分野の研究者たちが互いにアイデアを出し合い、新たな発想が生まれる“創造の場”になれば、という思いが込められている。

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リビングルームのようにくつろげるライブラリー

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ゆったりと贅沢な空間使いのラウンジスペース

そして、専門書からファッション誌まで揃えたライブラリーなどの共有スペースに加え、自身の研究に没頭できるプライベートな空間も用意。社員の意見を最大限に活かした働きやすい環境が整っている。

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日華の技術と地元の伝統を活かしたアート作品を展示するNICギャラリー

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日華ついて知ることができる9つのショーキューブが並べられた展示形式のオープンスクエア

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ゲストや社員が行き交う半個室の会議室も設置されたラングミュア・アヴェニュー

さらに、社員のみならずゲストにも配慮された構造も魅力のひとつ。日華化学の技術によるパルプと越前和紙を融合させたアート作品が展示されているギャラリーや、誰でも気軽に日華の取り組みについて知ることができる9つの展示ボックスとタブレットも用意。他にも、セミナーや講演会でも使用可能なカフェテリアスペース、木枠やガラス張りで仕切られた半個室の会議室(ラングミュア・アヴェニュー)など、社内外の人たちがコミュニケーションできる場が多く設けられている。

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フロアをつなぐ橋のようにかけられた4階の通路(Photo : Takahiro Arai)

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光が差し込む天井

そもそもこの施設は、2014年6月に日華化学グループのイノベーションを発信し、新たなビジネスモデルを確立すべくスタートしたワークショップがきっかけとなり誕生した。ワークショップには、同志社女子大学現代社会学部現代こども学科特別任用教授の上田信行も招き、日華の社員や地元メディアも参加。そこで主題となった“環境を変えることで働く人の意識が変わる”という考えのもと、職場そのものを“バザール”のようにしようという日華の思いと、小堀氏の建築理念が一つになって、今回の施設が完成した。人間に寄り添うデザインと、普遍的な価値を追求し続ける小堀氏の今後の活躍にも期待だ。

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「NICCA イノベーションセンター」の模型

日華化学株式会社「NICCA イノベーションセンター」
住所/福井県福井市文京4-23-1
URL/www.nicca.co.jp

小堀哲夫建築設計事務所
住所/東京都文京区白山1-5-4 Hakutsuboビル3F
TEL/03-6801-8321
URL/tk-a.jp

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小堀哲夫(Tetsuo Kobori)
1971年、岐阜県出身。法政大学 大学院工学研究科 建設工学専攻。陣内秀信研究室にて修士課程修了後、株式会社 久米設計へ。2008年、株式会社 小堀哲夫建築設計事務所を設立。14年、法政大学 デザイン工学部建築学科 兼任講師に。17年に設計した「ROKI Global Innovation Center – ROGIC-」(静岡県浜松市)が「JIA日本建築大賞」を受賞。同年、国内の建築家に与えられる最高峰の賞「日本建築学会賞」も受賞し、同年内のダブル受賞で史上初という快挙を遂げる。

Photos & Text : Kefa Cheong

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DECEMBER 2024 N°182

2024.10.28 発売

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