俳優、山田孝之が映画『俺はまだ本気出してないだけ』出演を決めた理由 | Numero TOKYO - Part 2
Interview / Post

俳優、山田孝之が映画
『俺はまだ本気出してないだけ』出演を決めた理由

俳優、山田孝之にインタビュー。出演作『俺はまだ本気出してないだけ』の完成直後、作品への想いと演技について聞いた。

──『俺はまだ本気出してないだけ』は漫画原作。市野沢秀一を、どんなイメージで演じたのでしょうか?

「どの作品でも、どんなキャラを演じる時でも行う作業なんですが、脚本を読んで、行動とセリフに対しての“どうして?”という疑問を膨らませます。言葉ひとつとっても、どうしてそんなこと言ったのか、まずは自分の中で納得しないと。今回演じた市野沢の場合は、台本を読んだときのイメージで、なぜこの人はこんなに気だるいんだろう?という疑問から考えはじめました。仕事が長続きしない、むかつくと人に暴力を奮ってしまう、やりたいことがない…その裏側を考えました」

──映画という限られた時間の中で表現するのに、特に意識した部分はどこでしょうか。

「人は何かに対して興味を持つと、もっと知りたい、もっと入って行きたいと思うじゃないですか。興味の対象はそれぞれあって、人だったり物事だったり、仕事だったりします。でも市野沢の場合は、何に対しても関心がないんです。興味が沸かない、気持ちが動かないという感覚の持ち主だってことを、2時間に満たない映像の中で観る人に伝えるには、ある程度の分かりやすさが必要です。どう表現しようかと考えたとき、分かりやすいのは声の小ささと動きの遅さだと思って。自分もそうですが、相手に意志を伝えたいと思えば思うほど、声は大きくなりますよね。でも、意志を通そうと思わない市野沢は、声を張らないはずだと。動きも同じです。例えば、クニさん(蛭子能収)のお店で市野沢と宮田(生瀬勝久)が飲んでいて、そこにシズオ(堤真一)がやってくるというシーンがありますが、ガラガラと大きな音を立てて扉が開くと、店の中の人は、誰が入って来たのか気になって扉の方を見ます。そこでも市野沢だけは、ワンテンポ遅く動くようにしました。彼は、敏感にその音に反応したりしないはず。シズオが来たと知ってから、ゆっくりそちらを見るようにしたんです」

──現在、山田さんは29歳。26歳で定職に就かず、将来について悩む市野沢について“同世代”という感覚はありますか?

「市野沢、26歳ですか…。役の年齢の設定って、考えた事がほとんどないかもしれません。年齢は気にしないです。年齢よりも、その人がどういう環境で育ってどんな状況にいるか。この作品だけじゃなくて、他の作品も、例外なく。年齢よりはそっちで考えます。だから同世代という意識はしていなかったですね」

──では、“26歳はどんな感じだったかな…”など、ご自身の年齢を振り返ることもなかったのでしょうか。26歳というと、同じく福田雄一監督作の『大洗にも星はふるなり』の製作発表をされた頃かと思いますが。

「作品では思い出せます。今聞いて“ああ『大洗にも星はふるなり』は26だったんだな”って。26歳って、25歳を折り返してその先の30歳を見はじめた時だろうから、次は30に向かうんだって思ったくらい。他に変わったことはなかったかな。27歳の時は、カート・コバーンとか、ロックスターが死んでいった歳と今同じなんだなって思ったりしましたけど。振り返ったりは、あまりしない方ですね」

──普段は振り返らないんですね。あえて20代前半を思い返してみると、変わったところはどこでしょうか。

「変わったところって年齢というよりは、積み重ねた分、経験値。得たり失ったりしているので、感覚は変わって来ているはずです。ものごとの考え方がシンプルになってきたかなとは思います。昔より、掘り下げすぎないようになってきました」

──主人公のシズオは、突然会社を辞め、アルバイトをしながら漫画家を目指す40歳。40代になったときのご自身を想像するとどうですか? 将来の目標はあるのでしょうか。

「役の年齢を気にしないのと一緒で、自分の年齢にもそこまで執着がないです。もう30になるし、考え方もシンプルになってきて、ここからは40になっても50になっても変わらないかな。それこそ堤さんとか、周りの先輩方を見ていても年齢的な部分で感覚が違うと思うことはないですから。僕には、“一生役者を続けて行くぞ”という強い意志がある訳ではないんです。今も楽しいからやらせていただいてますが、“舞台上で死ぬ”と言い切るのもおこがましいですから。他にもっと熱中できることができたら、どんな年齢だろうと切り替えたら良いと思っているし、しがみつくものでもない。好きなようにすればいい。何よりも、いつ死ぬか分からないっていうが常にあるんです。明日死ぬかもしれないのに、来年や5年後、10年後を考えてても仕方ない。10年先を考えてるとき明日車にひかれて生死をさまよったら、後悔が大きい。だったら、今目の前のものを全力でやりたい。今は役者としてこの作品に巡り会ったのだから、よし楽しもう!と。それが次々やってきて、経験値になっていく。人生なんて、どこに向かって行くと決める必要ないと思っています。これから先の10年で、どれだけの楽しいことと辛いがあって、どれだけのお金が入って消えて行って…。10年分本気で考えたら、頭痛くなりますから」

きっかけを与えられる、映画というのはそういうものであってほしい

Photo:Maki Saito(Portrait)
Interview & Text:Yukiko Shinmura

Profile

山田孝之(Takayuki Yamada)俳優。1983年鹿児島県出身。「ちゅらさん」「ウォーターボーイズ」「世界の中心で、愛をさけぶ」「白夜行」「勇者ヨシヒコと魔王の城」など多くにTVドラマに出演。2005年の映画「電車男」で主演を務める。その後も、「手紙」「クローズZERO」「鴨川ホルモー」「十三人の刺客」「闇金ウシジマくん」「その夜の侍」「ミロクローゼ」ほか数々の作品に出演。福田雄一監督作品「俺はまだ本気出してないだけ」では、社会になかなか溶け込めない青年、市野沢役を好演。今後は「凶悪」、2014年には「土竜の唄」「MONSTER(仮題)」が公開予定。

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